第1章-5 船丘公園
船丘公園は町の東の端、隣町との境目近くの丘にある。
県道から左に曲がると、車一台がようやく走れる程度の舗装された道が、丘の上に向かって何度もぐにゃぐにゃと曲がりながら伸びている。灰色のアスファルトじゃなくて、白いコンクリートにたくさんの筋が入って、滑り止めのためなのか何なのか分からない円形の窪みがたくさん開いている。眺めがいいし走り回って遊べるので、小さい頃は芽衣とよく遊びに来ていた場所だ。
人目に付かないように“芽衣”に帽子を深く被らせて、僕は公園へと向かっていた。
公園に行こう、って言ったのは僕だった。
家にはいたくなかった。
人目に付かない、芽衣との思い出の場所というと……ぱっと思いつくのはこの船丘公園ぐらいだった。
昔みたいに、芽衣を後ろの荷台に乗せて、僕は思いっきりペダルを踏み締めてここまで来た。
幸いにして、知り合いに会うことはなかった。
頂上に向かう最後のまっすぐな坂道の途中で視界が開けると、町全体がぱっと見渡せる。僕と芽衣が生きていたこの町。そして今も僕が生きているこの町。夕焼けに包まれようとしているこの町。
全てを抱え込んで、それでも僕は生きて行くしかない。
「綺麗だね、おにいちゃん」
てっぺんにある木造の展望台に立って、“芽衣”は僕の顔をのぞき込みながら言った。
僕は黙って、その瞳を見つめ返した。
僕にはやっぱり、『MAY-10X』を「鳴元芽衣」として接することはできそうにない。
でも、ロボットだろうと『MAY-10X』だろうと何だろうと……間違いなく言えるのは、結局、僕はこの女の子を放っておけないみたいだ。
……このまま壊れてしまうのなら、それもいいのかもしれない。はかないと知っていても、ハッピーエンドなんて転がっていないと分かっていても、それでも僕は……やっぱり、この道しか選べそうにない。
もう、ハッピーエンドに至る道なんて残ってなさそうだから。
どちらにしても壊れるのなら。
少しでも誰かを大事にできる道を選びたい。
「帰ろっか、……芽衣」
「うん、お兄ちゃんっ!」
芽衣は大きく頷いた。
朱く染まった下り坂を、自転車を押しながら降りていく。
昔と同じように、僕たちの影が長く伸びていた。
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