第139話 ハルトの部屋

 ループスを部屋の前で待たせること十数分、ようやくハルトは閉ざされた扉を開けて奥から顔を覗かせた。


 「待たせたな。入ってもいいぞ」

 

 『一体何をしていたんだ』という突っ込みはあえてせず、ループスは招かれるままにハルトの部屋へと足を踏み入れた。

 

 「なんだこれ」


 ループスはハルトの部屋を見て唖然とした。そこには机、椅子、一人用のベッドと壁に沿うように設置された本棚があるだけで他に家具らしいものが何もない。いわば殺風景な空間が広がっていたのである。


 「何って、俺の部屋だが?」

 「いくらなんでも物が少なすぎるだろう」

 

 ハルトは当然のようにそう言うがループスの目には明らかに異常に見えていた。これでは『私生活で使用する空間』ではなく『ただ寝るためだけに使用する空間』だったのである。


 「お前小さい頃はここで過ごしてたのか?」

 「そうだぞ」

 「こんな何もないところで?」

 「何もないとは失礼な。ほら、いろいろあるだろう」


 ループスからの指摘にハルトはやや怒り口調で反論した。ループスはハルトにいう『いろいろ』が具体的になんなのかさっぱり理解できなかった。


 「例えば」

 「本棚には本がいろいろあるし、机にも工具がいろいろと」


 そう言うとハルトは机の下の引き出しを開けて中に無雑作に詰め込まれた大量の工具を見せびらかした。さっきハルトが部屋の前でループスを待たせたのは机の上を中心とした部屋中に散らばったこれらを片付けるためである。普段持ち歩いている以外にもまだ隠し持っていたのかとループスは呆れずにはいられなかった。


 「あれだけ持っててまだあるのか」

 「これでも向こうに行く前に結構選りすぐったんだぞ」


 ハルトは工具をいろいろ手に取りながらどうでもいい情報を流した。本人にとっては重要なことなのかもしれないがループスにはさっぱりである。

 

 「まさか本と機械いじりだけで暇をつぶしてきたのか」

 「まあな。機械いじってればいくらでも時間潰せる」


 ハルトが機械いじりを始めると延々と時間を消費し続けるのはループスも知っていた。それは幼少期の頃から続く癖でもあったのである。


 「本もいろいろあるぞ……ってこれ全部学校でも読んだことあるような内容の奴ばっかりだな」


 ハルトは本棚にある本を適当に漁るがそのどれもが魔法や学問の入門書のような内容であり、ループスが実際に手に取って確認しても目新しいような内容はなかった。

 

 「あ、ベッドはお前が使っていいからな」


 唐突にこれまでの話の流れを切り、ハルトはベッドの使用権をループスに譲ると自分は机に向かって趣味の機械いじりを始めた。

 ループスはベッドの上に腰を下ろすと、急に眠気が押し寄せてきた。どうやらプリモにたどり着くまでの旅の疲れがどっとこみ上げていたようである。ループスはそのまま静かに寝息を立て始めたのであった。



 「やれやれ……」


 ループスが眠り始めたのを呼吸音で察知したハルトはループスの身体にそっと布をかけた。そしてループスには聞かせられないような話をするためにハルトは両親の元へと戻っていくのであった。

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