第115話 番外編:#liVeKROneクリスマスボイス

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liVeKROne【公式】@liVeKROne_official

#黒惟まお #リーゼ・クラウゼ

両名のクリスマスボイス発売開始!

魔王様や魔王見習いと一緒にクリスマスを過ごしませんか?


感想は #liVeKROneクリスマスボイス で!

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 帰宅して一通りの家事も終わらせ、やっと訪れるプライベートな時間。仕事柄、呼び出しや相談の連絡が来ることも多いが……。それはまぁ自分が選んだ業種なのだからと割り切っている。

 それでも、以前の職場に比べて今年転職した会社では突然の連絡に振り回される事が減ったので思い切って転職して良かったな……と思う日々である。


 さて……、念のため推しであるまお様とリーゼちゃんのSNSをチェックして配信時間の変更がないことを確認する。二人とも前日には枠立てをすることが多く、事情があって変更がある場合にも早めに知らせてくれるので推し事おしごとをする上でも非常にありがたい。


 liVeKROneに所属する魔王Vtuberの黒惟まお、魔王見習いVtuberのリーゼ・クラウゼ、この二人が私の推しである。


 liVeKROne自体が今年出来たばかりの新規Vtuber事務所であり、まお様は個人勢からの所属、リーゼちゃんは新規デビューという形で活動を始めたのだが。つい先日、念願の3Dお披露目配信も成功させ今もっともVtuber界で勢いのある……というのは贔屓目が過ぎるかもしれないが、そう思えてしまうほどに業界及び世間から注目を集めている自慢の推したち。


 もともとは個人勢だったまお様の配信に巡り会い、当時仕事で色々悩んでいたこともあり個人勢で仕事をしながらも配信でリスナーたちを楽しませてくれるまお様の魅力にすぐさまハマっていくことになった。今思えば、残業……まお様が言うに魔王の仕事に追われてる姿を見てどこか自身とその姿を重ねていたのかもしれない。


 そんなまお様がliVeKROneに所属するという話を聞いたときは本気で驚いた。普段の配信ではまったくそんな素振りすら見せていなかったというのに水面下で色々と考え、そして動いていたのだろう。私も偶然、まお様の言葉に勇気を貰って転職したばかりだったからなおさらだ。


 そしてそんなまお様の同期になることになった魔王見習いのリーゼちゃん。彼女もまお様のファンであり、まお様を追ってliVeKROneからデビューすることになった新人Vtuber。配信活動については全くの初心者だったらしいが、まお様や周りのサポートを受けて今や立派なリスナーたちを楽しませることのできる配信者になっている。


 そんなリーゼちゃんをまお様はことさら可愛がっていて、おなじSILENT先生というママを持っている姉妹……、というよりは母娘おやこのように見えることが多い。だからだろうか、彼女自身はかなりしっかりしているのだが私から見てもなんだか娘のような妹のようなそんな印象を強く受けている。


 先日の感動的な3Dお披露目配信の余韻から推したちのSNSを眺めながら物思いに耽ってしまったが、早めにアレを聞いてしまわなければ配信が始まってしまう。時間的にはしっかり余裕があるのだが聞き終わった後に感想をSNSに投稿するために何度か聞き返すことになるのだから早いに越したことはない。


 liVeKROneから初めて発売された、黒惟まおとリーゼ・クラウゼのクリスマスボイス。そのために仕事も頑張ったし、ボーナスをはたいてかなりいいイヤホンを購入した。ちなみに相談したオーディオオタクには推しのボイスを出来うる限りの最高音質で聞きたいとは素直に言う事が出来ずに、仕事で使う事になるからなんて適当な言い訳を使ってしまったが。


 さて……、まお様とリーゼちゃんのボイスどちらから先に聞こうか……。早く聞かなくてはと思いながらも、うだうだと思考に時間を割いてしまっているのはその決断が出来ていないためである。


 こうなったら……、最終手段……すべてを運に任せてランダム再生するしかない……。



──



『あの……、見ても笑わないでくださいね?絶対ですよ?約束ですからね?』


 ガチャリと扉を開けた音が耳に届くが続いて聞こえてくる声は遠くてまるで扉の向こうから聞こえてくるよう。


『うぅ……、それは、確かにそうですけど……配信で見せるのとは違うというか……わかりました。覚悟を決めます!もし笑ったら配信でのお披露目はしませんからね!』


 普段配信で見せるよりも少し甘えたような声色で躊躇いながらも最後には彼女らしい思い切りのよさで覚悟を決めたようだ。


『はいっ、配信でお披露目するサンタ帽です。え?なんでそんなに恥ずかしがってたのかって?だって……このドレスにサンタ帽だけって浮かれてるにしても中途半端というか……』


 まぁ確かに彼女の言う通り普段のドレス姿にサンタ帽子がちょこんと乗っているのを想像するとその言い分はわかるかもしれない。でもそれ以上に可愛らしい事は間違いないのであるが。


『あっ!今、笑いましたね!……やっぱり可笑しいんですね!もう、かぶりませんっ』


 その微笑ましさに笑みを溢してしまったことを指摘されドキリとする。決して彼女の言うような意味で笑った訳ではないのだが……。


『ちがう?……かわいい?そんな風に誤魔化してもダメですからねっ。……本当ですか?おかしくないですか?……なら良かったです、わっ。そんないきなり撫でなくても……わかりました。信じますから』


 普段の礼儀正しくそつのない彼女も魅力的ではあるのだが、時折見せてくれるようになってきた素……というか、取り繕ってない言動を見せてくれる姿も魅力的だ。それだけ配信を通じて、彼女との距離が近づいたのだと思うと嬉しくなってしまう。


『せっかくなら、ちゃんとしたサンタ服も見たかった?わたくしもせっかくならそうしたかったのですが……いえ、でもそれはそれで恥ずかしいですね……』


 彼女が着るならどんなサンタ服だろうか。定番で言うならロングのワンピースに上からケープを羽織った姿に今のようにサンタ帽子をかぶった姿を想像してみるがとても似合っている。普段白と青を基調にしたドレスを着ている彼女だからこそ深紅の装いはその美しい銀髪によく映える事だろう。もしくは、少し攻めたミニスカサンタやチューブトップ……肩出しなんて姿も……。


『それは来年の楽しみにしておいてください!……もちろん来年も一緒にクリスマスを迎えてくれますよね?……って、まだ今年のクリスマスも終わってないのに気が早かったですね』


 まるで上目遣いでこちらを覗き込んでくるようにかわいらしくお願いしてくれたがきっと途中で恥ずかしくなってしまったのだろう、照れ隠しに笑いながらぱっと離れていく彼女。


『もちろん。なんて……そんな、即答しなくても……でもありがとうございます。……嬉しいです。……実はもうひとつお披露目、というかクリスマス配信で見せる予定のものがあるんですけど……見ますか?』


 思わせぶりにこちらに訊ねてくるところを見るにサンタ帽と同じく、見て欲しいけども恥ずかしいといった手合いなのだろう。そんな風に言われたら答えはひとつしかない。


『ふふっ……、そんなに何回も頷かなくても。じゃあ……、少し目を瞑っていてください。良いって言うまで絶対に目を開けてはダメですよ?』


 悪戯っぽく笑いながら目を瞑るように言われたので大人しくその指示に従う。


『ほんとに瞑りましたか?うっすら見ようとしてませんか?』


 不意に声が近づいてきて思わず目を開けてしまいそうになるがそこは我慢……。


『こういう時は本当に素直ですよね、そんなところは素敵だと思います。じゃあ……いいですよ?……じゃーん、リゼにゃん。だにゃん……。にゃんちゃって……』


 目を開けると同時に少しだけ声のトーンを上げ恥ずかしさを振り払うかのようにリゼにゃんとして振舞う彼女。


『……黙ってないでなにか言ったらどうにゃん』


 まさかのリゼにゃんの登場に言葉を失ってしまっていた事に不満らしい彼女は吹っ切れているようで堂々と猫語を操っている。


『にゃっ!?いきなり撫でるにゃ!!リゼにゃんの綺麗な毛並みが……まぁ気持ちいいから許してやるにゃん……』


 ふしゃーと猫パンチされたような音が聞こえるがそれはとても軽々しい音で本気でないことはわかっている。しだいに機嫌よさそうにするところを見るに結構リゼにゃんはちょろい。


