第112話 魔王のクリスマスASMR
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黒惟まお@liVeKROne/26日は3Dクリスマスライブ!@Kuroi_mao
今宵はかねてよりリクエストの多かったASMR配信を行おうと思う
色々と教わったが初心者なのであまり期待はしないでくれ
クリスマスボイスを購入して当日まで聞くのを我慢していた者は
先に聞いておいた方が楽しめると思うぞ
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『今夜のASMRはボイス世界線って訳か』
『相変わらずSILENT先生の脚本が良すぎる』
『配信と連動してるのいいな』
『この前のコラボも良かったし期待しかない』
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【ASMR】クリスマスは共にゆっくり過ごそう【黒惟まお/liVeKROne】
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黒惟まお【魔王様ch】さんによって固定されています:
黒惟まお【魔王様ch】✓今回おふざけはなしだからな
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:固定コメ草
:真面目宣言じゃん
:自ら逃げ道を塞いでいくのか
:ガチじゃん
:先生の指導の賜物やな
:その覚悟受け取った
リリスから借り受けたダミーヘッドマイクを前にし、はじめて一人でのASMR配信をはじめるべく一度大きく息を吸って緊張を解きほぐすように吐き出す。今目の前にあるのはモアイじみた頭の形をしたQu100というダミーヘッドマイクで、リリス曰く壊れたとき用の予備マイクで動作テスト以外はほとんど使っていないものらしい。
さすがにモノの値段が値段なのでそんな新品同然のものを借りるのは気が引けてしまったのだが、使い込んでいる方を貸すよりは彼女自身も助かると言われてしまっては素直に借り受ける他なかった。
「こんまお、聞こえているだろうか?」
:きちゃ!!
:こんまお!
:おーなんかいつもとちがう
:さっそくバイノーラルマイクか
:こんまお~
マイクから少し離れた正面から普段と同じくらいの大きさとトーンで話すと、モニターしているイヤホンからはそのままの距離感で自身に話しかけられてるように聞こえてくる。
色々とリリスからは接続する機器や設定なんかについての相談にも乗ってもらったが、バイノーラルマイクといえど中身はコンデンサマイクであるので手持ちの機材でなんとかなったし、設定の方もさほど苦労することなく整えることができた。
……といってもこれは配信に載せる音声であり結局は配信サイトによってどんなにこだわっても一定以上はそれなりに調整されてしまうので、音声作品用の収録も行っているリリスほどにガチガチに調整しているという訳でもないのだ。
「きちんと聞こえているようだな。では改めて……今宵クリスマスは我に付き合ってもらうぞ、liVeKROneの魔王、黒惟まおだ」
:やっぱいつもより近く感じるな
:ほんとに目の前にいるみたい
:まお様メリークリスマス!
:今年もまお様とクリスマス嬉しいよ
「メリークリスマス。リリスとのコラボで聞いた者も多いとは思うが、今年のクリスマスはリクエストが多かったバイノーラルマイクを使ったASMRという形で配信していく。楽しんでもらえれば幸いだ」
:やったー!
:助かる
:この日を待ち望んでいた
「では……耳に触るぞ……。前半は少し雑談をしながら、後半はよりASMRらしく会話は少な目でやっていくから眠ってしまっても構わないからな。……それと予め言っておくが、今宵は我とお前……二人きりのつもりで話しかけるからな」
:はーい
:まお様と二人きり……
:あぁそれ気持ちいい……
:がんばって起きてないと……
:それめっちゃ嬉しい
両手を耳に添えてまずは優しくマッサージするように指先で刺激を与えていく。自然とマイクまでの距離も近づいているので声も囁くように控えめに抑える。普段の配信ではリスナーたち複数人を相手に喋るものだが、こうやって目の前にダミーヘッドマイクがあってそこに向かって話しかけるのでいつもとは勝手が違ってくる。それにそうした方が、よりそこにいるような感覚を与えることが出来るものだとリリスは熱弁していたが……たしかにその通りだと思う。
「ん……、ちゃんと気持ちいいか?我なりに少し練習もしてみたんだが……」
:あーいい感じ
:練習の成果出てる
:気持ちいい
:癒される~
「クリスマスに……こうやって、いると……。なんだか、不思議な気分だな……」
:たしかに
:一緒に過ごせて嬉しいよ
:まお様の声落ち着く
:やっぱりいいなぁ
「では……そろそろ、道具を使って耳を綺麗にしていくぞ」
手の動きを止めいったん耳から指を離す、囁きかけながらずっと指先を動かしていたせいかほんのりと熱を持っているような気がする。今回、私の周りにはリリスからおすすめされたり実際に使っていた道具などがひと揃え準備済みだ。その中からいたってスタンダードな竹の耳かきを手に取って再びマイクの耳へと向き直る。
「まずは……、竹の耳かきだ……。痛かったりしたら言うんだぞ?」
:あーそこいい……
:入ってくるぅ
:もっと強くお願い
:いい感じ
「かり……かり……、ふふっ気持ちよさそうにされると我も嬉しくなってしまうな」
実際に誰かにしてあげるように外側からゆっくりと耳の内側を刺激していく。その刺激はイヤホン越しにこちらにも返ってきて思わず目を細めてしまう程度には気持ちがいい。
「実は今日はな?明日のクリスマスミニライブのリハーサルがあったんだ」
:ほう
:ライブ楽しみー
