第102話 あの夜のこと
───────────────────────────────
黒惟まお@liVeKROne/26日は3Dクリスマスライブ!@Kuroi_mao
なにやら色々とすごいことになっているが……
ともかくお披露目の感想などいろいろ話したいと思う
───────────────────────────────
『配信予定きちゃ!』
『見に行きまーす!』
『しっかり休めたかな?』
『やったー!』
────
『正直ここまでの大事になっているとは思わなくてな……驚いているんだが……』
:こっちも正直ビビってる
:まお様ー!初見ですっ
:まお様かわいいー
:完全にお祭り状態だからなぁ
:ライブ最高でした!!
:登録しました!
『あぁ、初見の者もかなり居るようだな、ちゃんと見えているよ。ライブも見てくれてありがとう。登録も感謝する。かわいい……と言われるのはあまり慣れてないが、面映ゆいものだな』
:まお様かわいい
:かわいいゾ
:そういうところがかわいい
:かわいいしかっこいい!!
:本人には言えないけどかわいい
いつもとは若干様子が違うコメント欄に照れくさそうに微笑むまお様。その姿は新しくお披露目された3Dモデルの姿であり、お披露目配信で見せたように全身自由自在という訳にはいかないが2Dモデルよりも表現の幅は広がっている。
『あまりに急な事だったからな、まだ実感が湧いていないというのが正直なところだよ』
:色々すっ飛ばしてだもんなぁ
:遠いところまで来たもんだ
:でっかくなりやがって……
:色んな人が話題にあげてましたよ!
困惑しつつも嬉しそうに話すまお様であるが、その困惑の理由というのはまず今の配信視聴者数であろう。これがちょっとした記念配信でもなかなか見ないような数字になっているのだ。まお様がお披露目配信で行った魔力行使……祝福についての話題はリスナーたちだけの間に留まらず、SNSでは"#黒惟まお3Dお披露目配信"が配信終了後もランキングの上位に表示され続け。Vtuberだけではなく多数の配信者、インフルエンサーたちもこぞってその話題に飛びついた。
曰く、「まお様の歌声を聞いて感動した」というありふれた感想から、「部屋に引きこもっていた子供が部屋から出てきてくれた」とか、さらには「まお様の歌声のおかげで不治の病が治った」という明らかに冗談というか盛りすぎであろうものまで様々だ。それほどまでにあの祝福はインパクトがあったのだ。
中でも魔族に関連するようなこちら側の者たちの反応は激烈だったようで、長い時を生きている分社会的地位が高く影響力が大きい者が多い事もあり、話題が話題を呼ぶ状態になっている。
その結果が今現在の視聴者数であり、黒惟まおのみならずリーゼ・クラウゼの配信チャンネル登録者およびliVeKROneも含めたSNSフォロワー数もかなりの伸びを見せている。
これらは本来であれば諸手を挙げて喜ぶべきような事態ではあるのだが……。ことの発端が人間界における規格外ともいえる魔力行使であることから、魔界の中でも今まで人間界に興味を持つことのなかった層にまで今回の話は伝わってしまった。
若い世代を中心に少しずつ広まっていた魔王黒惟まおという存在が、かつての伝説の魔王と紐づいて広く知れ渡るのも時間の問題であろう。
そうなった場合、これまでは現魔王であるお父様とその腹心であるところのマリーナ、そして娘であるわたくしで抑えつけていた勢力がまお様に対して何かアクションを起こそうとしてもおかしくはない。そういった魔界の事情にこれ以上まお様を巻き込むわけにはいかないのだ。そのためにliVeKROneは生まれ、わたくしもVtuberとして活動することを決意したのだから。
……もう二度と、あんな思いはしたくない。
まお様の3Dお披露目配信があったあの夜……。無事に終わりを迎えたと思ったところで再び強力な魔力反応を探知し、私はスタジオに文字通り飛んでいった。その魔力反応は配信中に膨大な魔力行使を行ったまお様のものでもなく、現場にいたマリーナのものでもなく……。敵意を隠そうともしない
しかし、私がスタジオに乗り込んだ頃にはもう二人の姿はなく、まお様もその場にはもういなかった。三人の後を追おうにも、スタジオから外に向かった魔力の痕跡はそんな私を嘲笑うかのように巧妙に隠蔽されており追跡も出来ず。現場にいたマリーナから一体何が起きたのかを聞き、ようやく事態を把握できた。
まさか配信中に倒れ、しかもそんな状態で再びステージに上がり配信をやりきった上で再び倒れてしまっていたなどとは思ってもみなかった。いや……、そんな状況に陥れば無理を押してでも配信をやり通すのはまお様らしいとも言えるのだが。
マリーナから聞いた話では、あの膨大な魔力行使を行う寸前まではおおよそ普段どおり……。わたくしが経験した3D配信での魔力供給の件も鑑みて、入念にまお様の魔力と体調についてはチェックしていたらしい。それが配信を見ていたわたくしでも感じることが出来るくらい急激に増大し、そしてあの祝福によって周囲の魔力ごと根こそぎ使い果たされたのだ。
それまでは何らかの事情があって一人では魔力行使が出来なかったまお様が見せたそんな光景はまさしく魔王としての覚醒と言っていいほどであったようで、急激な魔力変動によって意識を失ってしまった後は宵呑宮さんと夜闇さんにつれられ控室に下がったらしい。
しかしほどなくして、魔力も体調も万全な状態で戻ってきたまお様は配信の続行を要求。収録済みの物を流して終了しようとしていたのだが……頑なに最後までやり遂げることを譲らなかった彼女に根負けする形で許可を出したようだ。
そして配信をやり遂げて再び倒れるまお様……。一度ならず二度までもそんな事態に陥ったのだ、本当の姉妹のように何よりもまお様を大切にしているあの二人であれば、その怒りは当然のものだろう。黒惟まおをこちら側……魔王を巡る魔界の動きに巻き込んでしまったのはわたくしたち、そんな者たちに大切な仲間を……妹を任せる訳がない。
宵呑宮さんと夜闇さんに初めて会った時、夜闇さん……いやリリスさんからも言われていたのだ。『──黒様……魔王様に何かあったときは黒様側につくからね?』と。
わたくしとマリーナ、ふたりの力を合わせればいくら相手側に地の利があるとはいえ、まお様を探し出すことは可能だったろう。それでも、見つけ出してどうするのか。今回の事態を引き起こしてしまった非は全面的にこちら側にあるのだ。
……翌朝、まお様から無事であるという連絡を受けるまでは生きた心地がしなかった。
結果的にまお様は無事であり、今はこうしていつものように配信を行っている。本当ならこのマンションに帰ってきた彼女を出迎え、この目で直接無事な姿を確認したかったが……、どうしてもそんな気にはなれなかった。
──配信が終わったら大事な話があるから、部屋に行ってもいい?
