023 アイスクリーム
定員さんにお礼を言ってアイスを受け取った。チョコとバニラのシングルコーンアイスが一つずつ、二人を笑顔にする。
「ラビチンがバニラね! はい!」
「おっすおっすっ! キタキタッ!」
ぺろりと舐めると、暑さと怒りで火照った身体がひんやりと涼んだ。濃厚なカカオの甘みが口いっぱいに広がる。
「ん~~!! 勝ちッ! 優勝ッ! グランプリ~!!」
「それである~」
互いに向かい合って歩く二人。アイスに気を取られ、目の前の人影に気付かなかった。
「いてっ!」
正面からぶつかって尻もちを付いてしまった。幸福のアイスクリームが宙を舞う。
眼を見開いた二人は咄嗟に手を伸ばし、能力まで駆使して救出を試みた。が、幸せの塊は虚しくぼとりと落ちてしまった。
「あらあらごめんなさいっ。大丈夫かしらお嬢さんたち?」
絶望感の中、大人っぽさが色濃く感じられる声色に顔を上げた。
そこに屈んでいたのは黒いモノキニの水着を着た麦わら帽子の淑女だった。あまりにダイナマイト過ぎるその恵体と、そしてなにより自慢の『D』が慎ましく思えてしまうほどの乳房を前に圧倒されてしまった。
ぶるんと揺れたそれが寄る。
「ごめんなさいねぇ。前をしっかり見ていなくて……お嬢さんたちケガはないかしら?」
「だ、大丈夫です! こちらこそごめんなさい!」
ラビは頷きながら淑女の巨乳を凝視している。
「それなら良かったわぁ……でもこちらはもう食べられなさそう」
はっ、と思い出し慌てて目を向けた。すでに解け始めていた二つのアイスクリームがウッドデッキに吸われてゆく。
「うて……うわあああああ! アイスがぁ! 少ないお小遣いはたいて買ったアタシたちの極楽がぁあ……がくり」
「なむさん……がくり」
二人は文字通り突っ伏した。熱い日差しが無常に背中を焼く。
見かねた淑女が手を握った。
「本当にごめんなさいね。弁償させて頂きますわ。好きなお味を選んで下さいまし」
「……シングル?」
「も、もちろんダブルでもトリプルでも、お望みならクワトロでも構いませんわよ?」
待ってました、と言わんばかりに飛び上がったラビ。ガッツポーズを隠す気は無いらしい。
シーナも顔を晴らせる。
「本当にいいんですか!? きれいでおっきいお姉さん!」
「まぁまぁきれいだなんでお上手なこと。おまけにフルーツトッピングはいかが?」
「「増しで!!」」
そう言って彼女たちは夢のスペシャルアイスを手にしたのだった。
背後で優し気に微笑む淑女が、IF5の壊滅を目論む天敵だとも知らずに。
「二人はどうだった?」
浜辺の物陰で無地の水着を着たミディアムパーマの男性が問いかけた。
淑女が答える。
「予想通り、能力者よ。一瞬だけど確かに感じたわ」
彼女は麦わら帽子を取った。長い金髪が日に晒される。
「一人はおそらくエレキ系のサイコキネシスト。あのブロンドのお嬢さんね。もう一人の小柄な子は……はっきりとはわからなかったけれど、空間を揺らすようなとても強い力だった」
目の前の卑猥な肉体に視線すら向けない男は、冷静に腕を組む。
「不死鳥の灰のもとに能力者が二人……奴はなにを企んでいる? 単に能力者組織の構築か? それとも他に大義でも?」
「可能性はいくらでも考えられるわ。ただ共通して言えるのは、そのすべてが私たち帝国にとって不利益になるといこと。IFナンバーの壊滅は揺るがない責務よ。特に、No.5の再建だけは絶対に許してはいけない」
なにかを思い出すように、男は空を見上げた。
「『不死鳥を籠から出してはならない。地上に落ちた瑠璃色の灰を探し、黒く塗りつぶせ』……か」
「引き続き監視を続けましょう。彼らが動くのを待って、目的を探るわよ。早いうちに゙補給゙を済ませておきなさい」
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