『クリスマスだから特別にゃん、ありがたく思う事だにゃん』


 こうは言っているが声色はとても楽しそうで本人も楽しんでいるんだろう、もしかしたら普段恥ずかしいと思って言えていないこともリゼにゃんの姿であれば素直に言える……みたいな面もあるのかもしれない。


『……そろそろ配信の時間も近づいてきたから終わりにゃん、リゼにゃんは可愛くて人気者だから忙しいのにゃ。もっかい目を瞑るにゃん』


 少しの間、今にもごろごろと喉を鳴らしそうなリゼにゃんとの触れ合いを楽しんでいると若干名残惜しそうに告げられる。


『はい、リゼにゃんタイムは終わりです。わたくしも配信の準備をしなくてはいけないので……』


 リゼにゃんから彼女へと戻ったことを確認し瞑っていた目を開ける。この楽しいやりとりの時間もあと少しということだろう。


『そんな寂しそうな顔をしないでください。あなたとは配信でも会えるんですから、いつもみたいに笑ってください。わたくしはそんな笑顔のために魔王見習いとして頑張っているのですから』


 最初は憧れの魔王様のようになりたいがために活動を始めたが、いつの間にか新しい目標を持ち始めた彼女は言う。


『今年のクリスマスだけじゃなく、来年も……再来年もあるんですから。ずっと応援して、見守ってくださいね。わたくしの愛に負けないくらい愛してください。約束したんですから……ね?』


 それは3Dお披露目配信で交わした約束の言葉。きっとこれからも彼女とはどんどん新たな約束を交わしていくことになるのだろう。



──



『クリスマスにASMR配信をやってほしいって、本当にクリスマスのプレゼントはそんなもので良かったのか?もっと、他にあっただろう。一緒に出掛けたいとか欲しいものがあるとか』


 呆れるようにため息を漏らしながら投げやりに他の案を出してくれる彼女。たしかにお願いとしてはそのほうが一般的ではあるだろう。


『だって、こうやってお願いでもしないとASMRやってくれないんじゃないか……って?いや、まぁ確かに今まで避けてきたことは認めるが……。それは機材の問題や気持ちの問題であってだな……わかったよ、それについては素直に認める。元々何かきっかけがあればやるつもりはあったから、他の願いも聞いてやると言っているんだ』


 心当たりがあったようで口ごもりながら素直に認めてくれるが、それでも彼女の気は晴れないようで新たな提案をしてくる。


『はぁ?そんなことでいいのか?いや、まぁ今から何か物を用意したり出掛けるというのも難しいから助かりはするが……。ASMRの予行練習といっても、まだ機材のセッティングが終わってないからただこうやって喋るだけになってしまうぞ?』


 再びこちらからの提案に呆れた声色で確認してくるが、こちらの意思が堅いところを感じ取ったのか渋々といった感じで了承してくれる。


『我の声が好きだからそれで充分?……本当に物好きな奴だな』


 相変わらず呆れたようでいて、それでも少しだけ嬉しそうな響きを混ぜたような優し気な声色。そんな声こそが彼女の持ち味でありいつまでも聞いていたくなるのだ。


『じゃあ、まぁ楽にしていてくれ。といっても実際に耳かきをするわけでもないし何を話したものか……何か聞きたいこととかないのか?』


 少しだけいつもよりも近い距離感、まるですぐ隣に彼女がいてくれるようなそんな感じがする。


『理想のクリスマスの過ごし方?……そもそも我は魔王だからな、あまりそういった人間界のイベントごとには……といってもすっかりこちら側に染まってしまった我が言っても仕方ないか。そうだな、やっぱり家族や大切な人と過ごすのが一番なんじゃないか?我も大人になってからは仕事……、魔王の責務で忙しくて配信者として活動するまでは街が活気付き始めてようやくクリスマスなんだなと意識する程度だったからな』


