第35話 緊縛プレイされるチエリー
そして3日後――。
私は頭から袋をかぶせられ、胸のあたりからロープでぐるぐる巻きに縛られて荷車に乗せられていた。
何も見えない。行き先は分からない。道が悪くてやたら揺れる。
「プー! ブルブル! プー!」
鳴き声からすると、馬じゃなくてロバが荷車を引いているようだった。
「プー! ブルブル! プヒー!」
ロバの鳴き声と、悪路を行く荷車のがたつきだけが耳に響く。
今日は朝からずっとこんな調子で、ほぼ護送される囚人だった。
どうしてこうなった……?
そんな思いが頭をぐるぐるしていた。
私は3日前の、依頼を受けるところから思い返す――。
***
今回の依頼はお金儲けが目標。
ただ、完全にそれだけだと、精霊の不興を買う不安もあったので、『困っている依頼人』を選びたいと思った。
「そういう依頼あるかな? 残り物みたいな、誰からも相手にされてなくて、なおかつお金儲け出来そうな依頼」
私の面倒くさい注文に、受付嬢はさほど困った様子もなかった。
記憶を探るように宙を見つめると、ぱらぱらぱらーっと依頼書の束をめくり、一枚差し出してきた。
「これなんかどうでしょう?」
『求む! 宝探しの護衛。
建国時代のダンジョンに潜り、宝物の発掘作業をやるです。
ダンジョン探索の護衛をお願いするです。
どんな強い魔物やトラップがあるか分からないので、できるだけ強い人がいいです。
報酬:見つけた宝の3割。
依頼人:クク・ピリカラニカ』
「あっ、これは確かに残り物の依頼だなぁー」
一目見てそう思った。
報酬は成功報酬だから、額面がいくらになるのかも分からない。ガラクタしか出なければガラクタの3割ってことだ。
それに建国時代のダンジョンというのも怪しい。
うさんくさい噂をよく聞くのだ。
建国の英雄の隠しダンジョンがあるとか、初代女王の財宝が埋められているとか――。
噂だけはよく聞くが、その出本はだいたいインチキの地図を売る詐欺師だ。
まともな冒険者なら回避する案件だった。
「何名か、この依頼を受託した冒険者はいるようです。でも、全部冒険者側からキャンセルしてるって情報がついてます」
「地図がインチキで逃げ出したのかな?」
「いえ、目的地に到着する前にキャンセルしてるんです。なんか依頼人がめちゃくちゃ気難しい女の子だとか――」
「子どもの遊びってこと……? それは私も避けたいな……」
「かもしれませんが、私は信憑性を感じるんですよ。依頼人の名前が気になるんです」
受付嬢は依頼書の一点を指差した。
依頼人の名は、クク・ピリカラニカ――。
そこで私も気がついた。
「王家の名前かこれ」
シャフトロニカ王家には沢山の傍系の貴族がいて、その一族はだいたいが『~ニカ』という家名を持つのだ。
「ですよね? 王家から出てきた話なら本当かも知れませんよ」
「おもしろい……。本当に王家の財宝だったら、3割って相当な額になりそうだね。私は下宿の一階が酒場でうるさいから引っ越したいって思ってたんだけど、お城が買えるかもしれん」
「『狭狭亭』も『広広亭』になっちゃうかもしれません!」
「夢膨らむねぇ~。これ、引き受けよう!」
私は依頼書を手に取って、いそいそと上着のポケットに突っ込んだ。
「お願いしますよ、チエリーさん!」
受付嬢も明るい声になった。
「次回は馬車で来るよ! 御者付きの!」
そんな冗談を言いながら、青空の下へと歩み出したのだった。
依頼人は王都の外れにある屋敷に住んでいた。
二階建てでそこそこな大きさがあり、バルコニーまでついていて、これはやはり貴族のお屋敷だなあと思ったものだった。
家の前で掃き掃除をしていたメイドがいた。
ボリューミーに束ねたおだんごヘアをした、若いメイドだった。年の頃は16、7といったところか。
「仕事中すまないが、クク・ピリカラニカ殿に取り次ぎを頼みたい」
私はそう言ってから名を名乗り、ギルドからの紹介でやってきた魔道士であることを伝えた。
「その件でしたら私が承るように言われています。失礼――」
失礼? 何のことだ?
と私が考えた瞬間。
「ほうき剣ッッッ!!!」
メイドは至近距離からほうきを振りかぶり、
シュバッッッ!
私の脳天に叩き付けてきた。
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