024 怪死
黄昏に染まったスパの木陰で、淑女は口紅をぬりなおしていた。
真っ赤な唇からちろりと舌が覗く。漂う色香に引き寄せられて、若い二人の男が寄ってきた。
「そこのグラマラスなおねぇさ~ん。一人~? 俺たちとあそぼーよー」
色黒のチャラそうな彼らの視線は、豊満な胸元と臀部に刺さっている。
ワザとらしく身体を揺らして見せた淑女。笑顔で応じた。
「あらあら~こんな若い子たちに話しかけられて嬉しいわぁ~。でもどうしましょう? もうビーチは暗くなってしまうし……」
二人は互いに見合わせた顔に下品な笑みを浮かべている。
「それならさぁ~いいとこ行かない? 俺たち、おねぇさんのこと楽しめられる自信あんだよね~」
二人は淑女をはさみ、肩と腰に手をまわした。
「あらぁ困った子たちねぇ……私、今すっごく乾いちゃってるからあなたたちだけで足りるかしら?」
「任せてよ~。俺らお姉さんのために一晩中頑張っから。先言っとくけど休憩なんてさせねーよ?」
肌を這った手が胸と尻に触れた。
熱い唇から妖艶な喘ぎ声が漏れる。
「そう……楽しみだわぁ。若い身体でいっぱい、高まらせてねぇ……」
物陰に消えてゆく三人。
一番口元を吊り上げていたのは、真ん中の女だった。
「んん~!! 今日もよく遊んだ~!」
シーナがベッドにダイブした。
すでにこのスパリゾートを訪れて三日。最初は不安を感じていた彼女もすっかり陽気に囚われて満喫してしまっていた。ベッドに寝っ転がりながら夜の海を望める野外コテージは最高。吹く夜風と弾けるかがり火がこれでもかと夏の雰囲気を醸し出す。
ハンモックに揺られたメアは新聞に目を通していた。
「タリア南のリゾート地で惨殺事件……。被害にあった若い男二人は茂みの廃墟で怪死……か」
物騒なワードを耳に、シーナが向いた。
「あ、それ最近この辺りであったっていう事件?」
「知ってやがんのか、クソガキ」
「うん。近く通りかかったんだけど人だかりが出来てて大変そうだったよ? バラバラのぐっちゃぐちゃだったんだって。ホラーだよね~」
超他人事の彼女を放っておいて、記事に掲載されていた写真に注目した。ブルーシートの端から、被害者の身体の一部と思われる塊がはみ出している。
すぐに違和感を覚えた。
「バラバラのぐっちゃぐちゃねぇ……こりゃおかしな話だぜ」
「なにが?」
「そんだけ荒くバラしたってのに血痕が一つも見当たらねぇ。水で洗ったみてぇに身体にも付着してねぇ。たぶん゙怪死゙はバラされたことを言ってんじゃねぇなぁ」
記事の末尾に眼を落とし、一文を確認する。脇に置かれていた固定電話に手を伸ばした。迷うことなく番号を押した。
数回コール音が鳴ったあと、電話がつながった。
「もしもし~こちらサンサウス新聞事件担当記者のダッツ・ウェインという者ですが~」
聞いたこともない優し気な声色のメアを前に、シーナとラビは硬直した。
「先日あったスパリゾート怪死事件の件で担当刑事様にご確認したいことがありまして~。おつなぎ願えますか~?」
少し空いた時間を利用して、気味悪がる二人の部下に中指を立てる。
「あっ、担当記者のウェインです~お世話になります~。先日の取材させて頂いた事件の件で、本日当社の新聞に記事を乗せさせて頂きましたが、ご覧になって頂けましたかぁ~?」
ニヤリと嗤い、続けた。
「ありがとうございますありがとうございます~。゙被害者遺体から血がすべて抜き取られていたこどは隠し『怪死』と書かせて頂きましたが~。そちら様的には問題ありませんでしたか~?」
予想通りの返答に頷いた。
適当な文言を並べ、受話器を置いた。
「……間違いねぇなぁ。やっぱり奴らが動いてやがる」
声色を元に戻し、二人に告げた。
「俺たちの相手は帝国軍零番執行室、王冠死霊隊(ネクロドール)の執行官だ。どうやら最悪の番犬の昼寝を邪魔しちまったらしい」
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