:おつかれさま
:何歌うか楽しみ
明日に控えたリーゼとの3Dクリスマスミニライブ、今日はそのリハーサルをリーゼと共に事務所のスタジオで行ってきた。リハーサル自体は何事もなく順調に進んだし明日お披露目するあれこれがとても楽しみだ。
「歌ももちろん歌うがそれ以外にも色々とやる予定だから楽しみにしておいてくれ」
:歌だけじゃないんだ
:気になるー
:楽しみが増えたぜ
その内容までは言えないが明日のライブはただ歌って踊るだけのものではなく色々な企画が準備されているし、せっかくliVeKROne所属の二人が3Dで揃うのだからとスタッフたちも張り切って準備してくれている。ただ……一部、私達二人にも内容が知らされていない企画もあるっぽいのが気になるところではあるのだが……。
「よし……。じゃあ息吹きかけるぞ……ふぅー」
:耳ふぅほんと好き
:あぁ~^
:あったかい
:やさしい耳ふぅ助かる
一通り耳かきによる刺激を与え終え、いったん区切りとして耳に顔を寄せてやさしく息を吹きかけてあげる。この息ふぅもなかなかいい音にならなかったり、強弱の加減が難しく思ったようにならないこともあるのでもっと練習が必要だなぁと感じてしまう。
「次はタッピングだな、我はこれが結構好きなんだ。とん……とん……」
:わかる
:タッピングは聞いてると眠くなってくる
:心地いいよなぁ
:あかん寝そう……
トントントンと一定のリズムで耳だったりその周りに刺激を与える行為はタッピングといい、これもまた耳掃除と並んでASMRにおける人気の施術のひとつである。その刺激に合わせてオノマトペを囁きかければその効果は更に高まっていく。この単純で一見何の工夫もいらなそうに見える行為であるが、刺激のタイミングだったり速さや強さなど……好みは人それぞれなのでそれも難しい。
ただ、その分ハマってしまえば何も考えずにただその音や声を聞いているうちに瞼は重くなり、いつの間にか眠ってしまいそうになるのだ。
「眠ってしまってもいいと言っただろう?ただ、ベッドにまで運ぶ事はできないから寝そうになったらきちんとベッドに入るんだぞ?」
:ベッドまで運んでー
:まお様も少し眠たそう
:一緒に寝よー
:ふわふわまお様になりつつある
「そうだな……、今日は出来ないが共に横になって寝かしつけるというのもいいかもしれないな。しかし、そうなると我が先に寝てしまう可能性が出て来てしまうが……」
:寝落ちASMRええやん
:添い寝ASMR聞きたい
:寝落ちはなぁ
:まお様って寝言とか言う方?
今の配信部屋であるならマイクと共に横になることは可能だし布団を持ち込めば寝ることも可能だろうが……。その場合いったい誰が寝てしまった後配信を止めるのかという問題が出て来てしまう。さすがに寝落ちのまま配信を放置してしまうというのは怖くて出来ない。
「寝言か……?何かを言っていると言われたことはないが……。もしかしたら自身では気づいていないだけで言ってるかもしれないな」
:録音アプリとかあるよね
:なかなか自分じゃ気付かないよね
:録音系は結構怖い
:夢の中でも配信してそう
「確かに夢の中で配信していることはよくあるな、夢の中で最後まで配信をしてしまった時は夢だったのか現実だったのかわからなくなってアーカイブを確認したこともあったぞ」
:相変わらず配信モンスターやなって
:まお様らしい
:それでアーカイブ残ってたら怖くね?
:胡蝶の夢かな?
しかし考えてみれば最近はあまりその手の夢を見なくなったような気がする。一番見ていたのは仕事で疲れて帰ってきて配信が出来ない時期が続いてた頃だったので、毎日のように配信が出来ている今は欲求が満たされているからかもしれない。
「……っと、少し話す方に意識を向けすぎたな」
:耳元でお喋りされるのも良き
:まお様の声好きだから助かる
:ひたすら囁きASMRとかも聞いてみたい
:朗読とかしてみてほしい
「この声が好きだと言ってもらえると嬉しいよ、その……あまり可愛げがある声ではないだろう?ASMRには向かないかとも思っていたのだが……」
:かわいいが?
:かっこかわいい!!
:そういうところがかわいいんだよなぁ
:低めな声のASMRってあんまりいないからいいんよ
「今日のお前はいつになく褒めてくれるじゃないか……いや、すまない。これは照れ隠しだな……ありがとう」
:かわいい
:そっちこそ素直やん
:それ耳元で言われたらあかんて……
:はぁ……好き
ついつい、いつものように照れ隠しの言葉を紡いでしまうが、それは違うかと緩く首を横に振って訂正する。せっかく素直に褒めてくれているのだからこちらも素直に受け取らなければ失礼というものだ。
「それじゃあ、この声がよく聞こえるように……もっと耳を綺麗にしてやらないとな。その後好きなだけ、耳元で囁いてやろうじゃないか」
:今日死ぬかもしれん
:お願いします!!
:天国か?
:まお様が寝るまで囁いてくれるって!?
……
「ふぅ……これで一通りは終わりだな……。かなりすっきりしたんじゃないか?」
:まじでもう寝そう
:ほんと気持ちよかった……
:まお様かなり上手やん
:綿棒グリグリほんと良かった
綿棒に耳ブラシ、ジェルボールにオイルマッサージと一通りの施術が終わったころには心なしかコメントの流れも穏やかになった。この分だと何人かは寝落ちしてしまっているのではないだろうか。
「では、約束通り。あとは寝るまで好きなだけ囁いてやろう……、だから安心して眠るといい。好きだぞ……愛してる……おやすみ……」
そこからはただひたすらに思いつくままの言葉を耳元で囁きながら、本当に寝落ちしてしまうギリギリまで配信を続けたのであった。
……
黒惟まお【魔王様ch】✓:よい眠りを……メリークリスマス
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