第37話 復讐に燃えるハルト

 ヤグルマ邸にて、ハルトを始めとしたレジスタンスたちはヤグルマの亡骸を前にそのあまりに唐突な死を悼んでいた。ハルトよりも前から彼についてレジスタンスとして活動していた者は特に大きなショックを受けている様子であった。


 「ヤグルマさん……なぜこんなことに……」

 「刺客にやられたんだ。背後から心臓を一突きでな」


 多少の落ち着きを取り戻したハルトはヤグルマの死因を語った。先日も彼を狙った刺客がベロニカ邸に潜伏していたのを突き止めたばかりであり、いつまた狙われてもおかしくはない状態であった。

 

 「一緒にいたのに気づけなかったのか?」

 「人のいる町中で堂々とやってくるなんて思うわけないだろ……」


 犯行現場は人のそこそこ多い町中、雑踏だらけで足音の聞き分けなどできる状況ではなかった。ましてやそんな場所で暗殺に及ぶなど想像できるはずもなかった。


 「俺たちがやることは一つ……弔い合戦だ」


 ハルトはレジスタンスたちにヤグルマの弔い合戦を仕掛けることを呼びかけたものの、それに賛同する声は思ったよりも多くはなかった。


 「どうした?俺たちのリーダーが殺されて悔しくないのかよ!?」

 「そりゃ残念だし悔しいけど、戦う相手を考え直してみろよ。相手はこっちよりもずっと強い上流階級なんだぞ。ヤグルマさんが上流階級の人間だから戦えたけど、俺たち庶民だけで勝てる相手じゃない」


 弔い合戦に賛同しなかったレジスタンスの中の一人がハルトに食い下がった。実際にベロニカ陣営はほんのわずかな人数で大人数のレジスタンスを数年以上も封じ込めてきた。ヤグルマが声を上げなければそもそも庶民が歯向かうような真似さえさせてこなかったのだ。そんな相手にヤグルマなしで立ち向かうのは気が引けてしまっていた。


 「俺は戦うぞ。たとえ俺以外がここからいなくなってもな」


 ハルトは復讐に燃えていた。銃に弾を詰め、予備の弾薬も用意してベロニカ邸へと向かおうとした。


 「待て、どこへ行くつもりだ」

 「ベロニカの屋敷だ。俺ならあの屋敷を跡形もなく消し飛ばせる」


 ハルトはベロニカ邸を消滅させるつもりであった。その後どうなろうが知ったことではない、今はヤグルマの仇を取ること以外は眼中になかった。


 復讐の念に駆られたハルトの行動は普段以上に迅速であった。

 その日の夜の内にベロニカ邸の門の前まで足を運ぶと懐から銃を取り出してゴーグルを装着すると門番をしていた屈強な男二人の足を威力を落とした弾で狙い撃った。わけもわからぬうちに魔法で足を砕かれ、男たちはその場に崩れ落ちる。


 「悪いな。お前たちに恨みはないが動かれると邪魔だからな」


 足を撃ち抜かれ、すさまじい激痛に悶える門番たちを尻目にハルトはベロニカ邸の敷地に足を踏み入れた。門番たちの命を取らなかったのは直接関係のない彼らは生かしておこうというハルトなりの温情であった。

 ハルトは使い切った二発の薬莢を取り出し、今度は大火力の魔弾を二発詰めこんだ。そしてすぐにベロニカ邸の灯りのついた部屋へと狙いを定める。


 (絶対に、絶対にただでは済まさない)


 ハルトは己のエゴのままに引き金を引いた。弾薬から解放された魔力は特大の光弾となってベロニカ邸の一室を外壁から貫いて反対側へと突き抜けた。

 

 「違う。ここじゃない」

 

 屋敷内は騒ぎになっているものの肝心のベロニカは現れない。あてが外れたハルトはまだ明かりが灯っている別の部屋に狙いを定めて再度引き金を引いた。その都度放たれる光弾がベロニカ邸の外壁を貫通し、瞬く間に屋敷を穴だらけにしていく。

 

 「チッ、弾切れか」


 装填した弾を撃ち切ったハルトは薬莢をすべて排出して次の弾の装填にかかった。屋敷を撃つことに一切躊躇いはない。壊しても、壊しても、壊しても、彼女の怒りが収まることはなかった。

 しかしベロニカたちもハルトが狙う場所の規則性に気付いたのか、屋敷の灯りが次々に消えていく。あちらは意地でも息を潜めるつもりのようであった。

 最後の土産と言わんばかりにハルトはベロニカ邸の玄関に狙いを定め、その入り口を魔弾で跡形もなく吹き飛ばした。


 「今日のところはこれぐらいにしといてやる」


 ベロニカ邸を風が吹き抜ける廃墟同然にするほどに荒らしまわったハルトは踵を返して夜の闇の中へと姿を消した。これでも彼女にとってはまだ物足りないぐらいであった。


 

 「次は必ず……」


 ハルトは必ずベロニカに直接報復することを誓った。むしろそうすることしか自分の中に燃える怨嗟と復讐の炎を鎮める術はなかった。

 やりきれない思いに溢れたハルトのゴーグルの底には彼女の涙が溜まっていたのであった。

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