第20話 ギリーマン
「
呪文を唱えると視界に光が走り、瞳の中に魔物のステータスが浮かび上がった。
『
生命力:50』
なるほどね! 討伐依頼書には木の魔物がいるって書いてあった。
これが討伐対象の魔物ってことか……!
てことはあの子たちは、助けを呼ぶために大声で歌ってたのかな?
私はベルトから魔道士の杖を引き抜いた。
杖は短く、幾何学的な木材を組み合わせて作ってあって、いかにも魔法が飛び出しそうな形をしている。
「
杖を魔物に向け、呪文を詠唱。
ドッッ!
火球が命中し、
魔物は燃え上がり、やがて動かなくなった。
少女たちは木から下りてきて頭を下げた。
「ありがとうだ……助かったべ!」
年上の子が礼を言った。
田舎臭い地味な雰囲気ながら、目鼻立ちが整っていて美しい子だった。
金色の髪をしていて、髪から突き出した耳の先端が尖っていた。エルフの末裔に違いない。
年の頃は13~4才くらいだろうか。
「……!」
小さい子は恥ずかしがり屋みたいで、うさぎみたいに素早く年上の子の後ろに隠れた。
姉妹かな?
年齢は5才くらいに見える。
顔立ちはよく似ていて、やっぱり耳が尖っている。
モコッチ村はエルフ文化の残る村だと聞いていたけど、この子たちにもエルフの血が流れているのだ。
「きみたちはモコッチ村の住人だよね? 私は魔物討伐に来た魔道士なんだ」
「ま、魔物討伐……!」
少女は隣の妹っぽい子と顔を見合わせ、深刻な表情をした。
うなずき合い、二人で険しい視線をして私の顔を見つめてきた。
なにか大事な話をしたそうな様子だった。
そう、この子たちの村は討伐依頼を出しているのだ。
どこの冒険者も受注しなくて、長期間放置されるような難しい依頼だ。
ひょっとしたら村が廃墟になってるとか、村人が魔物の餌になっているとか、最悪の状況もあり得る……。
口にするにも勇気がいるような、残酷な魔物被害に遭っているのかもしれない。
「あの、魔道士さん……私たち、その……」
彼女は迷いながら口を開いた。
「引き受けるのが遅くなってすまない。話を聞こう」
「……」
彼女はうなずくと、上着のポケットに手を入れて、小さな手帳を取り出し、震える手で差し出してきた。
「「サインくださいィ~~~!」」
踏ん張るような声で顔を赤くしてる。
「んん……?」
「私たち、魔道士さんのサイン欲しいだ! こんな田舎で魔道士さんに会えるなんてすごいことだ! 新聞でいつも魔道士さんのお話読んで、すごいねすごいねって言って、尊敬してたので!」
呑気かな? 魔物被害に遭ってるにしては呑気かな?
いや、深刻な話じゃなくてちょっとほっとしたけど。
二人の瞳は輝いていて、有名人を見つめるときのそれだった。そこまできらきらする?
「いや、サインをするほどのものではないよ?」
「するほどのものなので! ぜひください! 食卓の一番いい場所に飾るので! 毎日サインを眺めて、私魔道士さんに会ったんだーって思い出してニヨニヨするので!」
そんなに持ち上げられるとくすぐったくなってしまう。
でもなるほど、これは田舎ならではの価値観なのかもしれない。
地図にも載っていないような村では、訪れる旅人も稀だろうし、娯楽にも飢えていることだろう。
魔道士の登場というのは、退屈な日常に色を添える一大イベントなのかもしれない。
まぁー。しょうがない。
私は手帳を受け取り、挟んであった鉛筆を使い、『魔道士 チエリー・ヴァニライズ』とサインを書いた。
「きみたちの名前は?」
「ハルカ! ハルカ・モコモコーナ!」「モモカ・モコモコーナです!」
やはり姉妹みたいだな。
私はさらさらとメッセージを書いた。
『ハルカ・モコモコーナさんとモモカ・モコモコーナさんへ。今日は素敵な歌をありがとう❤』
若干サービスし過ぎかもしれないサインを渡すと、二人は手を取り合って跳びはねた。とても可愛らしい笑顔を咲かせていた。
(ふふっ……)
魔道士の仕事などしょせん汚れ仕事だ。
魔物討伐で呼ばれるときには、誰かが魔物に殺されたとか村が襲撃されたとか、悲劇があるのも当たり前。
しかし今日の第一・第二村人は、悲劇を感じさせない明るさで、心がほっこりするのを感じた。
少なくとも、今のところはね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます