034 LL機関

プラネタリア皇国軍特殊戦闘機関ラストリベリー。通称『LL機関』と称される当国家の有する軍組織。その絶対的エースにして銀氷の皇女と謳われる一人の女こそが彼らの狙う最後のターゲットだった。が、それには問題が山積みだった。

「てめぇらと違って相手が゙野良犬゙じゃねぇ。それどころか国に所属しだ忠犬゙だ。相手取ろうとすりゃあ数万の軍隊を相手しねぇといけなくなる。ターゲットは重要なキーパーソンだが、たった一人のために戦争すんのはごめんだ」

 野良犬と揶揄されて「ワンワン!」と吠え始めた二人を差し置き、ガルネットが問いかけた。

「正攻法の正面突破では不可能か。貴様らスパイお得意の、みみっちい小細工の出番だな」

「本当ならそうしてぇとこなんだがな、相手が相手だ。奇策珍作、手回し程度で動かせる山じゃねぇ。上層部からの掛け合いはまず期待できねぇし、誘拐でもするようなら俺たちは全員もれなく雪像にされちまう。クソゴリラの手前言いにくいが、力ずくって選択肢は無ぇと思え」

 呻ったガルネット。落ち着きを取り戻したシーナが言った。

「そこでさっき言ってた女心?」

「ああ、反吐が出やがるがそれしかねぇ。俺たちで奴を、落とす」

「マジメなのかふざけてるのかわからないのん」

「残念ながら大真面目だクソチビ。タイムリミットは一週間。今ある情報を駆使して、何としてでもターゲットを手中に収める。穴がねぇ完璧女だが、同じ人間だ。必ず弱点はありやがる……」

 なにやら知った口調の彼に、三人は問いかけた。

「あんた、ターゲットのこと知ってんの?」

 少しの間口籠ったメアだったが、諦めたように溜息を落とした。

「……昔、俺の妹分だった女だ」

「……は? 妹分?」

「ああ。名はミア=バルベルズ。三年前までIF5に所属してた――」


 三年前、ヘルゲージの一件でミラーラがメアを逃したあと、タリア王国軍部は大混乱に陥った。それは室長のミラーラ含め多くの捜査官の失った人事的ダメージや任務失敗の後始末はもちろんだが、それだけではなかった。

 とある一人の少女が暴れたのだ。

 少女は負っていた怪我の影響から当作戦に参加していなかった。ミラーラのことを姉のように慕っていた少女はIFナンバーの本部で暴れ散らかしたのち、獣のようにメアに詰め寄った。

 なぜミラ姉を見捨て逃げてきたのか――と。

 周りの人間は少女に事実を伝えたが、まったく聞く耳を持たなかった。ただ組織は壊滅し、慕っていた人は居なくなった。その辛い現実だけがまだ幼さが残った少女に突き付けられたのである。

 かくして少女は本人の希望もあって友好国のプラネタリア軍部へ移籍となった。

 それから三年の月日を経て、少女は一端の軍人見習いから銀氷の皇女と称される存在まで成長したのである。

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