049 最終作戦開始

 蝙蝠は要塞中腹辺りの甲板に着陸していた。本来なら到底着陸などできる場所ではないが、小型のボディとメアのテクニックにより可能となった。

 雷壁突破後、驚くほどあっさりと侵入は成功した。警備が湧くどころか警報ランプ一つとして回っていない。その静けさに女性陣は戸惑いを隠せない。

「罠……じゃないよなボス?」

 一際敏感なガルネットが問いかけた。メアは敵地とは思えないほど落ち着いている。

「恐らくな。燃えたアジトに帝国の拠点数十ヵ所へ潜入するって内容の大嘘任務書をしこたま仕込んどいた。今頃地上の要所はガチガチだろうが、関係ねぇ。ここの兵力も薄まってる筈だ」

 飛空艇にシートを掛けて目隠しすると、ラビに向いた。

「そうだろクソチビ」

 指先を角のようにしたラビは頷く。

「ぜんぜんいないのん。ガラガラ」

「うし。ならさっさと行くぜ。潜入開始だお前ら」

 甲板の脇から要塞内部へ入る。配管やケーブルが入り乱れた通路はいかにもといった感じだ。

 ラビを先頭に駆ける彼らは、足を止めることなく奥地へ潜ってゆく。

「……暗いね。監獄塔とはまた違う気味悪さがあるよ」

「ここに極卒はいない。まぁもし出てきても私が粉砕してやるがな」

 会話をする余裕すらある。そのままあっさり件の鳥籠までたどり着いてしまいそう――と思った矢先のことだった。ラビが足を止める。

「しーー、なのん。だれかいるのん」

 T字路の壁際に身を潜める。金網の床を歩くいくつかの足音が聞こえてきた。

「不死鳥に使う『器』、完成したってな。地上がうるさくなりそうだ」

「そんなこと言って、戦争が嬉しいんだろう? 被験魔獣の晴れ舞台だ」

「ハハ、我が子の活躍を喜ばない親がいるか?」

 三人の話し声が近付いてくる。警備ではなく研究員らしい。

 メアは少しだけ口角を上げた。

「ギリッギリ間に合ったみてぇだな……ミアが思いの外チョロくてマジで助かったぜぇ……」

「ほ、褒めているのか貶しているのかどっちなんだ……そもそも私だけじゃないだろ……!」

 こそこそと話しているうちに、音も無くラビが三人の口を塞いだ。通路に倒れ込んだ彼らの服を物色する。

「一端の研究員だな……大したもんは持ってねぇがこいつは頂くとするぜ」

 IDカードと白衣、そして眼鏡を奪ったメアはそれを身に着ける。元々の礼服も相まって寝不足研究員に見えなくもない。

 同じセットをシーナに渡した。

「ここから別行動に移るぞ。てめぇら三人は予定通り鳥籠を目指せ。俺とシーナは中に紛れてサポートする。クソゴリラの出番になるまで極力荒事は避けろ」

 三人は頷くと天井の鉄板を外した。

「ワワシたちは上から行くん。この先おんなじのがおおそうだから気―つけてシーナン」

「心配するな。いざとなったら私が壁をブチ破って助ける」と親指を立てるガルネット。

「ボスの心配は?」と呆れた様子のメアは完全無視して、ミアがシーナに抱き着いた。

「なにかあったらすぐ無線機で知らせるんだぞ。私が行くまでそこの男を盾に使っていいから」

 キッ、と睨んだ彼女は盾男を指差した。

「傷一つ負わせるなよ。帰りは泳いで帰ることになるぞ」

 蛇をも睨み殺しそうな顔面に「へいへい」とてきとうな返事を返す。

 三人を見送ったあと、不慣れな眼鏡をくいっと上げた。

「ボスとしての威厳もクソもねぇよ」

 陽気なシーナは衣装でも身に纏うように変装を完了させると、気怠そうな彼に言った。

「ガイコツ、やっぱりアタシこのIF5が大好き」

「だろうなぁ」

 真逆な心情の二人は研究所内へ潜入を開始する。

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