第12話 告白の儀式

「あー。そういうことかぁ……」


 魔道士は基本、魔物討伐で働くものだから、予備校の先生なんかやらないんだよね。


 予備校の先生はきっと、学者とか研究者出身なんだろう。


 それでも予備校からの国立魔法学園への合格率は高いというから、先生たちは教えることに関してはプロなんだと思うけど……。


 生徒たちにとっては収まらないよなあ。


「魔道士でもないくせに、ゴミだのカスだの『おまえは魔道士になれない』なんて偉そうなこと言ってたんだよ。さすがにシバリンも頭にきて、『キャ――オッッッ!』って先生に襲いかかったの。そうしたらみんな逃げて行ったの」


「なるほどなぁ。だいたい事情は掴めたよ……」


「先生いなくなっちゃったし、いても役に立たないから、自分たちで勉強をすることにしたの。闘いだったらウルミちゃんについていけば間違いないから」


「あの体育だらけの時間割はそうやってできたんだね」


「国立魔法学園の入試は、受験生同士の魔法対戦だって聞いたの。だから全力で鍛えておくの」


「私の頃は筆記試験だったんだけどなぁ……」 


 私は顔を上げ、森の小道を行く生徒たちを眺めた。


 木剣やボウガンを手に行進していくその様子は、足取りもきびきびしていて迷いがなかった。夢に向かってまっしぐらって感じだ。


「魔道士行動規範、斉唱――――ッ!」


 ずっと先の方からウルミの声が響いた。


 その声に続いて、生徒たちが一斉に声を上げる。


「「「「「一、魔道士は勇気を旨とすべし!」」」」」


「「「「「一、魔道士は博愛を旨とすべし!」」」」」


「「「「「一、魔道士は弱きものを救うべし!」」」」」


 森に響くその声、なつかしいなぁ……。


 魔道士行動規範は、魔道士の基本的な心の持ちようを説いたものだ。私も修業時代には散々斉唱したものだ。


「「「「「一、魔道士は奉仕を大切にすべし!」」」」」


「「「「「一、魔道士は正義のために生きるべし!」」」」」


 その声にこもっているのは、まごうことなき熱意だった。


 あいつらなりに必死にがんばってるんだ。


 肉体第一でバカな連中だけど。


 ここにいる本物の魔道士の私は、あいつらの熱意のかけらほども持っているだろうか?


 日々の生活に追われ、魔力が足りねえとか終始ぼやいてばかりで、熱意っていうものを忘れていたような気がする。


 あいつらのほうがよっぽど魔道士やってるかもしれない。


「なぁ、精霊さん……」


 私は胸元の精霊石に向かって語りかけた。


「あいつらのために魔力を恵んでくれないか? 指導のために力を貸して欲しい。私に何ができるかは分かんないけどさ……。あいつらのことが急にかわいくなってきた。あいつらの夢を叶えてあげたいんだ」


 チチィー……。


 精霊石が輝き、私の瞳にメッセージが降ってくる。


『先生の自覚。魔力:+900』『誰かのために。魔力:+1000』『師弟愛! 魔力:+800』『イイネ! 魔力:+249』


 精霊さんに気持ちが届いたみたいだった。


 これだけまとまった投げ魔力スパチャリオンをもらえたのは、久しぶりだ……。 




「先生、いまの何なの?」


 シバリンが聞いてきた。


「ああ、今のは告白の儀式コンフェッションって言って、精霊に魔力をもらうための語りかけなんだ。うまくいけば魔力がもらえるし、失敗したら魔力が没収されたりする」


「うまくいった?」


「ああ。かなりもらえたよ」


「よかったの!」


 シバリンはにこっと微笑んだ。尻尾はぶんぶんと揺れている。犬系の獣人ライカンだから、喜んでいる証なのかな?


 その仕草がかわいくて衝動的に頭を撫でてしまう。


 怒られるかな、と一瞬思ったが、シバリンは尻尾を振ったままだった。


 精霊だけじゃなく、シバリンにも私の気持ちが届いたのかも知れない。




 昔――。


 学生の頃に先生に言われた言葉を思い出す。


『精霊は人間の味方ですが、心が動いたときしか魔力をくれません。正確に言うと、心が動かないと魔力が出ないのです。ですから、精霊の心を動かすような生き方を心がけて下さい――』


 さっきの語りかけは、生徒に何かしてやりたいって気持ちが精霊の心を動かしたのかも知れない。


 私は最近、自分のことばっかり考えていたからね……!




『チエリー・ヴァニライズ

 魔力:3000』


 私の魔力は50から3000へと上昇した。


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