第10話 精霊さんの判定
私の瞳に精霊からのメッセージが浮かんだ。
『舐めプ。魔力:+0』『期待外れ。魔力:+0』『ここで負けるんだ? 魔力:+0』
もおおおおお。評価が最悪だよぉ~~。コメントも辛辣だし。
いよいよ私は精霊に見離されてきたんだろうか?
私は精霊石に訴えかけた。
「おいっ、精霊さん、頼むッ! 魔力を恵んでくれ! このままじゃ仕事がこなせない!
私はギルドを追放されたんだ!
家賃も滞納してる!
この仕事に失敗したら、下宿を追い出されちまう!
そしたら田舎に帰るしかない! 田舎は嫌なやつしかいないから帰りたくないんだ!
私を応援してくれた受付嬢にも顔向け出来ない!
分かってくれッ! 生徒を討伐する力を貸してくれっ! 私に力をッッ……!」
チチィー……。
精霊石が鳴った。
訴えが届いたか?
『ダサいにもほどがある。魔力:-100』
無慈悲なメッセージが目に映った。
ああ~~まずい。逆に減ってしまった。
ステータスはというと……。
『チエリー・ヴァニライズ
魔力:51』
さっき
はぁ…………。
私は横になった。
いわゆるふて寝というやつだ。
…………。
次、どんな顔して生徒の前に出て行ったらいいんだ?
行きたくないな。
絶対勝てないし。
またからかわれそうだし。
このまま家に帰ろうかな。他の先生が一人残らず入院した理由、分かったよ。
身体の怪我とかよりも、自尊心をやられて入院したんだね……。
コンコン……。
私が石床のひび割れを見て黄昏れていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
私は寝転がったまま答えた。ドアの鍵は私が吹っ飛ばしたままなのでノックもクソもないのだが、一応相手は気を遣ってくれたらしい。
キィィィ……。
きしみを立ててドアが開いた。
黒髪に犬耳の少女――シバリンが顔を覗かせた。
「先生元気なの? 食事と湿布を持ってきたの」
「ありがとう。手当てはキミがしてくれたのか……?」
「うん」
シバリンは寝転がったままの私の前に跪き、私の服をめくって湿布を取り替えてくれた。薬草の効果がひんやりしていて気持ちよかった。
「きみは……他の生徒とちょっと違うのかな? あまり私を敵視してない感じがする」
「シバリンは……先生にウルミちゃんを殺って欲しかったの」
「えっ? えっ?」
なんか物騒なこと言い出してる?
「ウルミちゃんをボコボコにして地面を舐めさせて欲しかった」
「どうして? キミはウルミの友達じゃないのか?」
一人だけちゃん付けして呼んでるし……。仲はよさそうだが。
「シバリンはウルミちゃんのことが大好きなの」
スカートの裾をつまんでもじもじし出した。やっぱり仲のよい友達のようだ。
「だったら何で? ウルミの暴走を止めたいとか、そんな感じかい?」
「くすくすっ……!」
シバリンは笑い、牙をのぞかせて言った。
「そんなわけないじゃん……」
「どういうこと?」
「シバリンはウルミちゃんの、もっとヒリヒリした闘いが見たかったの。先生にボコボコにされて、その後立ち上がって、先生をボコボコにするところが見たかったの。一方的すぎて期待外れなの」
「何かキミも怖いな……」
「怖くないの。これは当たり前の気持ち。ウルミちゃんは闘ってるときが一番かわいいから。先生にはウルミちゃんのかわいさを引き出して欲しかったの」
「そ、そうか……」
「ウルミちゃんはもっと強くなれる。いい先生がいれば強くなれる。それでそれで……。強くなったウルミちゃんとシバリンが
シバリンは頬を上気させてハアハア言ってる。
やっぱこの子もやべーっすわ。この予備校、バトルジャンキーしかいないのかよ。
「だからシバリンは先生に退場されると困るの。もっとがんばって」
シバリンは食事が載ったトレイを押し付けてくる。やたら盛りがいいお肉のスープとパンが三人前くらいあった。
子豚を太らせる感じなのかなぁ……。
「きみたちの個性はだいぶ分かってきたよ。体育が好きなこととか、闘いが好きなこととかね。でも一つ気になることがあってさ、聞いていいかい?」
「何?」
「なんか生徒全員、『先生』を敵視してないか? すごくひしひしと感じるんだけど、どういうこと?」
「それは……
「何があったんだ?」
私が尋ねると、階段のあたりからドタバタという足音が聞こえた。
「シバリン―――ッ! まだか――ッ! 組み手の相手が足りねえ――ッ!」
ウルミの呼び声だった。
「今行くの――! 待ってて――!」
シバリンは立ち上がり、去り際に言い残した。
「明日の授業は聖地巡礼に行くの。歩きながらでよかったら教えてあげる」
聖地巡礼か……。
聖地に祈りを捧げて、信仰を深めようという授業かな?
さっきまで職務放棄して家に帰りたい気持ちで一杯だったけど。
湿布も貼ってもらったし、シバリンの打ち明け話も気になるし、ついていってみようかな?
――かくして私は、数百年ぶりの災害へと巻き込まれてゆくのだった。
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