第22話 子どもばかりのエルフ村

 ドンッッ!!


 命中。歩き樹木ギリーマンの頭部は炎に包まれて、爆発。煤煙と火の玉が周辺に飛び散った。


 歩き樹木ギリーマンは火の粉とともに倒れて、そのまま動かなくなった。


歩き樹木ギリーマン

 生命力:0』


 今日の私は、魔力がまあまああるほうだ。歩き樹木ギリーマンの一匹や二匹など敵ではなかった。






 幸いにも村に入り込んだ魔物はその一匹だけで、村人は皆無事のようだった。


 逃げていた村人が集まってきて、ハルカが点呼を取って、無事を確認してくれた。


 燃え上がる魔物の残骸と、魔法を操る異邦の旅人に、村人たちはおっかなびっくりの様子で遠巻きだ。


 村人は10人もいない。


 お年寄りが数人と、あとはハルカより年下の子どもばかりだった。


 時間帯のせいだろうか。


 大人は狩りにでも出かけてるのかな?


「みんな~。この人は王都から来た魔道士さんだよ。村を救いに来てくれたんだ!」


 ハルカが声を上げ、私を紹介してくれた。


「道に迷ってたみたいだったから私が連れてきたんだぁ~」


 ハルカは胸を張り、ちょっとばかり自慢げだ。


「モモカもだよぉ~」


 妹はハルカの服をつまみながらもじもじしてる。


「そうそう、キミも一緒に案内してくれたよね」


 私は微笑んでモモカの頭を撫でた。


 年老いた村人たちがほっとしたように口を開く。


「よく来て下さっただ!」「魔道士さん待ってただよ!」


 子どもたちも一斉にしゃべり始めた。


「魔道士さんおしゃれだぁ~」「どうやって魔法使うの?」「王都から来たの!?」「寝るときはうつ伏せと仰向けとどっちが好きなの?」


 ハルカと似たような反応だなーと思った。


 村で流行ってる質問なのかな?


 村人は皆エルフの血を引いているらしく、髪から突き出た耳が尖っている。


 エルフの伝統の植物文様の刺繍がされた服を着て、野良仕事用のエプロンをつけたり、スカーフでほっかむりをしたりしていた。




 しかしここにいる村人は、おばあさんが3人と、ハルカたちを含めて子どもが7人だけだった。


「他の村人はどこに行ってるの?」


 私は気になって尋ねた。


「「「「………………」」」」


 村人たちの表情が一斉に曇った。


 なんだろう?


 何かよくない質問をしてしまったんだろうか?


 まさか魔物に殺されたとかじゃないよね……?


 不安に駆られていると、お年寄りの一人が口を開いた。


「実はナ……」


 その人は先程ものすごい勢いで走っていた、腰の曲がったおばあさんだった。深いしわの刻まれた顔だが、昔はさぞや美しかっただろう上品な風貌だった。


「おらはこの村の村長の、ヨ@イ・パッ@*#ョだ」


 どうやら村長さんらしかったが、名前が聞き取れなかった。古代エルフ語かも知れない。


「魔道士のチエリー・ヴァニライズです。事情を聞かせてもらえますか?」


 私がそう言うと、村長さんはうなずいて話を始めた。


「実は……+=~すて……@@@@したったんだ。んで#$%しゃろ@@@&&&%%¥¥っちゃ。@@@@けろ」


 必死に耳を傾けたが、なまりがきつくて何を言ってるかわからなかった。古代エルフ語じゃなくてただのなまっている人なのかもしれない。


「「さいさいさいさい!」」


 二人のおばあさんが言った。意味はわからなかったが、悔しがっているようだった。


「「「「「さい~~!」」」」」


 子どもたちも続いた。魔物の襲撃による深刻な被害に嘆いているようだった。


「…………」


 私は空気を読んで、重い顔をしてうなずいた。


 話はさらに続いたが、内容が全然わからなかったので、曖昧な顔でうなずき続けた。


「話わかる……?」


 ハルカが気を利かせて言ってくれた。


「いや、わからん。通訳してくれる?」


 ハルカはうなずくと、ここまでの話を解説してくれた。


「実は今朝、村長さんがハーブ摘みをしようと思って森に行ったら、お弁当を家に忘れたのに気づいたんだって。あわてて家に戻ったら、テーブルの上にネズミがいて、お弁当を食べてたんだって。大事にとっておいた絶品チーズを食べられちゃったんだって。それで悔しがってるよ。その話をずっとしてる。村のみんなも悔しい悔しいって言ってるよ」


「いや、全然魔物と関係ねーじゃねーか!」


 私は思わずツッコんだ。


「お年寄りの話はこうなんだよ。前置きが長いなあと思ったら、そのままあさっての方向に行って戻ってこなくなるよ」


「まあ確かに、そういうとこあるけどさ……」


「ちなみに村のみんなは出稼ぎに行って留守してるよ」


「マジで? 魔物にやられたりはしてないの?」


「今のとこ無事だよ」


「マジかよ、焦ったよ。どんな深刻話かと思ったわ……」


 そんな私の困惑模様を見て、村人たちはどっと笑ってた。


 いや、あんたらのことだぞ?


 まったく……。


 村人たちはなおも笑っている。


「「「「はははははは!」」」」


 きみたちさあ……。笑いすぎじゃないかね?


 まあ――。


 この村が魔物に脅かされているのは事実だ。そんな状況でも笑顔を忘れないたくましい村人たちなのは、悪いことではないけどね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る