第29話 モコッチ村防衛戦2

 次の家にたどり着いた。


「助けに来たぞ――ッ!」


 呼びかけると同時にドアが開いた。


「村はどうなってるの!?」


 たいまつを持った子どもが一人。10才くらいの女の子だ。


「待ってただよぉ~~」


 続いておばあさんが一人。避難のためにかき集めたらしき大荷物を背負って出てきた。リュックがぱんぱんで傘やパンがはみ出している。


「村は魔物の襲撃に遭ってる。みんなを避難させてるところだ。次の家に行くぞ!」


 と言って顔を上げると、ガシャン、と窓が割れるような音がした。


「~~~~~ッッ!!」「逃げろ!」「キャァッ!」 


 向こうの家から悲鳴が聞こえた。窓越しの明かりが激しく揺れ動いている。家に魔物が入り込んだらしい。


「今行く――――ッ!!」


 私は全力で駆け出した。


 しかし距離がある。


 バタンッ!


 向こうでドアが開いた。


「うわあああああん!」「ああ~~~ん!!」


 星明かりの中を二人の子どもが泣きながら飛び出してきた。


 私は周囲に視線を走らせ、目につく魔物全てを撃った。


氷塊投擲呪文チルビット! 氷塊投擲呪文チルビット! 氷塊投擲呪文チルビット!」


 冷気と霜の光が飛び散り、氷塊が次々に魔物を射貫いていく。


「ハルカのところに行け!」


 叫びながら走り抜け、2人の子どもとすれ違う。


 さっきの悲鳴は3人ぶん聞こえたし、まだ会っていない村人がいる。


 村長さんとまだ会っていない。


 あの家に村長さんが取り残されている!


「村長さ――――んッ!」


 そのまま勢いを落とさずに、襲われた家に飛び込んだ。


 灯明の光を背景に、歩き樹木ギリーマンの姿が視界を遮っていた。家の中に入り込むには身体が大きすぎるらしく、針葉樹じみた手足を折り曲げて、窮屈そうに暴れている。


「村長さ―――ん!!」


 部屋の中に視線を巡らす。


 歩き樹木ギリーマンの身体に絡まる間仕切りの布。


 引き出しが開いたチェスト。崩れた食器棚、割れた食器や転がった鍋。倒れた椅子。


 いた……!


 村長さんはテーブルの下に潜り込んで、身体を丸くして祈るように手を組んでいる。


氷塊投擲呪文チルビット!」


 ドパンッッ!!


 私は侵入者の頭を粉々に吹っ飛ばした。力を失った身体が崩れて、部屋の中に倒木が発生したみたいに家具を荒らす。


「村長さん無事ですか!?」


 私の問いかけに村長さんは、 


「@*@%#+&!」


 うん、相変わらずなまってて分からないが、元気そうだ。


 私は村長さんに手を貸してテーブルの下から引っ張り出し、身体を支えながら皆のところへ戻った。




「残りの村人は?」


 私が尋ねると、ハルカが答えてくれた。


「もう大丈夫だよ! これで全員だ」


「ここに全員いるのか?」


「うん! 点呼取っただ! 村人10人みんな無事だ」


 聡い子だ。森の外の学校に通ってるだけのことはあると思った。


「このへんで一番安全なところは?」


「そんなのないだよ……。周り中全部森だ。森の中はどこも魔物がいるだ」


「じゃあ一番魔物が来なさそうなところは?」


「++$&&@……%%@##ちゃ?」


 村長さんが何かを言った。


「あっ、そっか。そう言えばそうかも知れない!」


 ハルカは何事か感心している。


「通訳してくれる?」


「町に近づけば近づくほど魔物が出なくなるんだよ。そっち方向なら大丈夫かも知れない」


 なるほど……。町方面は人間の縄張りだと思って、魔物も避けてるのかもしれない。


「よし、町に逃げよう。みんなで」


 私はそう言って全員の顔を見回した。


 青い星明かりの中。10人ぶんの瞳が私を見ている。不安に眉を寄せ、涙をためて、私を見つめている。


「村はどうするの?」


 ハルカが問いかけてきた。


 私はその質問に直接は答えられなかった。


 瞳の中のステータスをもう一度見る。


『チエリー・ヴァニライズ

 魔力:340』


 ここへ来るまで、一匹につき200~500の魔力を消費した。


 できるだけ相手の生命力に合わせて魔力を節約しながら撃ったのだが、それでももうギリギリだ。


「私はもう魔力がないんだ。あと1、2匹倒すくらいの魔力しかない」


「逃げるしかないってこと?」


「ああ。でもまだ、できることはある。それを試してからみんなと逃げるよ……」


 私は胸元から精霊石のチョーカーを引っ張り出した。透き通った表面にたいまつの光が映り込んでいる。


 精霊石に向かい、告白の儀式コンフェッションを始めた。


「精霊さん、お願いがある――。


 モコッチ村が今、魔物に滅ぼされようとしている。


 この村は貧しくて討伐隊を雇うこともできない。役所にも移転しろと言われた。


 ギルドに討伐依頼を出しても長年放置されてきた。


 誰からも見捨てられてた村だ。


 私がやらないと、他にいないんだ!


 精霊さん頼む……! 力を貸してくれっ……!


 魔物から村を守って、子どもたちがお父さんとお母さんと一緒に暮らせるようにしてやりたいッ! ばあちゃんとじいちゃんもだ! 家族みんなが暮らせる村を取り戻したいッ!


 そのための力をくれッッ……!!」


 私は目を閉じて、祈った。


 チチチッ……。


 精霊石が鳴った。


 まぶたの裏に金糸のような光が走り、メッセージを形作る。


『支援。魔力:+2500』『支援! 魔力:+3010』『支援。魔力:+3200』『支援! 魔力:+3450』『支援! 魔力:+4050』『チエリーがんばれ! 魔力:+3800』『協力する! 魔力:+5600』『超支援。魔力:+6000』『防衛しろ! 魔力:+7000』『子どもたちを助けて! 魔力:+10000』『ばあちゃんもだ! 魔力:+10000』『弱きものを救うべし! 魔力:+17000』


 送られた投げ魔力が合計され、ステータスが書き換わる。




『チエリー・ヴァニライズ

 魔力:75950』


 私の魔力は、340から75950に上昇した。


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