058 偽りの真実
「お前にだけは伝えておかなければならないだろう」
パーティーの終わった瓦礫の山で、ミラーラは月夜を見上げながら言った。
スパイの顔つきに戻ったメアは首を傾げる。
「今までお前の身に起こった偶然と、そして私の能力についてだ」
そういう彼女の手には例の首飾りが収まっていた。
「能力? 今更なんだよ?」
「今から伝えるのはタリアの国家最高機密に指定されている極秘項目だ。他人はもちろん、あの子たちにも伝えてはならんことだ」
ミラーラの睨みに、思わず動揺してしまった。恐る恐る問いかける。
「……どういうことだ?」
「私の能力、不死鳥の力はただ飛ぶだけではないんだ。不死鳥とは時に幸運を運ぶ存在として語られるのを知っているだろう?」
時折そう謳われることもある。しかしそれはフィクションの中の話だ。
「ただの子供騙しだろ? 俺たちスパイにゃそんな奇跡は――」
「起こるんだよ、メア。いや、起こしてしまうんだ。私は」
ミラーラはブルームーンストーンを覗いた。
「不死鳥の力には、ありとあらゆる因果、流れというやつを捻じ曲げる力がある。謂わば圧倒的な幸運の力が。馬鹿な話かと思うかもしれんが、事実お前はそれを体験しているんだ」
「……わかるように言ってくれ、ミラーラ」
「極めて単純で簡単な『確率』の話だよ――神賦使徒は四人も集まらない」
その突き付けられた当たり前は、メア自身理解していることだった。
一千万分の一の確率で生まれ落ちる奇跡の存在、神賦使徒。かの存在が四人も居合わせること自体異常な出来事に他ならない。
「お前はすでに起こった事実として感受しているかもしれんが、それは本来起こりえるはずの無い、謂わば奇跡に他ならん。ではなぜその奇跡は四度も連鎖し、こうしてパーティを開くまでに至ったのか?」
「……不死鳥の幸運って言いたいのかよ?」
「ご名答だ、メア。私の幸運の力があの四人を引き付けてしまった」
あまりに飛躍した内容に、どうも付いていけない。一つの疑問が浮かぶ。
「……目星を付けてた三人は別としてシーナはどうなんだ? ミラーラは会ったこともなかった」
頷いた彼女はキラリと首飾りを揺らして見せた。
「これだよ。あの時お前に預けたこの首飾りは、ずっと私が肌身離さず持っていたものだ。不死鳥の力の余波を受け続けた結果、彼女を引き寄せた」
幸運のお守り――、確かにミラーラはそう言っていたが。
「……はっ、まさかマジで言ってたとはなぁ……ただの願掛けだと思ってた」
「無理もない。先ほど言った通り、国家最高機密だ。世に出ればただでは済まない」
その物騒なワードに喰いついた。
「なんでただの幸運が国家機密に指定されんだよ?」
「゙ただの゙幸運ではないからだ――」
彼女の口から語られた真実は想像を絶する内容だった。
不死鳥が放つ強すぎる幸運は世の情勢を転覆させてしまうほどの影響力を持つらしい。それは超広範囲の人々に伝染し、あっという間に国や権力の方針をも曲げてしまう。幸運と言えば聞こえはいいが、幸運が起こるということは代わりにどこかで不運が起きるということ。
天秤は決して両方の皿が同時に上がることは無い。
゙偶然゙の連続で成り立っている世界に流れを無視しだ必然゙の塊が落ちる。
いわば世界を狂わせる異物そのものだ、と。
だからこそ不死鳥の力に気付いてしまった帝国は、人々の暮らす地上から遠く離れた空中要塞にミラーラを収監した。不死鳥の力を世界に与えないためだ。殺すことさえ恐れた帝国は、執行官に能力を与えた技術の真逆、神賦使徒から能力を抽出する方法を研究し続けていた、と。
「……それがあのクソ要塞の頂上にあった妙な機械か」
十眼のカルトロが言っていた『本性を引き出す器』とはまさにそのことだったらしい。
「帝国は私から不死鳥の力を取り出し、我が物にしようとしていた。それが原因で三年もの間生き残れたのも、言ってしまえば幸運だったよ」
最後の一瞬、ルナマンバが伝えようとしていた言葉を思い出した。
「世の均衡が乱れ始める……?」
神妙な顔つきで頷いたミラーラは、その瑠璃色の髪を揺らしてこちらに向いた。
「私の力を知る帝国を中心に、これから世界はより荒れる。影の冠位は復建を余儀なくされるだろう――」
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