第19話★なぜかエルフ少女が木の上で

(ハルカのイラスト)

https://kakuyomu.jp/users/fuwafuwaso/news/16817330650932123697



 今回の依頼は、こんなの。


 


『魔物討伐をお願いするだ!


 村の畑に魔物が出て困っています。


 木の魔物が攻めてきて、畑が使えなくなりました。


 役所に討伐を頼んだら、村を移転しろと言われました。


 おらたちは移転したくないだ。


 助けてくれる冒険者を探しています。


 場所:北スコスコ郡モコッチ村


 報酬:200000ゴールド』




 モコッチ村は王国の北方辺境にある小村だ。


 王都からは街道を歩いて三十日の距離にある大田舎。


 あまりにも田舎過ぎて地図にも載っていないほどで、いわゆる秘境と言えるかも知れない。


 報酬の欄は何度も価格改定をした形跡があった。


 最初は100000ゴールドから始まり、二重線で消して170000ゴールドになり、190000ゴールドになって、195000になって、200000ゴールドになった。


 つまるところ、この討伐依頼は長いこと受注者が見つからず、報酬をやむを得ず上げていったものなのだ。


 最後の方のじわ上がりの様子は、発注者の苦しい財布事情が見て取れた。


 まぁー。しょうがないだろうなーと私は思う。


 王都から歩いて三十日なんて辺境もいいところだし、普通に旅費で赤字になる。


 本来ならこの依頼は北方ギルド組合の管轄なんだろうけど、王都のギルド組合まで回ってきたということは、北方ギルドでも割に合わない依頼だということだ。


 魔物がよほど多いとか、村が僻地で移動が困難だとか、そんな感じだろう。


 役所から村を移転しろって言われてるあたりも、依頼の困難さをうかがわせる。


 こんなのを引き受けるのはよほどの物好きか、奉仕活動家くらいだろう。


 そして私は物好きな奉仕活動家だった。


『魔道士は弱きものを救うべし!』


 そんな言葉を胸に依頼を受注して、三十日の行程を歩きに歩いた。






 海を見たり川を渡ったり山を越えたり、長い旅路の果てに景色の様子が変わってきた。北方地域に入ると植物の種類が減って、森は針葉樹が多くなった。


 そして三十日目。


 モコッチ村へと至る森の道へと足を踏み入れた。


 そこそこの勾配はあるし、崖はあるし、木の根っこを足がかりによじ登るようなところもあるし、都会者の私にはキツい。


 早朝から歩きづめで、おやつの時間になってもモコッチ村は見えなかった。


 村、まだぁー? 足疲れたー!


 さっさとゴールしてお風呂に入ってハーブ水飲みたい気持ちで歩いていく。


 すると――。


「「森を走り進み続けた♪ 世界樹の手がかり探して行った♪」」


 森の中に突如、きれいな歌声が響いてきた。


「「ここにあるよ、ここにあるよ♪ 呼ばれる声に導かれ♪」」


 歌声はなおも続く。


 女の子の声だった。二人分聞こえるのだが、片方はだいぶ幼いらしく、舌っ足らずな歌だ。


 村にたどり着いたのかな?


 私は人の気配にほっとして足を速めた。


「「回れー♪ 回れ――――♪ ひーだーりーにー回れ――♪ 回せー♪ 回せ――――♪ せーかーいーをー回せ――♪」」


 歌声に向かってどんどん近づいて行く。


「こんにちはー」


 言いながら私は茂みから出て行った。


 えっ……!?


 目の前の光景に絶句してしまった。


「「踊れー♪ 踊れ――――♪ ひーだーりーにー踊れ――♪」」


 歌っているのは十代の少女と、五才くらいの幼い女の子なのだが、二人とも木の上の方にしがみついている。


 やたら変な場所で歌っている上に、表情がちっとも楽しそうじゃない。


 涙目で青ざめた顔をしながら、罰ゲームみたいに歌ってるのだ。


「「踊れー♪ 踊れ――――ううっ! エールーフーよー踊れ――ぐすっ! わああん!」」


 いや、泣いてるし。


 何してんのこの子たち? 誰かにやらされてんの? つまみ食いでもした罰かな? 田舎のお仕置きはイカレてんなあ……?


 そういや私も小さい頃、おばあちゃんのレモネードを盗み飲みして、白樺の木に縛り付けられたことがあったっけ。こうやって人は大人になっていくんだね……。


 などと折檻の思い出にふけっていると――。


 バシッ! バシッ!


 よく見たら木の根元の茂みが動いていた。


「あっ、魔物かッ!」


 木の葉を集めて人型にしたような魔物が、鋭い爪で木の根元を叩きまくっているのだった。


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