それはまお様による今夜の配信予告がSNSに投稿されると同時に、これから宵呑宮さんのお家から戻ると伝えてくれたわたくし向けのメッセージの最後に付け足された言葉。
それがどんな話であるか、想像はできるがそんなこと考えたくもない。
『3Dなんだからもっとアップで見たい?それはライブでも沢山見ただろう?え?もっと下?……貴様ら、よほど懲りてないと見えるな?』
:やっぱ大きくなってね?
:立派な胸部装甲を是非!!
:いい透け具合だ……
:素敵ですまお様!!
:いいなぁ
そんな思いとは別に配信上ではいつもの調子を取り戻してきたまお様とリスナーたちのやりとりが軽快に交わされている。いつもなら、そんな様子を共に笑いながら見守り隙を見てコメントなんかもしていたところだが……。
『リリスは……、あいつの事を引き合いに出されてしまうとあまり強くも言えんが……というかお前たち、あのシーンのスクリーンショット多すぎだろう』
:同期も大量に投稿してたゾ
:リーゼちゃんも共犯なんだよなぁ
:俺たちにはリーゼちゃんという同志がいるからな
:やたらスクショ流れてくると思ったら推しがスクショを連投してた件
『リーゼまで……。いや、まぁそうやってSNSを盛り上げてくれたことには礼を言っておかなければな、お前たちもありがとう』
:ほめられた!
:やったぜ!
:世界トレンド1位だもんなぁ
:終わった後もしばらく載ってたし
唐突にわたくしの名が呼ばれ、沈んでいた気持ちが浮き上がってくる。ただ、名前を呼ばれただけなのにそれでも嬉しく感じてしまうのだ。逡巡したあとキーボードに手を置き指を動かす。
Liese.ch リーゼ・クラウゼ✓:まお様のすべてを記録するのはわたくしの義務ですから
:リーゼちゃんもよう見とる
:草
:これは名誉リスナー
:さすが最古参リスナー
:心強すぎる
:リーゼちゃんもお披露目おつかれさま!
果たしていつものようにコメント出来ていただろうか……。
『ん?あぁリーゼか、タグでサーチするまでもなく我のSNSにずらっとスクリーンショットが並んでいたからな、あの光景は少し異様で笑ってしまったよ』
:草
:それはそう
:わいもそんな感じだった
:まお様のSNSを埋め尽くす女
わたくしのコメントを受けてまお様が笑ってくれる。ただのリスナーであった頃ならたまに訪れる幸運であったが、今は当たり前のようにそんなやりとりができることのなんて幸せなことだろうか。もしかしたらこんなやり取りも今後は出来なくなってしまうかもしれないと思うと、またずんと心が沈んでいく。
……
『では今宵はこのあたりにしておこう、明日も配信したいところだが……未定とさせておいてくれ。色々落ち着くまでそういう日が増えてしまうかもしれない。せっかく、新たな出会いが増えたというのにすまない』
:気にしないで
:ゆっくり休んでもろて
:また見に来ます!
:クリスマスライブ楽しみにしてる!
『ありがとう、ではおつまお』
:おつまおー!
:おつまおでした!
:おつまお!
:楽しかったー!
ずっと続いていて欲しかった配信も予定していた時間を少し過ぎたあたりで終わってしまう。配信上で見るまお様は、普段と何も変わらず本当に楽しそうにリスナーと言葉を交わし巧みな話術でこちらを楽しませてくれた。それはリスナーとして見守ってきた時と変わらず、同じ配信者として同期となってからも変わらなかった光景。
それもこの後の話によってはどうなるかわからない……。
魔王まお:今から行って大丈夫?
配信を終えたまお様からメッセージが飛んでくる。
リーゼ:はい、お待ちしております
これが声による返答であればきっとその声は震えてしまっていただろう。せめて本人を迎えるときにはいつもどおりでなければ……。いつもは待ち遠しいまお様を待つ時間であったが、今日ばかりは少しでも遅れてくれないだろうかと……そう願ってしまうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます