第21話★高名な魔道士の言い伝え

(モモカのイラスト)

https://kakuyomu.jp/users/fuwafuwaso/news/16817330650932162198



 私は村へと案内してもらうことになった。


「じゃあ、さっきのは魔物除けの歌なのか」


 私は歩きながら尋ねた。 


「うん。モコッチには伝統の歌がいっぱいあって、歌えば歌うほど魔物除けになるって言われてるだよ」


 ハルカは妹のモモカと手を繋ぎながら歩いてる。


「でもあんまり効いてなかったみたいだな……?」


「きっと耳が遠いタイプの魔物なんだよ」


 おもしろいけど、それでいいのか?


「いつもは効いてるの?」


「うん。歌を歌うと誰かが助けに来てくれるよ」


「それ効いてないんじゃね?」


「効いてるだよ。めったなこと言ってだめだ」


 うーむ……。


 迷信の類いじゃないかなあ……? 


 結界の一種かも知れないけど、魔力もない一般人の歌に効果はないような気がする。


 たぶん迷信だなあ……。


 などと考えていると、ハルカは矢継ぎ早に話しかけてきた。


「魔道士さんは美人さんだねぇ~!」「服もおしゃれだし!」「王都からの道はどうだっただ?」「寝るときはうつ伏せと仰向けとどっちが好きなの!?」


 なんでもかんでも聞いてきた。


 妹のモモカは人見知りのようで、ずっと黙っていたが、こちらの話には興味津々の様子だった。


 聞けば、この子たちは森の中の村と、森の外の小さな町の二つしか世界を知らないらしい。


 そのおかげで、どんな話も新鮮に聞こえるようだった。


 私が横向きに寝るのが好きだと言っただけで、ものすごく感心して、逆にこっちが感心してしまう。


 本来なら魔物被害の情報収集をしなければいけないのだが、私はハルカたちとのおしゃべりが楽しくなってしまい、すっかり仕事そっちのけになってしまった。


 なんかこの子たちは、素朴で人をほっとさせるところがあるね。




 このとき――。


 意外と村の被害って大したことないのかなと私は思ってた。


 少女たちが明るいので不覚にもそう思ってしまった。


 でもそれは、とんでもない間違いであることに次第に気付いていくのだった。






 やがてモコッチ村が現れた。


 針葉樹の森の中の小さな村だった。麦や野菜を育てている畑があり、緑に覆われた住居が点在している。


 どの家もこんもりとした丸い作りで、屋根や壁は蔓草や苔で彩られている。


 その様子は緑の半球に窓や扉をつけているかのようだ。


 自然を愛するエルフの伝統らしい風景と言えた。


「「「「「森を走り進み続けた♪ 世界樹の手がかり探して行った♪」」」」」


 村のどこかから大勢の歌声が聞こえてきた。


 さっきハルカとモモカが木の上で歌っていた歌だ。


 ということは……魔物除けの歌? また誰かが襲われてるのか!?


 私はベルトから魔道士の杖を引き抜いた。


 が、ハルカが平然と言ってくる。


「大丈夫だよ、あれは農作業で歌ってるだけだ」


「そうなのか?」


「モコッチの人は何をやるときも魔物除けの歌を歌うんだよ。料理の時も掃除の時も。今の時間だとたぶん農作業だ」


「ふうーん。生活の歌ってわけか」


「こうやって普段から歌ってるから、村の中には魔物は絶対に来ないだ」


 ハルカは誇らしそうに言うのだけれども。


 でもさっきは効いてなかったよね? と私は心の中でツッコミを入れた。


「あっ、信じてないだな?」


「えっ、いやいや。そういうわけでは――」


「まあ確かに村の外では歌の効きは悪いけど……」


 わかってんじゃねーか。


「でも村の中ではすごく効くだよ。おかげで村の中に魔物が出たことは一度もないだよ」


「本当に……?」


「本当だ。ちなみにこの歌は、大昔の魔道士さんのお墨付きなんだよ」


「ほう? 魔道士由来の歌なのか?」


「村を守るために歌い継ぐように、って高名な魔道士が言い残したんだって。その言いつけを守って、私たちはずっと歌ってるよ。何百年も前からずーっと続いている伝統だ。モコッチ村は歌に守られてるだよ」


 そう言ってハルカは愛おしいものを受け止めるように両手を広げ、くるりとターンしてみせる。


 モモカも真似をしてくるくる回った。


「なるほどね……。迷信とかじゃないんだな」


 私は微笑んだ。


 高名な魔道士が言うのなら、私などにはうかがい知れない魔法的意味合いがあるのだろう


 魔物に生活が脅かされているにしては、彼女たちが明るいのはそのせいか。歌で守られてるっていう安心があるんだな。


 などと思っていると、


「踊れー♪ 踊れ――! エールーフーよー踊れ――!」


 大きな歌声を上げながら、住居の向こうから老婆が走ってきた。


 だいぶ腰の曲がった老婆なのだが、まるで老いを感じさせない勢いで走ってる。


 ガサガサガサガサッ!


 その後ろから歩き樹木ギリーマンが追いかけてくる。


 いるじゃん! 村の中に魔物いるじゃん!


 さっきのより一回り大きいし、魔物除けの歌なにそれって感じの堂々たる走りっぷりだった。


「助けて! 魔道士さん助けてッ!」


 ハルカが切迫した表情で言ってくる。


 高名な魔道士当てにならねぇ――――。


 ハルカの話も当てにならねぇ―――。


火球投擲呪文ファイアビット!」


 魔道士の杖の先端を歩き樹木ギリーマンの頭部に向けて、呪文を詠唱した。


 シュゴッ!


 小さな火球が発生し、歩き樹木ギリーマンに向かって吹っ飛んでいった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る