第7章-1 3回目の道

 家に着いたのとほぼ同時に、赤い軽自動車が玄関の前に止まった。


 窓から顔を出した秋山さんは、僕の隣に立つ女の子二人を見て言った。


「芽衣ちゃんの友達?」


 真理恵ちゃんとオアシスちゃんが無言で頷く。


「三人なら乗れるから一緒に来てもいいよ」


 秋山さんが問いかけた。


「いえ」


 そう言って、真理恵ちゃんは少し俯いて、首を振った。


「親には私から伝えておいても」

「大丈夫です」


 そして顔を上げて、小さく笑って、もう一度言った。


「もう、大丈夫です」


 右隣、ほんの少しだけ後ろに下がって、オアシスちゃんが立っていて。

 どちらともなく、ぎゅっとお互いの手に力が入ったのが分かった。


「……分かったわ」


 秋山さんはため息を吐いたけど、そのため息はとても優しかった。


「和広くん、行くよ」


 僕は黙って頷くと、助手席に乗り込んだ。

 ドアを閉めるとすぐに、秋山さんがぐっとアクセルを踏み込んだ。


 振り返ると、真理恵ちゃんとオアシスちゃんが、互いに体を寄せる様子が見えた。だけどすぐに、曲がり角で見えなくなった。


 その曲がり角で体が傾いたことで、シートベルトをしていなかったことに気付いて、付け直す。

 金具を止めながら、初めて僕は言葉を発した。


「芽衣は」


 聞かなくても分かっているようなことだったけど、それでも僕は聞かずにはいられなかった。


 秋山さんは僕の方を向かずに、ただじっと前を見て運転している。


「今夜は、大丈夫だと思うわ」


「分かりました。ありがとうございます」


 『今夜は』という言葉の意味は、聞くまでもなかった。




 今日の朝にこの道を研究所に向かった時には、無我夢中で、周りの様子を意識することはなかった。


 昼間に帰ってくる時には、頭の中が整理できなくて、気がついたら家の前に到着していたような気がする。


 そして三回目の今は……道のりがとても長く感じて、ただ、早く着かないか、と思っていた。


 窓の外に目をやった。

 昼間からずっと凪いだままの海の上には、星空が姿を現している。

 頭上には夏の大三角とかがあるんだろうけど、車の中からは見えなくて。


 多分阿賀里なら分かるんだろうけど、僕には何の星座か分からないような星が、ただたくさん輝いていた。

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