第9話 耐久付与呪文

 私は底辺魔道士だが、なめてもらっては困る。


 一般人が魔道士に挑むのは、木の枝が炎に挑むようなもの。


 自信過剰な生徒にはきっちりと語ってあげる必要があるだろう。


「オレが勝ったら二度と四の五の言わせねえ。大人しく座学だけ教えてもらうぜェ……」


「私が勝ったら私の指導方針を取り入れてもらうぞ。体育は減らすッ!」


「たまるかよ、減らされて……」


「まずはかけ算九九からだ……」


「必要ねェよ……」


「ウルミちゃんがんばってー!」「ウルミさんがんばれーッ!」「ぶっとばせ――ッ!」「いけ――っ!」


 ウルミの背後から声援が押し寄せてくる。


 彼女の背景がぐにゃりとゆがむ。雲間から強い陽が差して、またもや陽炎が浮かんでいた。


「…………」


 私はベルトから魔道士の杖を引き抜いた。


 それが合図になった。


「がぁッッ!!!」


 ウルミは獣じみた咆哮とともに地を蹴った。悪鬼のように白目をむき、木剣を振りかぶって飛びかかってくる。


耐久付与呪文ディフェンス・エンチャント!」


 私はとっさに呪文を唱えた。魔力の光が全身を走り抜け、耐久力の付与が完成する。


 私の瞳には光が走り、書き換わったステータスを表示する。


『チエリー・ヴァニライズ

 耐久:200』


 騎士の鎧並みの防御力が私の身体を覆った。


 ガンッ!


 ウルミの木剣が私の身体を打った。


 ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガンッ!


 連撃……!


 ウルミは歯を食いしばり、牙をのぞかせて、剣をめちゃくちゃに振り回して私を打ち続ける。


「ウルミちゃんがんばれ――ッ!」「いけ――っ!」「押せ押せ――ッ!」「「「「ウ・ル・ミ! ウ・ル・ミ! ウ・ル・ミ!」」」」


 生徒たちは声を枯らして応援してる。


 だが、耐久付与呪文ディフェンス・エンチャントの防御は絶対だ。


 どのような物理攻撃もこの防御壁がある限り、いささかも通らない。  たかが予備校生の木剣なんか、一撃で耐久を1削るのがせいいっぱいだろう。つまり200発ほど打たれなければ何ともない。


 さすがにその頃にはウルミも疲れるだろうし、私は反撃の魔法で悠々と勝ちを収める算段だ。


 私はステータスをちらりと見やる。


『チエリー・ヴァニライズ

 耐久:50』


 えっ、えぇぇぇええ……? 予想外! 耐久がだいぶ減ってる!


 結構効いてるなこれ?


 ガンッ!


『チエリー・ヴァニライズ

 耐久:40』


 一撃で耐久が10削られてる! この子、私の予想より10倍強いぞ!


 このまま打たれると危ない!


 ガン! ガン! ガンッ!


『チエリー・ヴァニライズ

 耐久:10』


 あっ、まずいまずいまずい!!


 私は魔道士の杖を振り上げて、呪文を唱えた。


雷撃グリッチ――」


 ガンッ!


『チエリー・ヴァニライズ

 耐久:0』


「気絶剣ッッッ!!」  


 めりっ……。


 私はみぞおちで木剣を受け止め、そのまま気絶した。 




 気がつくと、私はまたもや地下室の床に転がされてた。


「いててててて……」


 うめきながら身を起こす。


 服をめくり、お腹を確認する。


 みぞおちに青あざができていて、薬草の湿布が貼ってあった。また誰かに手当てされたらしい。


 くっそ、なんなんだよもー。なんなんだよもぉ~~!


 こんな屈辱、ないぞ? 2回も生徒に負ける先生ってさぁ……。普通ならここで私がウルミをねじ伏せて、尊敬されるところだろぉ?


(うぐぐ……。先生、あんたァ、そんなに強かったのか……?)


 キミも予備校生にしてはなかなかだったよ。


(どうやったら先生みたいに強くなれるんだ?)


 さぁね……。背負った業の深さかな……。


(オレも先生みたいに強くなりてェ!)(先生! 私も強くなりたいです!)(わたくしもです!)(シバリンもなりたいの!)


((((先生!))))(((先生ッ!)))


 よし、みんなまとめて強くしてやる! まずはかけ算九九からだッ!


((((((はいッ!!)))))


 ふふふふっ……。


 私があらぬ妄想で現実逃避していると、胸元の精霊石が光り出した。


 チィー……。チチィー……。


 共鳴音が鳴る。


 評価が始まったのだ。




 精霊から投げ魔力スパチャリオンをもらえる機会は大きく3つ。


(1)精霊の気が向いたとき。


   これはいつ来るのか全く分からない。精霊石を通して私を見ている精霊が、その気になったら投げてくれる。


(2)告白の儀式コンフェッションをしたとき。


   私から精霊石に語りかけ、お願いしたときだ。


(3)魔法を使って戦った後。


   魔道士が戦った後には、使った魔力を回復させるために、精霊が投げ魔力スパチャリオンをしてくれる。


   戦いの評価が高ければ、大きな魔力がもらえる。


   例え負け戦でも、努力が伝われば魔力がもらえる。




 今回は負けだったが、私は魔力が少ないなりに結構がんばったと思う。


 頼むぞ、精霊さんッ!


 果たして判定は!?


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