051 再会
鳥籠を目指していた三人は、物陰に隠れて息を潜ませていた。
天井を進みいくつもの壁と配管を破って辿り着いた先はドーム状の巨大なエリアだった。壁際に沿って広めの通路が走り、その中心部には強固な鋼の大柱が構えている。
目的地、鳥籠を守る絶対守護の門番だ。
「私の晴れ舞台は視認したが……一筋縄ではいかなそうだな」
金網の隙間から覗いたガルネットが呟いた。
その先には人間の何倍もの大きさを誇る魔獣が闊歩していた。蒼紫の大角と鍵爪を携えた、動物図鑑のどこにも載っていないであろう亜種生物。蛍光色の瞳をギラつかせ、異常なまでに発達した牙から垂れるヨダレは床を溶かしている。
通路を埋め尽くすほどの大群が、まるで鳥籠を守るように解き放たれているのだ。
「さっきの研究員が言っていた被験魔獣というやつか?」
「うじゃうじゃなのん……」
固唾を飲むミアとラビ。その時、耳の無線機が鳴った。
ミアが喰い付くように応じた。
「どうしたシーナ! なにかあったか!?」
通信先からの連絡を聞き入る三人。しばらくして互いに目を合わせた。
「……鳥籠が荒らされてる? どういうことだ?」
困惑しながら無線機を押さえ付ける。が、それ以上の有益な情報は無かった。
「……わかった。こちらもラビの能力で周辺を探してみる。ちょうど今鳥籠の正面に――」
その時だった。ラビのジト目と魔獣の目玉が合ってしまった。
「あ、やべ」
次の瞬間、巨大なハンマーでも叩きつけるように三人を尻尾の回転が襲った。
ギリギリで飛んだ彼女たちは魔獣で支配された通路に着地する。
「……正面にいるんだが、うちのウサギが厄介な犬どもに目を付けられてな。ボスに伝えてくれ。隠密行動は失敗、これより戦闘を開始する――と」
シーナの呼びかけは通信の遮断により届かなかった。メアは舌打ちを鳴らす。
「ちっ、しくじりやがったなクソどもがぁ……」
エレベーターを戻る二人は焦りを隠せない。ミラーラとコンタクトを取る前に潜入がバレてしまえば当然作戦の成功率は極端に下がることとなる。
「五分と経たず警報が鳴りやがるぞ。備えろシーナ」
彼女がごくりと唾を飲み込んだ。
エレベーターが止まり扉が開くと、待っていたのは銃口だった。
「動くなぁああ!!」
怒号が研究室に響く。数人の警備兵と、その奥に研究員たちが群がっていた。
「さすがにほいほい歩き回らせてくれるほど馬鹿じゃねぇかぁ」
「よくそんな呑気に言えるわね……!」
二人は両手を上げて見せる。メアは視線を巡らせた。
――警報はまだ鳴ってねぇし増援もこねぇ――まだ発見の初期段階だな――
「ちょいと早ぇがこっちも始めっかシーナ。まずは――」
その時、研究室内のあらゆる電子機器がスパークした。柱の固定電話から警備兵の無線機まで、煙を拭いて故障する。
「連絡手段を断て、でしょ? だてにアンタのやり方見てきてないんだから」
「……カカッ、上出来だ。一人もこの部屋から出すんじゃねぇぞ!!」
同タイミングで二人は行動を開始。
メアが高速の動きで警備兵に接近すると、向けられていたすべてのサブマシンガンを両断。無能と化した兵隊たちを足技で制圧する。その隙にシーナが鉄球を飛ばし、白嵐を爆散させて研究員たちを一網打尽にした。通路に逃げ込もうとした数人の背中を暗器と鉄球が穿つ。
たった十秒の間に立っている人間は彼ら二人だけとなった。が、鮮やか過ぎる殲滅劇を演じたことへの慢心は無い。
「ここが見つかるのも時間の問題だ! 俺たちも鳥籠に向かうぞ!」
駆けだした二人は奥へ続く通路に入った。
暗い鉄板の通路をかれこれ十分以上走っている。最初のうちは兵隊と出くわすこともあったが、辺りが暗くなるにつれそれも徐々に減っていった。
一向に警報が鳴る気配はない。
メアは妙な違和感と疑問を感じながら先へ進んでいた。
たまらずシーナが声を上げる。
「あんなに派手にやっちゃったのに警報が鳴らないのは変だよ……! ラビチンたちも暴れてるっぽいこと言ってたし、罠なんじゃ……!!」
「分かってる……! たがここまで来て引き返せねぇ! トンズラこく方があぶねぇ!」
危険性は十分承知の上だ。だが不確かな予想程度では退却の決断を下せない。数年に及ぶ準備期間と、いくつもの仲間の命を犠牲にしてこの場に立っているのだ。
「俺たちはスパイだ……! そう簡単に任務を捨てられねぇ……!」
――私がそんなこと教えたか、メア――
声が鳴った。
懐かしい声だ。力強くて暖かい、太陽のような声色。
心の奥底から響いたものでは無い。
「――――は?」
声の先を目で辿ったメアは足を止め、目を見開いた。
「任務のためとはいえ、家族の命を無駄にするような男に育てた覚えはないぞ?」
彼女は広間の中心に立っていた。暗闇に居て月光に照らされているような女。
瑠璃色の髪は戦乙女のように、煌めき映える。
「――久しぶりだな、メア」
IF5最終目標にしてターゲットの女。ミラーラはそこに立っていた。
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