030 もう一体

鉄球が白嵐の電流を繋ぐ。

 この鉄球はあくまで白嵐を遠くまで届かせるためのもの。飛ばして当てる攻撃用ではなく、重量も軽い。それは一重に、鉄球よりも白嵐そのものの方が攻撃力が高いからである。

 しかし。

「ぐ……!! 白嵐の効き目が弱い……!?」

 極卒相手に白嵐が思った通りの攻撃力を発揮していない。

 黒ずんだ肉体に目を凝らすと、表面に取って付けたような筋肉が縫われていることに気が付いた。

「元々の身体を覆うみたいに縫い付けられてる……皮膚の表面から神経とか臓器までが離れてるんだ……!」

 重ねて肥大した魔造の鎧。白嵐は皮膚を焼くだけで内部にダメージが入りにくいようだ。致命傷を負わせるとなるとそれ相応の出力が必要だが、ラビを捕えた時のような罠は当然ここには無い。

「なにか別の手を考えなくちゃ……!!」

 思考を巡らせるシーナに構わず、極卒は斧を投げ飛ばす。

自分の身の丈ほどもある凶器が頭上スレスレを裂いた。背後の檻を両断しているところを鑑みると、一撃食らえば二度目はない。

「だったら……これならどうよ!」

 両手を地面に付き、広範囲に白嵐を展開。共鳴を利用して鉄屑や岩石を手当たり次第浮かび上がらせ、そして極卒に向け放った。

「ググッ!!」

 大量の残骸が肉体を打ち、足を止めることはできた。が、それまでだった。大したダメージは与えられない。

「攻撃も防御を規格外って、ズルすぎ!! ちょっと分けろ!!」

「グオオオオオオ!!」

「やっぱり要らない!!」

 再び逃げ惑うシーナ。

 それを見ていたガルネットが声を上げた。

「頭だ!! 頭を狙え!!」

「頭って……! 鉄マスクで超ガードしてるじゃん!」

「だからこそだ! そいつらが防具で守っているということは打たれ弱い証に他ならん!!」

 なるほど、と頭部を見上げた。確かに巨大な身体に比べて小さく、本来の人間の頭部と同じ程度の大きさしかない。首元にボルトで固定された鋼鉄のマスクは怪しさ全開だった。

「……んなら! 引っぺがしてやる!」

 シーナは頭上に垂れ下がった鎖に目を付けた。白嵐で操りブラブラと揺らす。

「おいでおいで~。か、かかってこいやぁ~この……え~っと、クソデカまっくろ~?」

 どこかで奮闘しているであろう自らのボスを真似て必死で煽る。素直に襲ってきたところで一本の鎖の先端をマスクにくっ付けた。

「めっちゃ簡単に引っかかったぁ!! そりゃああ!!」

 力の限り、鎖を左右に振り回した。すると。

「グゲェエエエエエエ!!!!」

 その巨体を動かせるほど強力な力でもないはずが、極卒は悲鳴を上げて振り回されたのだ。

「き、効いてるっぽい!? それなら増しでいったげる!!」

 目に見えるすべての鎖を共鳴させ、鋼鉄マスクに接続。

 揺さぶり、回し、捻る。

 そしてジャイアントスイングよろしく大回転させ、遠心力が最大になったところで一気にすべての接続を解いた。

「ぶっとべぇ!! ブリッキー!!」

 勢いよく投げつけられた極卒は、檻の格子を突き破り壁に激突した。

 未だ意識はあるようだが中枢神経にダメージを負ったのか、立つことができない。

「よし! 今のうちに!」

 シーナはここぞとばかりにガルネットに向け走った。

 しかし、そこで最悪の事態は起こる。

 シーナより先にガルネットに駆け寄ったものがいた。それは背後でうずくまるブリッキーに似た巨体。

 もう一体の極卒が彼女に迫っていた。

「ちょっと! なんでそっちを狙うのよ!?」

 侵入者である自分には目も暮れず、極卒は巨大な拳を振り上げてガルネットに襲い掛かった。

 ――解放される前に殺すってこと!?

 これも一つの頭脳的行動だった。危険な囚人が野に放たれる前に行動不能にしてしまおう。

 そうする許可も当然彼ら極卒には与えられているはず――。

「待ちなさいよ!! その人がいないと……!!」

 すべてが狂ってしまう。危険を冒してここまで来た意味も。二人が執行官と戦っている意味も。そしてこれからの作戦もすべて。

 メアの計画が頓挫し白紙に戻る。

「全然ハッピーじゃない! それは絶対ダメ!!」

 気が付けば身体が動いていた。ガルネットと迫る拳の間に、小さな身体が割って入っていた。

 次の瞬間、強靭な拳がシーナを穿ってしまった。

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