第25話 戦力計算

 チ、チィー……。


 精霊石が鳴った。




『話、長過ぎ。魔力:+0』


『言い方。魔力:-100』


『なんかセコい。魔力:-100』


『一応支援。魔力:+200』


『まあがんばれ。魔力:+200』


『なんか気持ちよく支援出来ない。魔力:+50』


『ゴールドの未練ありすぎ。魔力:-100』


『心が卑しい。魔力:-100』




 やべ、賛否両論だ。評価が分かれたか。


 底辺暮らしで染みついた心の卑しさまでは隠せないようだ……。


 ってその結果は……?


『チエリー・ヴァニライズ

 魔力:6340』


 あーくそ、トータルで魔力50しか増えてない。失敗だわ。


 告白の儀式コンフェッションは結構難しいんだよね。精霊さんの心を掴み損ねると、マイナスもあるからね……。






「どうぞ、村の自慢のハーブ茶だよ」


 ハルカにもらったお茶をすすると、柑橘類やベリーのよい香りがした。


「クッキーどぞ」


 モモカが菓子皿を運んできてくれた。パンケーキみたいに馬鹿でかい焦げ気味のクッキーが載っていた。


「モモカが焼いたの……」


 モモカは照れながら言っている。ちょっとは私に慣れてくれたかな?


「豪華だねぇ」


 私は端っこをつまみ割って口に放り込んだ。


「うん、おいしいよ」


 素朴な甘味が疲れた身体に染み渡る。


 モモカはキャーと喜んで部屋の中を走り回った。


 私は食卓の椅子でくつろぎながら、部屋の中を見回した。


 パン焼き釜や竈があり、タイル張りの調理台に鍋が並んでいる。


 壁面には紙切れがたくさん貼り付けてあった。


 料理のレシピかなと思ったが、よくよく見るとそれらは全部サインだった。私がハルカとモモカに出会い頭に頼まれたような、有名人? のサインが貼ってある。


「あっ、そこの一番いい場所に魔道士さんのサイン貼るよ! 私たちの宝物だぁ」


「ふうん……」


 よく見るとそれらは身の回りの人たちに頼んで集めたような、ローカルでアットホームなサインばかりだった。


『パン屋 レコ・スケマ』『行商人 タタン・ゴールディ』『先生 マナン・マナマ』『通りがかりの人 ウイウイ・ユー』『村長 ヨネイ・パックンチョ』


 村長さんそんな名前だったのか。なまってて聞き取れなかったよ。


 田舎の少女たちの小さな生活が見て取れて、なんだかほのぼのした。


 まあ確かに、この中では私のサインが一番珍しいものになるかも知れないな。




「ずずっ……」


 ハーブ茶をすする。


 一息ついたところで、私は真面目な話を始めた。


「戦力を増やす必要があるなあ……。魔物の数を見た感じ、私一人じゃ対応が難しいんだよね」


 ハルカは意外そうに目を見開く。


「さっきみたいに魔法でどーんってできないの?」


「魔力が足りないんだ。今の私にはあの魔物を倒しきるだけの魔力がない」


「本当に……?」


「うん。ちなみに今の私の魔力は……」


 と私はステータスを見る。




『チエリー・ヴァニライズ

 魔力:6340』




「魔力6340だ。これは生命力6340の魔物を倒せる戦力だ。さっきの歩き樹木ギリーマンの群れは、ざっと見た感じ生命力80000くらいあるんだよなあ」


「……足りないってこと?」


「うん。74000くらい足りない。それを補う必要があるんだ。魔力を恵んでくれるように精霊さんに頼んだんだけど……うまくいかなかった」


 心が卑しいって言われちゃったからね……。


「そうなの……?」


「だから、魔力以外の方法で戦力を補うことになるんだ。冒険者を雇って討伐隊を作るとしたら、150人くらいは必要だね」


「そんなに!?」


「冒険者一人がだいたい戦力500って言われてるから、そんな感じだねえ」


 物理職の戦力=魔道士の魔力みたいな計算をするのだ。74000割るの500で、おおざっぱに150人ってところ。


「ふえええ……」


 ハルカは目を白黒させている。


「で、冒険者を雇うと報酬が発生する。一人に付き日当3万ゴールド。150人分で450万ゴールドだ。この村にそんな余裕ある?」


 ないよなあ……。


 討伐依頼書の報酬を何回も更新して、ようやっと20万ゴールドにした村だもんな……。


「たぶんないと思うだ……」


 ハルカは青ざめた顔をしている。


 やっぱりね……。


「ちなみに私が受け取るぶんの報酬はいらない。私の20万ゴールドは討伐隊編成に当ててくれ。私が裕福ならもっと支援もできたんだが――あいにく貯金がなくてね」


 さっき精霊さんにツッコまれちゃったからね。


 ゴールドの未練ありすぎってね。


 私もこれくらいは身を切らないとね。


 ハルカは目を丸くしてこちらを見ている。


「魔道士さんは……聖者様の使いなの?」


 私は気恥ずかしくなって視線を逸らした。


 モモカは話が難しくて退屈したらしく、ベッドに寝転がって逆さになっていた。


 子どもって逆さになるの好きだなぁ。


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