 どこか懐かしさを感じさせるような口調で語る彼女。すこしだけ口が滑りそうになっているところはご愛敬だ。


『今はたくさんのリスナーたちと共に過ごせているからな、あの頃を考えれば随分贅沢な過ごし方をさせてもらっていると感じているよ。……それにこうやってお前とも過ごせているんだから文句はないさ』


 よりいっそう言葉に嬉しさと優しさが込められ聞いているこちらも同様に嬉しくなってしまう。それに本人は無自覚なのだろうがドキリとさせてくる言葉が付け足されるのはいつものこととはいえ心臓が高鳴ってしまう。


『……ん?やけに静かだと思えば……。人に話せと言っておいて眠ってしまうとは……まぁいいさ、それだけ我の隣が心地良いと思ってくれているならそれはそれで嬉しい事だ』


 こちらを覗き込んでくるように声が近づいてきて、眠っている事を確認したらしい彼女は少しだけ声のトーンを落としてくれる。


『……お前はいつも我の事を考えていてくれるからな。それはずっと感じているさ……ありがとう』


 それは彼女がいつもこちらのことを考えてくれるから……。いつも折に触れて彼女は恩義を感じそれをこちらに返そうとしてくれる。だけどもそれはこっちからすれば逆であり、彼女がいろんなものを与えてくれるからこそそれを少しでも返そうとしているだけなのである。


『……我はきちんとそれに応えられてるだろうか。こんなことを言うときっとお前は怒ってしまうかもしれないが……我はそれが不安だよ』


 今すぐに目覚めて「そんなことはない」と力強く断言してあげたいが、尊大な言葉と態度とは裏腹に謙遜しがちな彼女は素直には受け取ってくれないだろう。ただでさえこういった弱気なところは普段の配信では見せないようにしているところがあるのだ。


『なんだ?そんな困ったような顔をして……夢の中でもお前を困らせているのかもしれないな。起きた時にはまたいつもの魔王様に戻っているから、少しだけ甘えさせてもらってもバチはあたらないか……』


 やや自嘲気味に呟く言葉も、目の前の相手が寝ているとはいえいつもなら誰かに聞かせるような言葉ではないのだろう。響きがいつもとは違って聞こえる。


『いつもありがとう……、お前がいるから我は理想の姿で居られ続けるんだ。だからこれからも、我の事をよろしく頼むよ。どうか末永く共に居て愛して欲しい、我もいつまでもそうしよう』


 それは願いのようであり、誓いのような言葉。きっと目を覚ましてしまえば目の前にいる彼女はいつものかっこよくて優しくて可愛らしい魔王様に戻ってしまっているだろう。だから、今聞いた言葉たちはそっと心に仕舞って普段通りに接していこう。きっと、言葉にしなくてもお互いの心は通じ合っているのだから。



──



 いや、ちょっと待って欲しい。私の推し達可愛すぎないか?

 こんなん聞かされて平常心でいられるだろうか?いやいられない。なんて反語を持ち出すほどに胸は高鳴り、二人への思いがあふれ出しそうになる。


 今すぐこの思いをSNSに感想として書きなぐって投稿したいのだが……、ネタバレを避けつつどう表現したらいいんだろうか。


 結局、プライベート用のアカウントに投稿できたのは。ただただシンプルにその良さを伝える短い一文だけだった。


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良かった……掛け値なしに

#liVeKROneクリスマスボイス

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※年末年始にかけて執筆に時間がとれるか見通しが微妙なので

申し訳ありませんが落ち着くまで不定期更新となります。

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