第4章-3 チャーシューおにぎり
池の向こうにはさっき僕たちが滑ってきたすべり台があって、その下にあるライオンがここからでも異様に目立つ。
ほとりには案内板があって、冬になるとたくさんの白鳥や鴨がやって来ると書いてあるんだけど、夏なので池にいる白鳥はボートの偽物ぐらいだ。
その池のほとりにレジャーシートを敷いて、弁当を広げる。
おにぎりと、卵焼きと、タコさんウインナーと、小さなハンバーグと、エビフライと、あときれいにくりぬかれた人参とか。
お母さんが作ってくれたお弁当は、昔からそうで、僕と芽衣の好きなものがいっぱいに入っている弁当で。――さすがにしょうゆラーメンは入ってないけど。
「果物はこっちに入れてるから」
そう言って、別のパックに入ったぶどうをお母さんが見せた。
正直言えばぶどうは暑さでぬるくなってたけど、それもそれで美味しかった。
弁当の蓋におにぎりとハンバーグとエビフライを取って頬張る。
……いつも通りのお母さんの弁当だな、と思った。
それから、「いつも」って感想が出てきたことに自分で驚いた。
「おいしーい! チャーシューおにぎりだ!」
芽衣が嬉しそうに声を上げた。
チャーシューなんて普通はあまり具にしない気もするけど、芽衣がすごく好きなので我が家では定番になっている。
「ねぇ、お兄ちゃんおにいちゃん、チャーシューおにぎりおいしい、卵焼きおいしい!」
「はいはい」
「お兄ちゃんも食べようよ」
「これ食べてから」
言いながらおにぎりを食べる。鮭だった。
……こんな「いつも」は二度と来ないはずだったのに、だけど自分はいつの間にか「いつも」だと思っている。
がおー。
池の向こうだというのにライオンの声だけがよく聞こえる。
「秋山さんもたまごやき!」
そう言うともう一個卵焼きを取って、半分に割って秋山さんの前に置く。
「お兄ちゃんにもたまごやき!」
そして残りの半分を僕の前に置いた。
「待ってって言ってるのに」
小声で言いながらつまむ。
「え、すっごい美味しい、鳴元さんってこんなに料理上手だったんだ、意外」
「……あきやまー、私のことどう思ってたわけ、正直に言いなさいよ」
「なんというのか、超理系っていうか、栄養だけで味は二の次っていうか」
「上司に正直に言いすぎでしょ……」
頭を押さえながらお母さんが言う。……お母さんがこんなたじたじとしている様子を初めて見た気がする。どう言葉にしたらいいのか分からないけど、なんだか、すごい。
秋山さんはその様子を見たのか見ていないのか、そのままの調子で続ける。
「なんていうか、母親なんだなって」
「当たり前でしょ……」
呆れたように頭を押さえたまま言うお母さん。
「ね、秋山さんすごいでしょ、お母さんの卵焼きってすごくおいしいんだよ!」
にこにこと言う芽衣。
「お兄ちゃんもそう思うでしょ!」
突然振られて、話に気を取られて口の中に残っていた卵焼きをごくりと飲み込む。
「……だよね」
「でしょ!」
芽衣はにこっと笑った。
それを見ていたお母さんが優しい笑みを浮かべたのも見えた。
僕も笑顔を見せた。そのつもりだった。
上手く笑えたかは分からなくて。
もう一個おにぎりを取って食べる。
……チャーシューだった。一緒に入っているマヨネーズがいつになく多い気がした。
ちょっとこってりしすぎてないかな?
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