053 戦闘

「絶対に死ぬんじゃねぇぞ!! ヤバくなったら全力で逃げろ!! 分かったな!!」

 叫びながら遠ざかる彼を見送って、最低最悪の強敵と相対する。

 何気なく空中に立つ彼女を見るに、どうやら相方の能力を発動しているようだが当の男性執行官は見当たらない。

「前一緒にいた男の方は? もしかしてフラれちゃったの?」

「まさか。お腹がすいたから食べてしまったのよ。あまり美味しくなかったわ」

 嘘か誠かはともかく、飛行能力を駆使できるのは間違いなさそうだ。元々の透過と合わせて、それは脅威以外のなにものでもない。

 ルナマンバは子供をあやすように言った。

「ボスの前では威勢を張っていたけれど、本当は怖くて怖くて仕方ないのよねお嬢ちゃん? どうする? 一度だけ謝ってくれればお姉さん許してあげなくもないけれど……」

「ウソばっかり。頭下げてる間に首斬るつもりなんでしょ?」

 彼女は愉快そうに大鎌を振り上げた。

「大正解よ! 私を一度でも貶した人間は子供だろうと許さない! バラバラにして食べてあげるわ!」

 刃が迫る。しかしシーナは動じない。鉄球がルナマンバの脇腹を穿ったからだ。

「お腹ガラガラだよオバサン。無駄にでっかい゙パイパッドで見えない?」

 爆ぜた白嵐が彼女を貫いた。だらりと大鎌が降りる。

「火加減はどう?」

「……ちょうど気持ちいい刺激だわ。美容に最適ね」

 彼女は姿を霧散させた。本来の能力で白嵐から逃れるが。

「バレバレ」

 背後に飛ばした鉄球が空中でなにかにぶつかった。問答無用で再びの白嵐を見舞う。今度は鉄球三つ分の火力で貫いた。

「ラビチンほど正確じゃないけど、静電気でもそのくらいわかるから」

実体化したルナマンバは大鎌の柄を杖代わりに立つ。

「……成長したのねお嬢ちゃん。少しだけ舐めていたわ。でもその程度じゃお姉さんと一対一は無理かもね?」

 シーナは自分の肩に切り傷が入っていることに気が付いた。透過から数瞬の間に刃が走っていたようだ。垂れた血が大鎌に吸われてゆく。

「いつまで首が繋がっているかしら?」

「く……! そっちこそ!」

 シーナとルナマンバは衝突した。天性の能力と人工的に植え付けられた能力の戦いは熾烈を極める。

  

 三人の神賦使徒は被験魔獣との死闘に奮起していた。

 波のように押し寄せる魔獣たちに一切の手加減なく応じ、余すことなくその力をぶつける。

 空間を掌握したラビが神速の動きで肉を裂き、千駆の軍隊を従えたミアが物量で抑えつけ、そして爆炎を携えたガルネットがそれらを一網打尽にする。

 たった三人で怪物の群れと対等に戦えていた。が、当の鳥籠には近付けさせてくれない。絶対守護を脳に焼き付けられているのは明らかだった。

「小賢しい!! まとめて灰にしてやろう!!」

 ガルネットが爆炎でできた大玉を生成し、鳥籠に向かって放った。行き先にいた魔獣たちは彼女が宣言した通りになったが、すぐに穴を埋めるように増援が湧いて出る。

「埒が明かないわね……」

 ミアが歯噛みした時だった。耳の無線機がなる。相手はメアだ。

「ミラーラは見つかったかてめぇら!?」

「いや、こちらは犬どもの世話中だ! ひどく気に入られてしまったようでな、手が離せん!」

 そこでメアからターゲットは鳥籠にいないらしいことが告げられた。隙を見て戦闘を離脱し周囲の探索に移るように、と。

「ははっ、隙とは! うちのボスは無理を言ってくれる! これがパワハラというやつか!」

 魔獣を叩き潰しながら笑うガルネット。

 ラビは頭上を指差した。

「ワンチャンありそうなの上しかないのん! 下はずっと空洞だし、横は壁厚すぎっ!!」

 ミアはドームの天井を見上げた。そこでとある痕跡を発見する。

「……ボス。たしか空月亭を襲ったのは飛んで消える魔女と言っていたな?」

「ああ! ちょうど今その魔女ババアと戦闘中だが!?」

 彼女が視線を向けた先にはドーム天井に張られた天窓があった。その中心に近い一枚が、砕かれたように割れている。

「……まさか鳥の類ではないだろう」

「子供がボール遊びに興じている可能性は?」

 ジョークを飛ばしたガルネットに言った。

「無いな。つまり、あれは足跡だ」

 状況を悟った彼女たちはアイコンタクトを取り、周囲を物色する。ドームの端から上部へ続く階段が伸びていた。

「登るぞ!! 犬の相手はここまでだ!」

 魔獣の猛撃を凌ぎ、三人は要塞の上層を目指す。

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