第37話 チエリーのモーニングルーティン
ガイイイイイインンッッ!!
メイドのメイスは私の脇腹に激しく衝突。メイドの手からすっぽ抜けて吹っ飛んでいった。
メイドは武器を失い、きれいなフォームのまま残心している。
『チエリー・ヴァニライズ
耐久:60』
私の耐久は一撃で30削られた。あっぶねえ~~。この子、騎士の上級スキルくらいの攻撃出してきたよ。
「なぜ……」
メイドが自分の手を見つめながら言ってきた。
「……?」
「なぜ反撃なさらないのですか?」
「魔法は威力が大きくてね。軽々しくは使えない。キミの必殺技は攻撃力30だが、私の攻撃魔法は最低でも攻撃力50だ。怪我をさせてしまいそうだ」
「お強いのですね……」
「私一人で騎士20人ぶんほどの戦力はある」
「そんなに……!」
メイドは目を大きく見開いた。
「これは腕試しと言ったところかな?」
「はい、失礼しました。試させていただきました」
メイドは深々と頭を下げた。ボリューミーなおだんごヘアがゆさっと揺れた。
「私は役に立てそうかい?」
「十分です。よろしくお願いいたします。後日、準備ができ次第チエリー様のご自宅へお迎えにあがります」
「よろしく頼む」
「私はマリモ・マリメッコと申します。当日には私も同行することになります」
主人の護衛を務める、バトルメイドってやつらしかった。
ダンジョン探索の前衛をやってもらうには頼もしそうな人材だと思った。
そして3日後の早朝。
コンコン……、と下宿のドアがノックされた。
「チエリー様、マリモ・マリメッコです。お迎えに上がりました」
「今行く。10分ほど支度の時間をもらいたい」
私はそう言って、急いでベッドから抜け出した。
肌着のまま洗面台に行って、くみ置きの水で顔を洗う。ブラシで髪もとかした。
シュババババッと着替え、ブーツを履いた。
それから、口紅を手に取った。
冒険者に化粧は不要、と普段は思っている。
どうせすぐ埃まみれになるし、荒くれの冒険者に舐められかねないので、おしゃれ行為は慎んでいる。
だが、今回の依頼人は貴族……。失礼があるのはよくないだろう。
私にはもうからくりが読めていた。
今回の依頼の、度重なるキャンセル情報。
依頼人が気難しい女の子で、何度も冒険者の方からキャンセルしていたというが――。
これはおそらく、マリモ・マリメッコのことを言っているのだ。
冒険者たちはマリモの腕試しで負けてしまい、やむなくキャンセルすることになった。
メイドの女の子に叩きのめされたなんてギルドに言えないから、「依頼人が気難しい女の子だった」なんて報告したのだろう。
マリモの審査を通ったのは私が初めてに違いない。
とすると私は、財宝に最も近い冒険者と言えよう――。
ふふふっ……。
私は頬に薄桃色のチークを塗りながら、にやついてしまう。
財宝の3割は案外簡単に手に入るかも知れない。
王家の財宝の3割、どれくらいの価値なんだろうか?
チラリ……。
窓越しの路地に目をやった。
この下宿は一階が酒場なせいで、付近の路地もあまり雰囲気がよろしくない。
今日も早朝から、酔っ払いが路上にゲロを吐いていた。
そのゲロを、鳩がついばんでいた。
それを見た芸術家らしき人が、これぞ人間の営みだよ! みたいな顔をして、一心不乱にスケッチしてる。
イカレてんなあ……。
こんなところ早く引っ越したいよ。
窓から見える光景は、爽やかな湖か、美しい庭園であってほしいものだ。
財宝が手に入ったら、まずは引っ越しだな!
などと考えながらチークを塗っていたら、塗りすぎて北方の子どもみたいなリンゴほっぺになってしまった。
むむ……!? やり直した方がいいか!?
コンコン!
「チエリー様、まだでしょうか?」
「あっ、今行く!」
化粧など直している暇はないようだ。
リンゴほっぺの私は支度してあったリュックを背負い、朝食の堅パンを上着のポケットに突っ込んで、ドアを開けた。
「おはようございます。後ろを向いてもらってよろしいでしょうか?」
マリモは挨拶もそこそこに妙なことを言い出した。
「……?」
貴族のしきたりか何かがあるのかなと思い、私はその場で後ろを向いた。
「失礼――」
マリモが手を回してきて、私の目に布が当てられ、ぎゅっと縛られた。
「こ、これは……? 目隠し!?」
「絶対に取ってはなりません」
ガボッ!
私は頭から袋をかぶせられた。
いったい何が始まるの……!?
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