第5話
そう言いながら東屋を出て、芝生の上に腕を組んで立つ木下さん。
「‥また魔法使いなのバカにされた」
「‥そうか」
悔しそうにそう言う彼女。
別に望んでいない能力なのに、とでも思っているのだろう。
彼女たちが手にしている力は人智を超えた者だ。
瞬間移動や空中浮遊なんて可愛い方で、中には火を扱ったり爆発させたりと危険な力もあるだろう。
木下さんも周りに言ってないだけで多分何かしらのそういう危ない力も手にしている。
実際、彼女たち魔法使いに色々な制限をすべきだという考えの人もいるし、魔法使いたちを隔離するべきだという意見もある。
どっかの歴史の魔女弾圧を持ち出して処刑するべきなんて時代錯誤な人も居るぐらいだ。
多分僕なんかじゃ計り知れないほどの差別をされているのだ、彼女たちは。
「あんたがレギュラーになれたのは魔法でコーチを洗脳したからだ、って。そんなのできるわけないのに」
「そう‥だよなぁ」
そう答えてみたが、彼女の言っていることが真実かなんて僕にはわからない。
さっきも言ったが、彼女が恐らく危険な魔法を使えると察していても別に全能力を知ってるわけではない。
たかだか3年程度の付き合いだ、彼女が裏で誰かを傷付けていても僕にはわからないだろう。
「大体レギュラーになりたいならもっと練習しなよって思うよ!それにさー」
彼女の話を半分聞いたり聞き流したり相槌打ったり。
彼女は色々限界になるとこうやって僕に吐き出す。
ただ聞いているだけでなんの問題解決もしないし、なんのアドバイスもしない。
無意味で無駄で無作為なこの時間だが、彼女僕は毎回"ありがとう"と言う。
その言葉が僕には不思議で、そしてほんの僅かに‥嬉しくて。
今日もまた1時間ほど話すとお礼を言う彼女。
薄暗くなった空を見て僕は立ち上がる。
「帰るぞ。送っていく」
「はぁい。毎回律儀だよねぇ、あおちゃんは」
「別に。大して離れてないからだよ」
僕の家と木下さんの家は徒歩約20分の距離と、微妙な距離だったりする。
正直面倒臭いことこの上無いが、僕が居ないうちに何かに巻き込まれても目覚めが悪いし、何より彼女を置いて帰ったとバレたらアイツにめちゃくちゃ怒られる。
「‥‥」
「‥‥」
帰り道、僕と彼女の間には会話無し。
僕は静かなのが平気だから彼女が話さない限り話すことは無いし、彼女は彼女で多分僕が話したく無いのをわかって黙ってくれているのだろう。
と、彼女が急に立ち止まる。
数歩先に歩いてそれに気づいた僕が振り返ると彼女はじっと僕を見てきた。
そして。
「決めたっ!明日の朝、空を飛ぼっ!」
「‥は?」
突然大声で意味不明なことを言い出す彼女に、思わず間抜けな声が出る。
「明日の6時頃迎え行くから支度しといてね」
「早っ!?え、ちょっと待て僕もなの!?」
「だって今日はもう魔法使っちゃったし」
「そんなこと聞いてるんじゃ無いんだけど!?」
戸惑う僕とは反対に木下さんは嬉しそうにニヤニヤと笑う。
「いいのっ!私が飛ぶって決めたら、あおちゃんも飛ぶの!けっていじこー!」
「あっ!?おい、待てっ!」
走り出した彼女を追いかけつつ考える。
––––明日はスマホのアラーム10回は掛けておこう、と。
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