第22話 子どもばかりのエルフ村
ドンッッ!!
命中。
『
生命力:0』
今日の私は、魔力がまあまああるほうだ。
幸いにも村に入り込んだ魔物はその一匹だけで、村人は皆無事のようだった。
逃げていた村人が集まってきて、ハルカが点呼を取って、無事を確認してくれた。
燃え上がる魔物の残骸と、魔法を操る異邦の旅人に、村人たちはおっかなびっくりの様子で遠巻きだ。
村人は10人もいない。
お年寄りが数人と、あとはハルカより年下の子どもばかりだった。
時間帯のせいだろうか。
大人は狩りにでも出かけてるのかな?
「みんな~。この人は王都から来た魔道士さんだよ。村を救いに来てくれたんだ!」
ハルカが声を上げ、私を紹介してくれた。
「道に迷ってたみたいだったから私が連れてきたんだぁ~」
ハルカは胸を張り、ちょっとばかり自慢げだ。
「モモカもだよぉ~」
妹はハルカの服をつまみながらもじもじしてる。
「そうそう、キミも一緒に案内してくれたよね」
私は微笑んでモモカの頭を撫でた。
年老いた村人たちがほっとしたように口を開く。
「よく来て下さっただ!」「魔道士さん待ってただよ!」
子どもたちも一斉にしゃべり始めた。
「魔道士さんおしゃれだぁ~」「どうやって魔法使うの?」「王都から来たの!?」「寝るときはうつ伏せと仰向けとどっちが好きなの?」
ハルカと似たような反応だなーと思った。
村で流行ってる質問なのかな?
村人は皆エルフの血を引いているらしく、髪から突き出た耳が尖っている。
エルフの伝統の植物文様の刺繍がされた服を着て、野良仕事用のエプロンをつけたり、スカーフでほっかむりをしたりしていた。
しかしここにいる村人は、おばあさんが3人と、ハルカたちを含めて子どもが7人だけだった。
「他の村人はどこに行ってるの?」
私は気になって尋ねた。
「「「「………………」」」」
村人たちの表情が一斉に曇った。
なんだろう?
何かよくない質問をしてしまったんだろうか?
まさか魔物に殺されたとかじゃないよね……?
不安に駆られていると、お年寄りの一人が口を開いた。
「実はナ……」
その人は先程ものすごい勢いで走っていた、腰の曲がったおばあさんだった。深いしわの刻まれた顔だが、昔はさぞや美しかっただろう上品な風貌だった。
「おらはこの村の村長の、ヨ@イ・パッ@*#ョだ」
どうやら村長さんらしかったが、名前が聞き取れなかった。古代エルフ語かも知れない。
「魔道士のチエリー・ヴァニライズです。事情を聞かせてもらえますか?」
私がそう言うと、村長さんはうなずいて話を始めた。
「実は……+=~すて……@@@@したったんだ。んで#$%しゃろ@@@&&&%%¥¥っちゃ。@@@@けろ」
必死に耳を傾けたが、なまりがきつくて何を言ってるかわからなかった。古代エルフ語じゃなくてただのなまっている人なのかもしれない。
「「さいさいさいさい!」」
二人のおばあさんが言った。意味はわからなかったが、悔しがっているようだった。
「「「「「さい~~!」」」」」
子どもたちも続いた。魔物の襲撃による深刻な被害に嘆いているようだった。
「…………」
私は空気を読んで、重い顔をしてうなずいた。
話はさらに続いたが、内容が全然わからなかったので、曖昧な顔でうなずき続けた。
「話わかる……?」
ハルカが気を利かせて言ってくれた。
「いや、わからん。通訳してくれる?」
ハルカはうなずくと、ここまでの話を解説してくれた。
「実は今朝、村長さんがハーブ摘みをしようと思って森に行ったら、お弁当を家に忘れたのに気づいたんだって。あわてて家に戻ったら、テーブルの上にネズミがいて、お弁当を食べてたんだって。大事にとっておいた絶品チーズを食べられちゃったんだって。それで悔しがってるよ。その話をずっとしてる。村のみんなも悔しい悔しいって言ってるよ」
「いや、全然魔物と関係ねーじゃねーか!」
私は思わずツッコんだ。
「お年寄りの話はこうなんだよ。前置きが長いなあと思ったら、そのままあさっての方向に行って戻ってこなくなるよ」
「まあ確かに、そういうとこあるけどさ……」
「ちなみに村のみんなは出稼ぎに行って留守してるよ」
「マジで? 魔物にやられたりはしてないの?」
「今のとこ無事だよ」
「マジかよ、焦ったよ。どんな深刻話かと思ったわ……」
そんな私の困惑模様を見て、村人たちはどっと笑ってた。
いや、あんたらのことだぞ?
まったく……。
村人たちはなおも笑っている。
「「「「はははははは!」」」」
きみたちさあ……。笑いすぎじゃないかね?
まあ――。
この村が魔物に脅かされているのは事実だ。そんな状況でも笑顔を忘れないたくましい村人たちなのは、悪いことではないけどね。
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