035 皇女様

「なるほどね……つまりこれから引き入れるターゲットはアンタのことが大っ嫌いかつ超~強い軍人様ってこと」

「ああ。十九歳でLL機関の主席を張る。肩書は空軍少佐だ」

 プラネタリア軍の少佐となれば個人の能力以前に中隊規模の部下を従えているはず。勧誘はおろか直接話すことさえ簡単ではないだろう。

 精通したガルネットが呻った。

「使える手段はボスとのコネ以外無さそうだな。到底不可能に思えるのだが、なぜしんどくならないと?」

「目的が一致してやがる」

 メアはそう言うと一枚の写真をテーブルに置いた。長い銀髪に軍服姿の美女が移る。

 四人目のターゲット、ミア=バルベルズだ。

「ヤツはミラーラに心底溺愛してやがった。三年経った今でも救出は諦めてねぇはずだ。事実ヤツがプラネタリア行きを決めたのは、当時この国が帝国と敵対関係にあったからだ」

 タリアより大きな国家で力を磨き、救出の期を窺っているはず。古巣の同胞が同調の意思を見せれば勧誘も不可能ではない、と。

「だがここ最近のプラネタリアは帝国と衝突するってより根底から関りを断つ方針へシフトしてやがる。ヤツからすりゃ思い通り身動きが取れず、痺れを切らしてる頃合いだ」

 シーナは写真を手に取った。

「そこにアタシたちがつけ入るってわけね……。でも軍の少佐様でしょ? そんなすぐ傾くかな?」

「もともと生え抜きの軍人じゃねぇからな。プラネタリアに固執する意思は薄いはずだ。まずはアポとるぞ」

 一度言葉を区切り、三人へ順に目を向けた。

「そのためにてめぇらにはやってもらうことがある。まずクソゴリラ」

「なんだ?」

「てめぇは出来る限り軍の内情を調べろ。トラブルでも人間関係でも、リアルタイムの情報なら何でもいい。元テロリストの鼻が利きやがるだろ?」

 ガルネットは得意気に頷いた。

「次にクソチビ。てめぇは外に出てる間、常時空間知覚を張ってろ。鼠一匹見逃すんじゃねぇ。修行も兼ねて、感覚を研ぎ澄ませとけ」

「おけおけ~」

ラビはビシッと手を上げた。

「最後にクソチビ。てめぇだが……」

「なになに? 追跡? 盗聴? はっ! もしかしてハニートラ――!」

 一瞬顔を赤らめたシーナ。気にせず腕のギプスを指差した。

「怪我の治療に専念しろ。今回は幸い荒事にはならねぇはずだが、ヘルゲージとなりゃそうはいかねぇ。今まで以上にてめぇの力が必要になる。それまでに腕、完璧に直しとけや」

 きょとんとした彼女。意外な優しさに戸惑う。

「なんか文句あるか?」

「う、ううん! りょーかい! 頑張るから!」

「頑張るんじゃねぇよ」と言いながら、メアはテーブルに何枚もの資料を広げた。LL機関の物と思われる極秘文書から新聞の切り抜きまで、さまざまな彼女に関する情報がさらけ出される。

 シーナはその中の一枚を拾い上げ、目を凝らした。

「……美しき我らが皇女。帝国派テロリスト千人を粉砕――かぁ」

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