043 クソサンタジジイ作戦

数分前、丘の上。

 遥か下方で輝く街にソリの頭は向いていた。数メートル先は絶壁と言ってもおかしくないほどの急斜面が待ち受ける。

 ソリに乗り込んだメアをシーナとラビが必死で止めていた。

 二人の人相は穏やかではない。

「マジでやろうとしてる!? マジでやろうとしてないよね!? この角度見て!? ほぼ直角だよ!? アンタ視力良かったっけ!?」

「ぜったい寒すぎて死ぬである……ガクガク……時速何キロである……ガクガク……」

 決死の説得を「カカッ」と笑い飛ばしたメアは、ソリの後ろ側に立ったガルネットに合図した。

「おうクソゴリラ!! もうすぐ鳴りやがる鐘が合図だ!! てめぇのゴリラ的腕力で一気に押してくれ!!」

 愉快そうな返事を背に手綱を握る。

「イイ感じのシカが手に入らなかったのが唯一の心残りだが……まぁしゃあねぇか」

「しゃあねぇかじゃないわよ!! こんなの絶対自殺行為!! てかブレーキ付いてんの!?」

「そんな近代的なモンが付いてるように見えるかクソガキ?」

「見えないから言ってんの!! ジーザス!! ああもう最悪だよぉ!!」

 ラビに泣きついたシーナはこちらをキッと睨んだ。

「覚えてなさいガイコツ……! 木っ端微塵になったら化けて出てやるんだから……!」

「安心しろ。バラバラになる時は全員一緒だ」

 他愛もないことを言っている間に終焉を告げる鐘は鳴り響いた。

 瞳孔を開いたシーナとラビ。メアが歯を光らせ、背後でガルネットが呻った。

「カカッ!! いこうぜ!! ガキどもにプレゼントをバラまいてやる時だ!!」

 一つの悲鳴を以て、ソリは丘の上から消えた。


「ひぎゃああああああああああああああああああ!!!!!」

 泣き叫ぶシーナとしばらく前に凍結したらしいラビを横目に、猛スピードで斜面を滑り降りる。目標は丘の中間にポツンと立った銀髪の軍人。呆気にとられた苦笑いが見て取れた。

「予定通りいやがったぜ!! 仕事だてめぇら!! ミスしたクソは一週間飯抜きだ!!」 

 その言葉を皮切りに三人の神賦使徒たちは身体に鞭を打った。

 まずはラビが走り続けるソリを蹴り、さらに加速してミアの元まで飛んだ。彼女を抱えると、ウサギが跳ねるように宙を舞う。跳んだガルネットが二人をキャッチすると同時にミアの後頭部を手刀で打って瞬間的に意識を奪い、そのままシーナが白嵐でガルネットを引き付ける。

 ソリの上ではメアが巨大なプレゼント箱のふたを開いて待ち受けていた。

「遠慮なくぶち込めてめぇら!!」

 頷いた三人はミアを箱の中へ投げ入れた。間髪入れずにメアが蓋を閉じる。

「速攻で完了だ!! メリークリスマスだぜ分身ども!!」

 応戦しようとした雪像たちは虚しくもソリに轢かれバラバラに散ったのだった。 

 

 長年ミアと共に過ごしたメアは彼女の能力を知り尽くしていた。

『幻兵創造』その能力は周囲に存在する形ある流動体を集結させ自らの分身を創り上げること。水や土、雪など様々なパターンが考えられる極めて強力な力だが、その反面弱点もある。

「ある一定の強度を持つ壁がその流動体との間を遮っていた場合、能力の発動は無効化される」

 コンクリートや金属製の壁で周囲が囲われていたら幻兵の創造はできない、ということだ。

だからこそミアの宿舎には窓が一つも無かった。

 侵入した時から引っ掛かっていたのだ。煙突や排水溝は最低限の隙間を残しすべて塞がれ、水が貯められそうな風呂場や便所には監視カメラが仕掛けられていた。

 他と比べてもあまりに彼女の宿舎は異常だった。それも一重に能力を抑制するため。

 しかし軍の用意した能力への対策はそれだけでは無い。

「恐らく他人の能力を遠隔で支配下における゙アンチ能力者゙の能力を持った存在がいやがる」

 そうでなければ雪で溢れた屋外で彼女を縛ることができない、と。

 つまりミアを救出するには――

 一度目の接触で警戒が増している軍に気付かれないようミアに接触し。

 何者かに操られている雪像たちが反応するよりも早く彼女を能力発動不可の状態へ落とし。

 速攻で四方八方が壁で覆われている閉所に閉じ込める必要があった。

 当然ミア確保後の追跡対策と逃亡も考慮しなくてはならない。

 そのすべてを可能にし、実現させたのがこの――

「クソサンタジジイ作戦だ!! うちの妹は帰してもらうぜ!!」

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