第28話 モコッチ村防衛戦1

「村全部がヤバイかもしれない! 急いで服を着ろ!」


 私も部屋に戻り、服を着てブーツを履く。 


 上着に袖を通し、魔道士の杖を握りしめた。


 バリバリッッ!!


 ドアが破れる音が聞こえた。


 私は身を翻し、破れたドアに魔道士の杖を向けた。


氷塊投擲呪文チルビット!」


 詠唱とともに氷の塊が宙を走り、ドアの裂け目を突き抜けた。


 ドパンッッ!


 歩き樹木ギリーマンは瞬時に凍り付き、頭部が砕け散った。 


歩き樹木ギリーマン

 生命力:0』


 仕留めたようだ。だがこれ一匹で終わりとは到底思えない。


「ハルカ、裏口は?」


「こっちだよ!」


 ハルカは既にたいまつを用意していて、火を灯していた。モモカの頭にはお鍋をかぶせている。それはいい考えだと思った。


「よし、そっちから出るか」


「うっ、うう~~っ!」


 襲撃の恐怖にモモカが大粒の涙をこぼし始めた。


 ハルカがぎゅっと抱き寄せて語りかける。


「大丈夫だ。魔道士さんがいるから大丈夫だ。姉ちゃんもいるし、母ちゃんのお鍋が守ってくれるから大丈夫だ」


 モモカは鍋の持ち手をぎゅっと掴み、泣きながらうなずいてる。 


 涙は止まらないようだが気力は持ち直したようだ。


 私は姉妹の先に立ち、裏口のドアをそっと開けた。




 夜闇の中、村の光景に目を凝らす。


 やっぱ、いるなぁ……。


 丸い家屋と畑と庭木が点在する中、針葉樹のような歩き樹木ギリーマンの影がそこら中にうごめいていた。庭木と間違うような大きな影までがいる。


「村のみんな―――っ! 魔物が来てるぞ――――ッ! 避難の用意をしろ――――ッ! 今から私が迎えに行く――――ッ!」


 私は声を張り上げながら、路地に駆け出した。


 私の動きに反応して、歩き樹木ギリーマンたちが一斉にこちらに向かってくる。


 目についた魔物に手当たり次第に魔法をぶっ放す。


氷塊投擲呪文チルビット! 氷塊投擲呪文チルビット! 氷塊投擲呪文チルビット! 氷塊投擲呪文チルビット! 氷塊投擲呪文チルビット!」


 氷塊が続けざまに放たれる。


 ドン! ドサッ! ドパンッ! パリンッ! ドザッ!


 木が倒れるような音を立てて、次々に歩き樹木ギリーマンが倒れていく。


 本当は歩き樹木ギリーマン相手には火球投擲呪文ファイヤビットの方が向いているのだが、村の中でそこら中に火を放ったら、火事になってしまう。


 私はできるだけ村を守りたかった。そんな余裕があるのかは分からないが……。


「みんな―――! 魔物が来てるよ―――ッ! 魔道士さんが迎えに行くから待ってて――――ッ!!」


 ハルカが後ろから声を上げ、村人に警戒を促す。


 カン! カン! カン! カン! カンッ!


 モモカが拾った石ころで鍋を叩き、警鐘を鳴らしてくれた。


 いいね、お年寄りは耳が遠いかも知れないからね!


 でも鍋かぶったまま叩くのは耳がつらくないかい?


「魔物だよ―――ッ! 魔道士さんが行くから待ってて――――ッ!!」


 カン! カン! カン! カン! カン! カンッ!


 派手に騒ぎながら、一番近くの家にたどり着いた。


「無事か――ッ!? 一緒に避難するぞ――ッ!」


 ノックをするやいなや、おばあさんと二人の子どもたちが飛び出してきた。寝間着の上から服を羽織り、靴を履いている。


「魔物いっぱい来てるな? どうなってんだべ!?」


 おばあさんは目覚めたばかりでいささか混乱している様子だ。


「うわああん!」「ふぁああん!」


 子どもたちはもうわけが分からず恐怖にとらわれている。


「魔物が村を奪いに来てるのかも知れない。避難しよう。次はどの家に行けばいい?」


「あっちとあっちだ!」


 おばあさんが指差した方角には、丸い家屋の影が二つ。


 カーテン越しの窓に、ぼんやり明かりが点いて見える。私たちの呼びかけで目を覚ましたのかも知れない。


「よし、みんなで行こう」


 私たちは明かりの点いた家に走る。


 暗がりから魔物の影が次々と向かってくる。


氷塊投擲呪文チルビット! 氷塊投擲呪文チルビット! 氷塊投擲呪文チルビット! 氷塊投擲呪文チルビット! 氷塊投擲呪文チルビット! 氷塊投擲呪文チルビット! 氷塊投擲呪文チルビット!」


 魔道士の杖で素早く照準し、立て続けの呪文詠唱――。


 幾筋もの氷塊の軌跡が、歩き樹木ギリーマンを貫いていく。


 ドバン! パンッ! ドサッ! ドンッ! ドンッ! ドドン! ドザッッ!


 歩き樹木ギリーマンは私たちに近寄る間もなく倒れていく。


「すごいだ!」「ふわぁ……!」「魔道士さんは強いなぁ!」「かっこいい……!」「魔道士さんありがとうだべ……」


 子どもたちは感心し、おばあさんは礼を言ってくれるのだが、まだ早い。


 敵の数が多くて魔力がみるみる減っている。


『チエリー・ヴァニライズ

 魔力:2040』


 最初6000以上あったのに、今はもうこれだ。全員の避難まで持てばいいが――。


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