041 顔

メアたちが去った一時間後。ミア宅にはたくさんの兵隊が集まっていた。侵入者の侵入経路の解明と指紋採取に追われる兵隊たちは忙しそうに室内を歩き回る。

 さすがに「ただの泥棒が入り込んだだけ」というミアの嘘は信じてもらえなかった。

 兵隊たちを掻き分けて、一騎の雪像――自らの分身が背後に立った。その純白の指先が腰に触れると、厭らしく背中を這って頬まで登る。

 その感触だけで彼女は察した。

 背後の雪像が、自分ではない姿に変化していることに。べろりと不気味に伸びた舌が首元を舐める。湧き上がる不快感を耐えていると、背後から電子音が漏れた。

「大丈夫でしたか~我らが皇女様~?」

 世界一聞きたくない声色。汚らしい男性の声だ。

「なにを企んでいるか知りませんが~目立ったことをされると困りますよ~? あなた様は我々の゙顔゙なのですから~」

 怒りを覚えて歯を食い縛る。

「企みなどない。私の身に何かあれば私の能力で解決する。心配は無用だ……」

 嘲笑うように無線機がハウリングした。すると近くに控えていた雪像たちがミアに寄り、そして矛先を向けたのだ。

「もゔ私の能力゙ではなぐ我々の能力゙でしょう~? 物分かりの悪い小娘にはお仕置きが必要でしょうかね~?」

 俯いて立ち尽くすミア。本来支配下にあるはずの雪像たちの手が身体を弄る。

 頬がほんのりと赤く染まった時、背後の電子音はまたハウリングを起こした。


「ぶった切れクソゴリラァ!!」

 メアの声に応じて、巨大な斧が振り上げられた。ガルネットの持つその斧は木の幹に真横から切れ込むと、あっさりと目的を達成する。

 街の外れにある森林地帯に集まったIF5一行は樹木の伐採に精を出していた。

 ガルネットが薙ぎ倒した木々をメアがチェーンソーで何分割かに切り、それをさらにラビが板のサイズに整える。

 ノコギリを引く少女は汗だくである。

「労働過多である~……パワハラである~……」

「がんばってぇラビチン!! 終わったら金平糖買ってあげるよ!! ガイコツが」

 シーナの応援虚しくふらふらのラビ。

 ブオンッ、とチェーンソーのエンジン音が鳴る。

「サボってんじゃねぇぞてめぇら!! 再突入まで時間ねぇぜ!」

「ならチェーンソーかせっ!!」という彼女の訴えは完全に無視された。

 雪降る中、四人は作業を進める。


 街の手芸用品店を訪れたラビとガルネットはカラフルな店内を物色していた。

 赤、緑、黄色の季節色を見つけては見境なしにかごへ放り込んでいく。生地やテープなどが主な備品類だ。

 山盛りになったかごをレジに持っていくと、店主のおばさんは目を丸くした。

「あなたたち随分買い込むのね!」

「ああ。せっかくプラネタリアに来たんだ。ホワイトクリスマスを堪能したいと思う」

「いいわねぇ。年に一度のお祭りはそうでなくっちゃ。私が小さい頃なんてねぇ~」

 昔話を始めたおばさん店主は上機嫌に袋詰めしていく。

 武器でも防具でもない、作戦に必要な道具が着々と揃いつつあった。


「これがアンタでこっちがアタシ!! あのちっこいのがラビチンでセクシーなのがガルネットさんの衣装ね!!」

 衣装屋の特設コーナーでシーナが声を上げた。指差す方には赤と白のあの衣装がマネキンに掛けられている。どこぞの国の老人が着る衣装は時代を越えてユーティリティーを取り込んでいた。

 メアが頷く。

「問題ねぇ。おいオヤジ! この四つの他に付け髭と付け眉毛と付け鼻毛くれ!!」

「付け鼻毛なんてありませんよぉ!」

 小太りの店主があたふたとメアの注文に答えている。

シーナは小さくなったギプスの腕で衣装に触れた。

「スパイらしくなってきた……のかな?」

 必要なものは揃った。あとは来るべき夜までに準備を完了させるだけだ。

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