第138話 親子ともども変人
「で、俺はコイツにこの姿にされたってワケ」
「俺は父上お抱えの魔法使いに姿を変えられました」
無事にアイム家に迎え入れられたハルトとループスはセシルとレオナに現在の姿になるまでの経緯を語った。ハルトがアルバス・アイムとしての姿を失った原因はループスの一方的な逆恨みであり、ループスはその所業について深く反省していた。
「あの……本当に取り返しのつかないことをしました」
ループスはセシルたちに深々と頭を下げて己が犯した過ちを詫びた。セシルとレオナは一瞬顔を見合わせたがすぐにループスの肩に手を置いた。
「気に病むことはないよ」
「しかし、元の姿に戻すことは俺にもできなくて……」
「むしろ感謝したいぐらいだ。君がうちの子をこんなに可愛くしてくれたと思えばね」
セシルはループスに労いの言葉をかけた。感謝しているというのは気遣いなどではなく、彼の本心であった。それは彼に育てられたハルトがよく理解していた。
「うちの子が女の子になっちゃったのはびっくりだけど、こんなに可愛くしてくれたのならそれはそれでアリね」
レオナはループスをフォローするとハルトを人形を扱うように抱きかかえてハルトの両耳の間を撫でまわした。自身の手の動きに合わせるようにハルトの耳が動くのを見たレオナは子供のようにキラキラと目を輝かせた。
「ハルト……お前の親っていうのはいつもこんなに寛容なのか?」
「あー、昔からずっとこんなだぞ」
ハルトはレオナの腕の中から声をかけた。アイム家は母レオナを筆頭に皆かなり楽観的な性格である。ハルトが外見の変化をすぐに受け入れられたのもこの血筋による影響が大きかった。
ループスは『この親にしてこの子あり』と感じずにはいられなかった。
「ねえ貴方。この子の耳、すっごく手触りいいわよ」
「ほぉー、どれどれ」
「うあぁー」
アイム一家はハルトの手触りに夢中になっていた。彼女の手触りは人を虜にする魔力的な何かを持っているが彼女の両親もその魔力に中てられたようであった。
「ループスちゃんはここに来るまでずっとこの子をこんな風に好き放題に?」
「あー父さん。そいつも元々は男だぞ」
「そうなの?じゃあ『くん』と『ちゃん』どっちで呼べばいい?」
「好きな方で大丈夫です」
セシルに確認を取られたループスはセシル自身に判断を委ねた。少し考えた結果、セシルはループスを女性として扱うことに決めた。
「ねえねえループスちゃん。この子の人形作ったら売れそうだと思わない?」
レオナがハルトを抱いたままループスに接してきた。実の子をダシにして商売をしようという商魂たくましさにループスは度肝を抜かれた。
「売れると思います。あと俺も一体買います」
「おい。本人がいる前でよくそんなこと言えるな」
ループスの欲に塗れたコメントにハルトが冷静に突っ込みを入れた。いつでも本人を見ることができる立場にありながら人形まで求める強欲さはハルトには理解不能の領域に達していた。
「っていうか母さん人形作れたの?」
「アルバスがいなくなってから作り始めてみたの。これが町の人にも好評でねー。二人にも見せてあげる」
レオナはハルトとループスを自らの人形工房へと案内した。人形作りはハルトが家にいなくなってからのレオナの新たな趣味であった。
「じゃーん!すごいでしょ」
「うお……」
「これ本当に趣味で使ってる部屋なのか?」
ハルトとループスは目の前に広がるレオナの自室兼人形工房を見て絶句した。そこには人形の素体と思わしきものが大量に陳列され、制作用の道具もずらりと並んでいた。
「思い付きで初めてみたら結構楽しくてね。ついのめりこんじゃった」
レオナは照れながら部屋が工房化するまでの経緯を語った。それはさておき、ハルトには気になることが一つあった。
「これだけの道具を揃えるお金がどこにあったんだ?」
ハルトの気になる要素、それは金銭的な問題であった。アイム家はどちらかと言えば貧乏寄りの庶民であり、これだけの道具を揃えられるだけの経済力があるとは思えないのである。
「作った人形を売ってみたらかなり売れてね。今はこの町に立ち寄った商人たちに大人気なのー」
レオナは嬉々としながら経済面をクリアできた理由を語った。彼女は作った人形を売ることで収入を得ていたのである。しかもそれでかなり稼いでいるようであった。
「おかげで畑仕事の手伝いをする必要が無くなってね。昼間からこうして家にいられるってワケ」
セシルが補足するように語った。生活に十分な収入を得られるようになれば農家の手伝いをして回る必要がなくなるのも納得であった。
「ループスちゃんはアルバスの部屋を使ってね。ちょっと狭いかもしれないけど部屋は昔のままにしてあるから」
レオナはループスにハルトの部屋を使う許可を出した。これで当分の宿代の節約をすることが可能になったループスは歓喜する一方でハルトは神妙な表情を浮かべていた。彼女は家を出ていく前に何か残したものがあったかが不安だったのである。
「すまん。部屋を使うのはちょっとだけ待ってくれ」
そう言うとハルトは音すらも置き去りにせんばかりの速さで数年ぶりの自室に一人飛び込んでいったのであった。
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