第14話 巨大歩きキノコ

 巨大歩きキノコボス・マイコニドは数百年ぶりの目覚めをうかがうように、ギョロギョロと目を動かす。


 目玉が動くたびに、メリメリと音が響いた。


 巨大歩きキノコボス・マイコニドの表面を覆う石がひび割れ、ばらばらと剥落を始める。


「みんな逃げろ――――――――――ッ!!! 魔物が目覚めるぞ――――――――ッ!!!!」


 私は力の限りに叫んだ。




 私が声を上げたその刹那――。


 ビキビキビキッ!


 巨大歩きキノコボス・マイコニドの幹にひび割れが走った。


 ブフ――――――――――――――――――――――――ッ!


 ひび割れから紫色のガスが吹き出して、瞬く間に広がっていく。


「「「~~~~~~~~ッ!」」」


 生徒たちはガスに触れ、ばたばたと倒れていった。


 うめき声一つあげず、全員が昏倒している。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………。


 不気味な地響きが始まった。


 巨大歩きキノコボス・マイコニドが動き出そうとしているのだ。


 石片は剥落を続け、ガスの中に雨のように降り続ける。


 私は魔道士の杖を構え、呪文を叫んだ。


旋風投擲呪文フーヴァービット!」


 杖先から空気の固まりが飛び出して渦を巻いた。


 ゴウッ……!


 埃や枯れ葉を吸い込みながら巨大化し、紫のガスを吹き払って道を作っていく。


 私はその中を走った。旋風が作った通路を、生徒を助けるために走った。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………。


 地面は揺れ、頭上からは岩のような石片までが落ちてくる。


 メキメキメキッ……!


 横殴りに、巨大な岩が押し寄せてきた。いや、岩ではなくそれは巨大歩きキノコボス・マイコニドの根っこの部分だった。


耐久付与呪文ディフェンス・エンチャント!」


 呪文を唱えた。ウルミ相手に使った耐久の15倍の量を付与した。正しくは、手持ちの魔力をありったけ使っても、15倍の耐久しか付与出来なかった。


『チエリー・ヴァニライズ

 耐久:3000

 魔力:0』


 ドッ……!


「ぐうっ!!!」


 横殴りの根っこに弾き飛ばされ、私は地面を転がった。


『チエリー・ヴァニライズ

 耐久:0

 魔力:0』


 耐久は一撃で全部剥がされた。身体が痛くてうまく息ができない。もう一発食らったらあっけなくあの世行きなのは目に見えていた。


 さっきまでのお気楽な日常が、急転直下で地獄になってしまった。


 いや、嘘だろぉ~~~!?


 私もついに観念するときが来たのか……?


「ハァッ! ハァッ! ハァッ! ハァッ!」


 頼みの魔力も、もはや0だった。


 だが――。


 それは、精霊石を通して精霊さんたちも見ていた。


『チエリーがヤバイ! 魔力:+1000』『支援! 魔力:+1500』『早く起きて! 魔力:+2000』『しゃれにならない。魔力:+2500』『チエリー早く! 魔力:+2800』 『がんばれがんばれ! 魔力:+3000』


 大量の投げ魔力が私の身体に降ってくる。


 ステータスが書き換わる。


『チエリー・ヴァニライズ

 耐久:0

 魔力:12800』


 助かるッ……!


 平時には辛辣なコメントとマイナス評価を投げてくる精霊さんたちだったが。


 さすがの危機には力を貸してくれるみたいだった。


 というかこんなの知らなかったよ。


 普段ぬるい仕事ばっかりしてたから。


 本当に危ない目に遭ったときってあんまりないから。


 てっきり精霊さんに嫌われてるのかと思ってたけど、そうじゃないんだ。


 私がつまんない生き方してたから、応援するほどのものじゃないって思われてたのかもしれない。


「精霊さんありがとう! でも全然足りない! もっとだ! もっと頼む――ッ!」


 私は立ち上がった。


耐久付与呪文ディフェンス・エンチャント!」


 再び耐久を付与した。


『チエリー・ヴァニライズ

 耐久:6000

 魔力:6800』


 今度は耐久6000ほど付与した。さっきの根っこを2発食らってもギリギリ生き残れるはずだ。


 魔道士の杖を水平に構え、呪文を連発する。


旋風投擲呪文フーヴァービット! 旋風投擲呪文フーヴァービット! 旋風投擲呪文フーヴァービット! 旋風投擲呪文フーヴァービット! 旋風投擲呪文フーヴァービット!」


 倒れている生徒たちの方向へ、ガスを晴らすための魔法を撃ちまくった。


 ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴウッ……! ブオオオウッ……!


 旋風が相乗効果を生んで大風となり、ガスを吹き飛ばした。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………!


 メキメキメキメキメキメキメキメキッ!!


 ドドドドドドドドドドドドドドド………………!


 激しく地は揺れ、封印の石は割れていき、剥落した石や岩が降り注いでくる。


「シバリン―――ッ!」


 私は近くに倒れていた彼女を引き起こした。


 ぐったりとしていたが息はある。窪地の上まで連れて行こうと、身体を引きずっていく。こんなのを何度も繰り返し、生徒を全員助ける余裕はあるのだろうか?


「精霊さん頼む―――ッ! もっとだ! もっと魔力をよこせっ!」


 私は精霊石に向かって叫んだ。魔力を要求するための全力の告白の儀式コンフェッションだった。


「私は底辺魔道士かも知れないが! こいつらは違う! こいつらは絶対いい魔道士になる! もうちょっと常識は必要だけど! 勉強が必要だけど! こいつらには熱意がある! 私に足りないものを持っている! きっとすごい魔道士になって沢山の人を救うんだ! こいつらを助けろ! こいつらのために魔力をよこせ! こいつらの未来に投資しろ―――っ!」


 精霊石は激しく光り、私の訴えに呼応する。


『投資! 魔力:+5000』『投資! 魔力:+8000』『がんばれ! 魔力:+9000』『超支援! 魔力:+11000』『投資だ投資! 魔力:+14000』『拡散! 魔力:+9000』『生徒を助けて! 魔力:+15000』『チエリー超支援! 魔力:+17000』


 今までよりも一桁二桁多い魔力が降ってくる。


 本気の訴えには精霊さんも本気で応えてくれるのだ。




『チエリー・ヴァニライズ

 耐久:6000

 魔力:92550』


 私の魔力は92550へと上昇した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る