第4話

夕方の公園。

他に誰も居ない空間に僕と木下さんは居た。

お互いの距離は数ミリ、少し動いたら彼女と触れ合えるだろう。

緊張とも不安とも違う、そんな空気が2人の間に流れていた。


「あおちゃん‥もう我慢できない」


もの欲しそうな顔で僕の顔を見ると、目線を下の方に向ける。

今にも取り出してかぶり付いてしまいそうな彼女を抑えを取り出す。

よだれを垂らしながら彼女はもう我慢できないとばかりに飛び掛かる。

そして。


「んーっ!やっぱりたい焼きは商店街のだよねぇ」


口中に白い‥ああもういいや飽きた。

かぶり付いたせいで中のクリームを盛大にベタベタと付ける彼女。


「ベッタベタだぞ、お前。たい焼きも上手に食べれないのかよ」

「えー、白いドロドロで汚れた女の子とか良くない?」

「シチュエーションは好きだし妄想もしてみたが、お前だけは無いという結論になった」

「勝手に妄想しといてそれはひどくない!?」


怒る彼女を無視し、膝の上の紙袋からたい焼きを取り出す。

カスタードたい焼きはよき。

皮の柔らかさと溢れ出る中身がなんとも言えないハーモニーを奏でる至極の一品である

ただしチョコたい焼き、てめーはダメだ。


木下さんから遊びに行こうと言われて付いて行った(というか強制連行された)先は、学校から歩いてすぐの商店街だった。

たい焼きを買った僕らは、ベンチ以外何にもないせいで子供たちが全く居ない公園に行く。


「このたい焼きの美味しさを知ってるのは高校で私たちだけかもねっ!」

「お前に教えてあげたのは僕だけどね」

「細かいこと気にしないのっ!」


僕の家は商店街を抜けて直ぐにある。

だからここの商店街は小さい頃から何度も来てるし当然ここの味もずっと知っている。

木下さんに教えてあげた理由はなんだっただろうか、もう覚えていない。

うん、覚えていない。忘れた。あんなことは忘れた。うんっ!


「というか、妄想したの?」

「ん?したよ、もちろん。僕が仲良い女の子って木下さんぐらいだし」

「したのかぁ。もちろんかぁ」

「具体的なシチュエーションを説明するなら‥」

「あっ、大丈夫でーす」


アホなやり取りだと自分でも思う。

だが木下さんにしかこんなこと言わないし、言えない。

"一緒に居て落ち着く"、そんな気持ちになった僕は彼女にそのままぶつける。


「なぁ、木下さん。僕ってお前のこと好きなのかな」

「‥はい?」


なぜか彼女から間抜けな声が返ってきた。

なんだ、人が質問したのにそんなポカーンとした口を開けて。


「えっと‥あおちゃん、今のって告白?」

「は?何でだよ、ただの質問だろ」


よく分からんことを言う彼女に指摘すると、なぜか頭を抑える木下さん。


「うん、あおちゃん。なんで私のことが好きだと思ったか教えてくれる?」

「僕はお前のことを基本的にうるさくてやかましくて騒がしくてわがままで人の話聞かなくてちっこくて成績悪いやつだと思ってるけど一緒に居て落ち着くから好きなのかなって」

「うん、絶対違うね。好きな人ならそんな悪口言わないからね。というかそんだけの悪口よく思いついたね。悪口が大盛りすぎて最後の褒め言葉じゃ消化しきれないよね」


ジト目で睨んでくる木下さん、全く意味がわからない。

とりあえず僕がコイツのことを好きじゃないと知って安心した。

スクっとベンチから立ち上がる彼女。


「あーあ!あおちゃんに聞いて欲しい話があったのにどうでも良くなってきちゃった。でもそれはそれで腹立つから聞きなさいっ!」


ビシッと指を突きつける木下さん。

どうやらやっと本題のようだった。

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