【魔法×YouTuber】底辺魔道士ぼやき配信してたら、精霊のイイネで魔力が超インフレ!そして聖者になるチエリーさん【悩み解決・村落防衛・ダンジョン攻略】
第38話 縛られたチエリー、ご主人に罵られる
第38話 縛られたチエリー、ご主人に罵られる
「財宝の情報は一切秘密なのです。目的地も、道順も!」
マリモは言いながら、私の手を縛り始めた。
「到着まで絶対にほどいてはなりません!」
そう言って、今度は上半身を縄でぐるぐる巻きにしてきた。
「そこまでするのぉ~?」
囚人みたいじゃんこれ。
ギュッ!
力強く縛られ、中身が出そうになったが、朝食を食べていないので大丈夫だった。
「では、ご案内します……」
マリモが手を引いてきた。
私は長年慣れ親しんだ下宿の階段を、子どもみたいにおぼつかなく降りていった。
えぇ~? これドッキリじゃないよね?
『この依頼、嘘でした~!』とか言って、落とし穴に落とされて貴族の慰み物にされたりしないよね?
「足を上げて下さい、馬車に乗ってもらいます」
「う、うん……」
ギシッ……。
「そこに腰を下ろして下さい」
馬車の椅子に座るのかと思ったら、どすんってなって、ぼろっちい板に直座りだった。
これ荷車じゃん……。
「出発します。はいよー!」
「プヒー!」
鳴き声はロバだった。私は村娘の頃に見たことがあるから、この間抜けな声が馬じゃないこと知ってるんだ。
こうして私は頭に袋を被されて、縄でぐるぐる巻に縛られて、ロバの荷車でどこかに連れ去られていった。
***
そして、今に至る。
乗り心地は最悪――。悪路でばらばらに分解しそうな荷車で、何時間も揺られてる。
化粧までしてウキウキしてた早朝の私に教えてやりたいよ。
そんなもん一つもいらないって。どうせ袋被せられるから、寝癖でもいいし、よだれの痕ついてても問題ないよ。
どうなっちゃうのかな、これ。
視界を奪われていると不安ばかりが膨らむ。
本当にこれ、貴族の依頼なんだよね?
馬車とか言われてロバに乗せられるの意味が分からないし。
マリモはさっきから何を聞いても答えてくれないし。
同行している『主人』とやらも変なやつだし。
「あの……。ご主人? 私はずっとこのままなんだろうか? せめて手の縄をほどいてくれないだろうか? 揺れたときに転がり落ちそうになるし、今は鼻がかゆいんだ」
私は何度目かの陳述を試みた。
「我慢するですぅ。おまえは信用出来ないですぅ」
マリモの主人――クク・ピリカラニカが答えた。
「護衛するからには信用して欲しい。冒険者ギルドにも守秘義務はある――」
「黙りやがれですぅ。使ってもらえるだけでありがたく思うがいいですぅ」
これだよ~~。
嫌なタイプの貴族だよ。いまどきこんな貴族いるのかな?
声の感じからするとけっこう若い女性のような雰囲気もある。
この依頼、本当に大丈夫なんだろうな?
これやっぱりドッキリなんじゃないの?
到着したら落とし穴に落とされて、貴族の子弟たちがグラスでワイン飲みながら笑ってるような、ろくでもない見世物にされるんじゃないの?
『楽しかったよ、これは取っておきたまえ』とか言って端金渡されたりしないよね?
そんなことされたら泣くぞ……!
最初のうちはククとマリモがロバにまたがっていた気配だったが、ロバが「プヒィ~~!」と哀しくあえぎ始め、乗るのをあきらめたらしい。
「使えない駄馬ですぅ~」
ククがぼやいた。
二人はロバを降りて、手綱を引いて歩き始めた様子だった。
ひそひそと会話をする声が聞こえ、私は耳を傾けた。
「ククさん、もうちょっと大きな馬は借りられなかったのですか?」
「仕方がないですぅ。貸し馬車は高いですぅ。これしかいなかったですぅ」
「それにしても荷車は泥だらけだし、まるで農作業に行くみたいじゃないですか」
「そのへんの農家からパクってきたから仕方ないですぅ」
「パクってきた? まさか盗んだのですか?」
「人聞きの悪いことを言うなです。徴発したですぅ。貴族に許された特権ですぅ~」
「えっ! 今はそんな特権ないですよ。貴族に特権があったのは昔のお話ですよ」
「か、かまわないですぅ! お宝を見つけたらゴールドをつけて返してやればいいですぅ! 農家なんか貧乏だからゴールドもらえば大喜びで頭下げてくるですぅ」
「ククさんッ! そういう考えはダメです!」
「やかましいですぅ。おまえは黙って言うことを聞いていればいいですぅ。分け前が欲しかったら大人しくしてるですぅ!」
「私は分け前が欲しくてついてきたのではありませんっ!」
「きれい事を言うなですぅ」
「ククさんッ!」
二人はギャーギャーと口げんかを始めた。
主人に口答えするメイドというのも珍しい感じだが、主人が非常識なやつなので諫めるのは当然とも言えた。
なんかさあ。この依頼人、ろくでもないんじゃね?
大人しくついていったらひどい目に遭いそうだぞ。
わかってきた――。
この依頼が何度も、冒険者側からキャンセルになっていた理由。
あれはマリモの腕試しのせいだと思ってたけど。
本当の理由はククのせいかもな。
『依頼人がめちゃくちゃ気難しい女の子』ってククのことじゃないかな?
私は二人の口げんかに割って入る形で声を上げた。
「すまないがご主人! 話が聞こえてしまった。私はロバ泥棒の片棒は担げないぞ。今回の依頼、もう少しきちんとした説明が欲しい! ダンジョンの財宝探しというのも本当なのか? わけも分からず連れて行かれて、泥棒の手伝いさせられたらたまったもんじゃないぞ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます