第4話 精霊さん聞いてくれ

 ダダダダダッ! ダンッ!


 狼耳少女は野獣のように間合いを詰めてくる。悪鬼みたいな顔をして、白目をむいて襲ってくる。


「気絶剣ッッッッ!」


 謎のスキル名とともに振り下ろされる木剣。


 めりっ……。


 私は額で木剣を受け止めて、そのまま気絶した。




 どういうことなの……?


 私が目覚めたのは地下室だった。地上との境に明かり取りの窓があるので、部屋の状況は分かる。


 そこは石造りの何もない部屋で、私はただただ無造作に放り込まれていたのだった。


「いててて……!」


 額には大きなたんこぶが出来ていて、薬草か何かの湿布が貼られていた。


「くそ、何でこんな目に遭わなくちゃいけないんだ?」


 私がまず最初に始めたのは、この不可解な状況の解明――。


 上着のポケットを探り、依頼書を取り出した。


 依頼書には封蝋で封印された封筒もついていた。


 どうせ予備校の門をくぐるときの紹介状かなんかだろうと思って見ていなかったのだが――。


 依頼の細部とか、こっちに書いてあるんじゃないのか?


 秘匿案件の依頼には、受注者にしか見れない追加情報があったりするのだ。


 封を破って中身をあらためる。


 どれどれ……?




『実を言うと、魔法予備校は、荒くれ生徒によって支配されています。


 先生たちは、木剣で殴られて一人残らず入院してしまいました。


 魔道士さんにはぜひとも、荒くれ生徒の手から予備校を取り戻し、正しい教育へと導いて欲しいのです。


 生徒たちの更生をお願いします』




 これが真の依頼内容だった。


 最初に書いておけよおおおおお。


 キャッキャウフフ攻めに遭う妄想が粉々なんだが?


 キツいなこれ。チンピラ上がりの先生がやるヤツじゃん。




 真鍮のドアノブをがちゃがちゃやってみるが、地下室の扉には鍵がかけられていた。


 ゴンッ!


 蹴飛ばしてみたがびくともしない。


 ドンッ!


 肩から体当たりしてみたが、ただただ痛いだけで泣きそうになった。


 何で私がこんな目に……!


 先生を殴って閉じ込めるって、学級崩壊にも程があるんじゃないのかね?


 私は瞳の中のステータスを確認した。




『チエリー・ヴァニライズ

 魔力:472』




 相変わらずの少なさだ……。


 低位の攻撃魔法が魔力50くらい使うので、9発で撃ち止めになってしまう。荒くれ生徒40人に襲われたら絶対に負ける。


告白の儀式コンフェッションをやるしかないか……」


 私は魔力を充填するための儀式を始めることにした。


 精霊たちは不定期に投げ魔力スパチャリオンを送ってくれるのだが、それだけでは心許ないときがある。


 そういうとき、こちらから積極的に魔力を乞うための方法がある。


 それが告白の儀式だ。


 まあ、何のことはなく、ただ心を込めて話しかけるだけなのだが……。


 いままで私を見ていなかった精霊たちにも声が届くので、大きな投げ魔力がもらえる可能性がある。


 私は首から下げた精霊石のチョーカーに向かって語りかけた。


「精霊さん、聞いてくれ……。


 私は相変わらず魔力不足で苦労してる。


 少ない魔力でやりくりしているもんだから、稼ぎも少ない。


 家賃を滞納していて、大家さんには退去を迫られている。


 ギルドからは商売にならねえと追放されてしまった。


 魔力がなくても出来る仕事を、と思って先生になったんだが、生徒はどうも荒くれの暴力集団らしい。さっそく殴られて気絶してしまった。


 この難局を乗り越えるための魔力を送って欲しい……」


 祈る。


 チ、チィー……。


 精霊石が小さく振動し、透き通った石の表面に光が走る。


 そして、私の瞳の中に精霊からのメッセージが現れた。




『ダサすぎ。魔力:-72』




 予想外のネガティブ反応……!


 くうううっ……!


 これだ。これなのだ。私が魔力不足に苦しんでいる原因。


 精霊石に語りかけても、必ず魔力がもらえるとは限らない。内容が評価されなければ魔力はもらえないのだ。


 我々はまさに精霊にとっての道化師。


 パフォーマンスが上手で精霊の心を掴めればたくさん魔力がもらえるが、下手くそだと魔力がもらえない。それどころか魔力が没収されたりする。


 私はイマイチ精霊の心を掴みかねている。


 おかげで万年魔力不足。


 いまの語りかけなど逆にマイナス判定で、魔力没収だ――。




『チエリー・ヴァニライズ

 魔力:400』




 結果として、魔力が一割以上減ってしまった。


 先が思いやられる。


(ともかく、この部屋を抜け出さないと……)


 手持ちの魔力は少ないが、他に手がないので魔法を使うことにした。 


 私はベルトから魔道士の杖を引き抜いた。


 杖は長くはなく、先端からいかにも魔法が飛び出しそうな形をしている。


 私は杖の先端をドアノブに押し付けて、呪文を唱えた。


氷塊投擲呪文チルビット!」


 杖先に冷気が集まり、氷塊が飛び出す。


 バコン!


 ゼロ距離で投擲魔法の発現を受け、ドアノブは円状に吹っ飛んだ。




『チエリー・ヴァニライズ

 魔力:350』


 魔力を50使用し、魔力350となった。



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