第26話 アーティファクト

 私はふふっと微笑んで言う。


「魔道士は弱きものを救うべし。魔道士は奉仕のために生きるべし。――魔道士の基本なんだけど、私はこれを忘れちゃってさ、自分の生活第一に仕事をしてたんだなあ。そのおかげで精霊さんに嫌われちゃってね、底辺魔道士になったんだ。だから私はやり直すことにした。初心に立ち返ってね。そのためにこの村に来た」


「魔道士さんッ……!」


「力不足で申し訳ないが……。できるだけのことはしたい」


 私はそう言って微笑みかけた。


「ありがとう!」


 ハルカはうるうるしている。


「問題はゴールドだよなあ……。430万ゴールドくらい都合つけばなあ……」


 私はハーブティを飲んで息をついた。


「うちの村は貧乏だ……」


 ハルカもちびちびとハーブティーを飲んでいる。


「それはなんとなく察してる。自給自足の村だしな。大人が出稼ぎに行ってるくらいだし……」


「んだ……」


 ハルカはうなだれている。


「ちなみに……。こういうときに使えそうな知識をギルドで聞いたことがあるんだ。地方の村には、意外な価値のある美術品や、古代遺物アーティファクトが眠っていることがあるんだって。それをゴールドに換えれば窮地を救えることもあるらしい。そういうものに心当たりはないかい?」


「…………」


 ハルカはじっとテーブルを見て考え込んでいた。


 やがて思いついたように立ち上がり、部屋の奥に行ってごそごそやり始めた。


 おっ? 何かあるのかな?


 戻ってきた。


 手には大きなキノコの形をした陶器を持っていた。


 かなり美しい形をした陶器だった。名だたる陶芸家の美術品だろうか?


 ハルカはキノコの陶器をテーブルに置いた。


 私は鑑定をすべく、陶器にそっと触れた。


 キノコの傘の部分には、『1万ゴールドたまる貯金箱』と書いてあった。


 貯金箱!? 美術品じゃない!?


「これを割るだ」


 と、ハルカはおっしゃった。


 私、美術品か古代遺物アーティファクトって言ったよね?


 この子、人の話聞いてないタイプかな?


「これでなんとかお願いするだ」


 そう言ってキノコを持って振りかぶる。


 チャリンチャリン、と硬貨が弾む音がした。


 明らかに一万ゴールドたまってないし、硬貨の枚数も分かりやすく少ない。


「いや、割らなくていい。せっかくの貯金箱がもったいない」


「でも……。割らないと村を救えないし」


 割っても救えないから。500ゴールドくらいしか入ってないんじゃないかそれ?


「いやいや」


「でもでも」


「いやいやいや」


「でもでもでも……」


 私がハルカと押し問答していると、


「モモカもあげる!」


 どん! と小さなキノコの陶器がテーブルに置かれた。


 キノコの傘の部分には、『1000ゴールドたまる貯金箱』と書いてあった。


 きみも持ってきたかぁ~。


「いや、大丈夫だよ」


「モモカもあげるの!」


 そう言って振りかぶる。


 チャリン、と一枚しか硬貨が入ってない音がした。


「いや、大丈夫。気持ちだけで十分だ」


「でもぉ~」


「大丈夫大丈夫、ありがとう」


 私は表情が緩んでしまう。


 この子たちのこと、絶対助けてやりてぇなぁ…………!!




 めちゃくちゃ堅い黒パンをスープに浸しながら食べて、夕食を終えた。


 スープはタマネギとハーブがたくさん入っていておいしかった。 


 就寝の時間になり、ハルカの母親が使っているベッドを借りることになった。


 肌着になり、布団に潜り込んだ。


 灯火を消すと、窓の向こうに星空が広がっていた。


 どこからかゆったりとした歌声が聞こえてきた。


「~~~~♪ ~~~~~~♪」


 村人の誰かが魔物除けの歌を歌っているらしい。


 やがて、隣の部屋からハルカの歌声も聞こえてきた。


「帰ろう~故郷へ~♪ モコモコの~森の道~♪」


 妹に歌って聞かせているのか、子守歌みたいに穏やかな歌い方だった。


「母なる世界樹~木陰で涼み~♪ 私の故郷~モコッチ村~♪」


 ハルカの歌声を聞きながら、明日のことをいろいろと考えた。


 どうやってゴールドを工面したらいいのか。


 ゴールドなしでどうにかならないものか。


 少ない戦力で村を守る方法はないものか……。


 ぐるぐると考えた。


「…………」


 私はベッドから抜け出して、彼女たちの部屋へと行った。


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