012 罠造り
商店街を回り必要な道具を買いそろえた二人は宿泊先のホテルに着いていた。これと言って特徴も無い簡素な部屋。窓からは夕焼けの港町が望める。
シーナは小包を抱えたまま身を投げるようにしてベッドへダイブした。
「あぁ~疲れたぁ~この街広すぎぃ~」
「田舎イヤだって駄々こねてたじゃねぇか」
「都会は都会でしんどいぃ~」
完全に伸びてしまった彼女は足をバタバタとさせる。
かなりの時間街のあちこちを歩き回った。疲労が溜まるのは無理もない。
メアはジャケットを脱ぎながら小包を取り上げた。逆さにすると、いくつかの道具がテーブルに転がった。
「その都会のおかげで必要なもんは全部そろった。あとはてめぇが上手くやりゃあ奴を手駒にできらぁ」
タコ糸に金属ワイヤー、長めの釘に漁業用の網。
一見ガラクタに見えるそれらを見つめたシーナは口を歪ませる。
「ほんとにこんなので一流の殺し屋を捕まえられるの? 本物のウサギじゃないんだけど」
「楽勝だクソガキ。ガキの工作レベルのトラップで仕留められる。まぁ聞けや」
メアは椅子に腰掛けると、ウサギ狩りの詳細を話し始めた。
ベッドで丸まったシーナは疑いの眼を向けている。あまりに単純な作戦に不安を感じざを得なかったのだ。
「詐欺師でも見る目ぇ向けやがって。不満でもあるかクソガキ?」
「大ありだよ! 野良ウサギでも捕まえられると思えないんですけど!」
相手が最強の殺し屋だけあって簡単に頷くことはできなかった。それに今メアが言った作戦だとシーナは相当例の死兎に接近しなくてはならない。
「成功の確率と根拠は!? 上司として責任の義務があるわよね!?」
「もれなく百パーセントだ。根拠は俺が一週間鍛えてやったお前の静電気だ。以上」
「以上なわけあるかぁ!」と枕を投げつけた。
メアは首を曲げて回避する。
「マジで言ってんだから心配すんな。奴は攻撃こそイカレてやがるがその分防御に乏しい。一瞬でも動き止めりゃこっちのもんなんだよ」
「仮にそうだとしてもよ! アンタが言ってた能力の方はどうするわけ? 私たち二人はもちろん、仕掛けた罠だって全部察知されるんじゃないの?」
空間察知、いや掌握と言っても過言ではない絶対能力。シーナの指差したガラクタなど即気付かれて水泡に帰すのではないかと思える。が、メアは頭を抱えるどころかニヤリと歯を剥いた。
「その能力の隙を付いてやんだよ」
「隙? そんなのあるの?」
「ある。一見攻略不可能に思える超絶能力だが、確実に死角はある……いや、正確にばあっだか」
彼は自身の髪に指先を突っ込むと、プツリと一本抜き取った。
「昨日の晩、奴が駆け抜けた道にこいつを一本張っといたんだよ」
眼の前にゆらゆらと長い髪の毛が揺れる。
「手練れの殺し屋なら通り道に張られた線を無視したりしねぇ。爆弾やれ煙幕やれ、起爆の可能性があるからな。気付いてたとしたら絶対避けやがるはずだが、奴はそうしなかった」
「……それってつまり、能力を使っても髪の毛には気付いてなかったってこと?」
「そういうこった。つまりこいつが゙境界線゙になる。髪の毛と同じか、それより細いものは能力の察知から外れ、太いものは気付かれる。この能力の視野を利用してウサギを罠まで誘導すんだ」
眼を落として考えを巡らせた。確かに上手くいきそうな気がしなくもないが、問題はその後だ。
「肝心の罠はアタシ次第……だよね?」
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