027 巻き
「ヤバババババババ!!!!!」
ラビを追うように銃弾の雨が降り注ぐ。一心不乱に逃げる彼女はどうすることもできず、ただ雨で濡れた壁面を駆け回る。
弾倉をリロードしたログホークが見下ろした。
「秒殺するんじゃなかったのか? 俺のカウントではもう一分は経ってるが」
「おりてこいテンパッ!」
「生憎、テンパは似たもの同士だ」
メアサイドとは裏腹に、煽りの下手なラビと耐性のあるログホーク。
状況は芳しくない。
ラビは得意のナイフさばきで銃弾を弾き飛ばし、数本投げ放った。が、さらに距離を取られ虚しく海へ落ちていく。
「ナイフもとどかないん……どーしよー……」
戦闘のフィールドがフィールドなだけあって、打つ手のパターンは限られる。
しかしすぐに白旗を振るほど彼女も戦闘経験に乏しくない。殺しの手法だったら王冠死霊隊相手だろうと負けない自信があった。
「うーむ……八パターンくらいしかないん……」
その時、必死で戦うメアの姿がジト目に映った。能力も、自分からの指示もなく不可視の相手をする彼は圧倒的に不利なはず。だが傷付いても弱るどころかより勇んで前を向いている。
この場にいないシーナもそうだ。たった一人で監獄塔に侵入し、ミッションを全うしようとしている。
――三人仲良く海へ捨ててあげる――
猛烈に熱が湧き上がってきた。それが゙怒り゙であることに気付くまで時間は掛からなかった。
「うし。ぜんぶやろ。ワワシ、お友達のためにがんばるよじっちゃん――」
首に掛けたロケットに一瞬だけ触れると、彼女は猛スピードで塔を登り始めた。風を掻き分け雨を散らすその様は龍のように、ログホークを置き去りにする。
「逃がすか、小娘」
高速で追ってくる人型と無数の弾丸。すべて、察知していた。
塔の周囲を回り、別方角の壁面に足を付く。ログホークが顔を出したその瞬間。
「せぇええいっ!!」
身体を回転させながら斬りかかった。防御を考慮していなかった彼の腕や足をナイフがえぐる。
「ぐ……!! 小細工を……!」
槍を抜いたところに、さらに追い打ちをかける。懐で身体を捻ると、踵落としを見舞った。当然ただの苦手な体術ではなく、踵の先からは隠しナイフが飛び出している。
ガラ空きの右肩に刺し込まれた。
「こ……このぉ……!!」
気性を荒くした彼に、勢いよく突き飛ばされる。が、それも想定済み。
すでに彼のコートには合計十五個の小型爆弾がくっ付いている。
「びょーさつっ! で、ある!!」
次の瞬間、目の前の執行官は弾け飛んだ。爆炎が晴れるのを余裕の背伸びをして待つ。
そして現れた姿に、眉を揺らした。
「うわぁ……それ、なんなん?」
爆発の寸前に脱いだであろうボロボロのコートと、そして赤黒い身体。えぐられた箇所に見えていたのは人のそれではなかった。
「……気味悪いだろう? これは、君たちのような゙オリジナルになれなかった者゙の末路さ。自分がどれだけ幸運か、もう一度見つめ直した方がいい」
魔造の肉体がうねっていた。外から吸収した血液が黒く変色し、打ち震える血管に流れているようだ。
「ここからが本番だ」
「のんのん。もう一回、おわり」
「――?」とログホークが眉をひそめたのも束の間、その効果が爆ぜる。
隠しナイフで穿った彼の肩が、どろりと溶け出したのだ。
「毒か」
「とりあえずぬっとけってワカメが言ってたん。そんでこれがビリビリ」
ラビはナイフで白嵐を纏った靴に触れ、それを彼に突き立てた。
「があああああああああああああ!!!!!!」
シーナの白嵐が襲う。それはラビが捕えられた時とは比べ物にならないほど強力になっていた。
十分過ぎる攻撃の連打。
しかし、二年間もの間殺し屋として生きてきたラビの攻撃はまだ終わらない。相手が強敵ならその分、徹底的に詰めなければならないということを彼女は痛いほど理解している。
突き立てたナイフにはワイヤーが巻付けられていた。その端にはもう一本のナイフが。
「せぇえええええええいいっ!!」
掛け声を上げて天高くナイフを放った。塔の頂上付近まで上がったそれは、とある役目を果たす。
「ほんとはシーナンのがよかったけど、巻きなので!!」
上空のナイフに落ちた雷がワイヤーを伝いログホークを貫いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます