第93話 黒惟まお3Dお披露目配信③
【黒惟まお3D】我が城にようこそ、ゆっくり寛いでいってくれ【liVeKROne】
「二人ともよく来てくれた、歓迎するぞ」
「まおちゃんの晴れ舞台、甜狐らが来なはじまらへんやろ~?」
「黒様の初めて逃す訳ないじゃーん」
跪いた姿勢から身体を起こし共に挨拶を終えた二人の元へ私も玉座から立ち上がって歩み寄る。
二人とも私に比べれば随分早くに3D化を果たし、色々な配信やライブなどで活躍する姿を見てきた。その姿はとても楽しそうで、いつか私も……と思い続け念願だった三人揃っての3D配信が実現している。
3Dお披露目配信を行うにあたって、最初の3Dコラボはこの二人と決めていた。当初の予定では加入発表と同じくリーゼ・クラウゼよりも黒惟まおのほうが先に行う予定であったのだが、スケジュールを合わせるために入れ替えてもらったのだ。快諾してくれたリーゼと運営スタッフ、なんとかこちらのスケジュールに合わせてくれたコラボ相手二人にはいくら感謝してもしきれない。
「それにしても、ほんまに魔王様やったんやねぇ」
「そうそう!歌ってるときの黒様ほんっとにかっこよかった!最後なんてゾクゾクしちゃった!」
:わかる
:実はまお様って魔王様なんだよな
:ここだけの話魔王様です
:初期まおの帰還
からかうような甜狐の言葉に呼応しながら目を輝かせこちらに詰め寄ってくるリリス。そのまま放っておけばこちらに抱きついてくるのは目に見えているのでひらりと躱すように半歩リリスから遠ざかる。
「デビューからずっと魔王だと言っていただろ」
「せやけど、なぁ?」
「む~、黒様逃げないでよー。えいっ、捕まえたー」
:せやけどまおう!
:じゃれ合いが3Dで見れるの最高なんだよなぁ
:リリスほんと楽しそう
:あら^~
何を今更と甜狐に言葉を返しながら、諦め悪くこちらをジトっとした目で見てくるリリスからの追撃から逃れるようにさらに半歩ステップを踏むように動いてみるが、二度同じ手に引っかかるような甘い相手ではない。まるでそれを先読みしていたかのように動きを合わせられ、軽く抱きつかれてしまう。
「ようやく、こうやってイチャイチャできるようになったんだもんねー、逃さないぞ♪」
「まぁ、随分待たせてしまったからな……少しくらいは許してやろう」
「さすが魔王様、懐広いなぁ。甜狐もその広い懐にお邪魔します~」
:イチャイチャしやがって!
:いいぞ!もっとやれ!
:スクショが捗る
:いつものちょろまお
ようやくと言ったリリスの表情は本当に嬉しそうで、そんな表情を見せられてしまえばこちらも毒気を抜かれてしまう。せっかくの3Dでの配信なのだからこういった触れ合いも3D配信ならではだろう。いつの間にかリリスとは反対側でスタンバイしていた甜狐の手が私の肩に触れ、そのままそっと身を寄せてくる。
「それにしても黒様、この透け透けな部分とか間近で見るとエッチだねぇ」
:それな
:わかる
:リスナーもそう思います
:カメラアップ助かる
先程からやけにリリスの目線が私の胸元へと注がれているかと思えば、そんなことを考えていたらしい。たしかにこのドレスはホルターネックになっていて胸元から首にかけてはレースと薄い生地で鎖骨のラインなんかはしっかり見えている。
「それに普段よりも大きくなってるんやない?」
くすっと笑いながらリリスと同じように私の胸元へと視線を落とす甜狐。その口から何気ない風に告げられた言葉にコメントが色めき立つ。
:ほう
:なるほど?
:くわしく
:なん……だと……
「そんなに変わらないと思うが……ってあまりそこばかり映すんじゃない」
2Dモデルと比べてそこまでの差はないと思っていたのだが、3Dという特性上2Dでは見られなかった角度からも見ることができるのでそう感じるんだろう。
たしかにモニターに映る黒惟まおの胸部は2Dモデル時よりも大きく見えるような気がしてきた……って、それにしてもカメラ胸元映し過ぎだろう!
「はーい、それじゃ。ここからはリリスちゃん達がカメラ役ねー!あたしの指示に従うよーにっ!」
「とてつもなく不安なんだが……」
「可愛く撮ってなぁー」
:信頼のリリスカメラ
:巨匠リリスきちゃ
:期待しかない
:お願いします先生!!
「じゃーまずは、基本のかわいいアイドルポーズ!」
「アイドルポーズ……」
基本と言われてもアイドルポーズなんて取ったことがないのでネットや雑誌などで見たおぼろげな記憶しかない。どうしようかと隣にいる甜狐の方へと視線を向ければ、当たり前のようにカメラに向かってビシッと指を指し反対の手で見えないマイクを握るアイドルの姿があった。
「さすがに甜ちゃんは慣れてるねぇ、さっすが天下のLive*Live~。ほら黒様もがんばってー」
:そういえばLive*Liveってアイドル事務所だったな
:忘れがちだけどアイドルだからな
:アイドル(芸人)
:ライブでは基本的にアイドルだから……
「我はアイドルではないからな……」
:まお様もアイドルになるんだよぉ!!
:歌って踊れればそれはアイドルなんよ
:魔王がアイドルになってもいいじゃない
:アイドル魔王目指してこ
「ほらっリスナーたちもアイドル黒様見たいって!」
「好き勝手言いおって……こう……か?」
なんとなく甜狐に合わせて、Live*Liveのライブで……アカリちゃんがやっていたポーズを思い出してそれっぽく真似してみる。モニターに映る二人の姿はアイドルライブのワンシーンに見えなくもない。
ただ、あれは
:ぎこちなくてかわいい
:照れが隠せてなくて大変よき
:かわいいよ!
:アイドルしてるよ!!
「いいよー黒様ー!!もっと笑って~」
「それアカリ先輩のライブのやつやね~」
:さすがファン
:すぐバレてて草
:そりゃ直接の後輩がおるんやしw
「それじゃ甜ちゃんにカメラ交代っと」
「任せときー、それじゃ次はカッコいいポーズでいこかー」
「それならやっぱり黒様は玉座だよねー」
今度は甜狐の手にカメラが渡り新しいポーズの指定が告げられる。カッコいいポーズと言われて考えるまもなくリリスに手を引かれ玉座の元へ、そのまま導かれるままにそこへと腰を下ろす。
「それじゃ黒様はさっきみたいに思いっきりキメちゃってー、リリスちゃんはこっち~」
「あぁ、……こうか?」
「おお~ええやないのー、やっぱり魔界組は相性ええなぁ」
玉座に座り足を組んで若干気怠げに肘置きに肘をつく、するとリリスは空いている方の肘置きに腰を下ろし私に寄り添うようにして肩に背中を預けてくる。
スタッフが気を利かせて照明の明るさを少し落としたのであろう、モニターの中の二人の目は魔力を帯びたように怪しい光が揺らめき薄く笑う表情は不敵そのもの。まさしく魔王と信頼のおける配下といった構図が出来ている。黒惟まおはともかく普段底抜けに元気な夜闇リリスが見せるそのような一面はひどく新鮮だ。
:あぁいい……
:好き……
:絵になるなぁ
:配下になりたい
:椅子になりたい
「はいはーい交代交代~、じゃあ次は少し絡んでみようか~」
:絡みきちゃ!!
:待ってました!!
:期待
:きまし!?
先程までの怪しい雰囲気はどこかへ飛んでいってしまったかのようにぴょんと玉座の肘置きから飛び降りたリリスがカメラを構えていた甜狐の元へ向かいカメラを受け取る。
「お手柔らかになぁ~」
「うーん……、アレは色々怒られそうだし……。黒様ー、される方とする方どっちがいい?」
「一体何を……と聞いても答えてはくれなさそうだな……、する方にしておこうか」
頭の中で色々なポーズやシチュエーションを考えているらしいリリスから問われた内容はざっくりとしすぎていて何の参考にもならない。そもそも怒られそうな候補というのは一体何なのか……。甜狐相手に何かをされるというのは少し危険な予感がしたので少しでも安全そうな方を選ぶ。
「オッケー!じゃあ黒様は甜ちゃんに壁ドン!ちゃんと口説いてね?」
「そんなんされたら、甜狐まおちゃんの女にされてまうー」
「……はぁ、わかったよ」
普段のリリスから考えればポーズとしては若干控えめにも感じるが、それだけで終わらせないのが彼女のこだわりなのだろう。これくらいならされる方が良かったかもしれないとも考えるがもう変更は許されない。中途半端にやっても恥ずかしいだけだし、ここは真面目に決めて一発で終わらせてやろう。
:たらし魔王の本領発揮や!!
:まお様に口説かれたいだけの人生だった
:甜狐は手強いぞ
:壁になりたい……
「それじゃ、カメラはこのあたりで……甜ちゃんこっちで黒様はこっちからねー」
「なんかドキドキしてきたわ~」
「……じゃあ、いくぞ?」
本来なら本物の壁に相手を追い詰めてやるのが壁ドンであるのだが、画面の中の壁はあくまでバーチャルなものなので当然現実ではそこに壁はない。なのでそれっぽく見せるためには距離感だったり色々大変な気もするが……今更そんな野暮なことを言っても仕方ない。
「な、なんですか黒惟くん」
普段らしからぬ、気を張った中にも怯えの色が見える声色で突然呼ばれたので一瞬困惑してしまう。何事かと甜狐の表情を探ってみれば面白がっているような雰囲気が隠しきれていない。つまりはそういうシチュエーションということなのだろう。
:なんか始まったが
:黒惟くん!?
:学園ドラマかな?
「宵呑宮、お前なんで俺から逃げるんだよ」
「べっ、べつにっ逃げてなんか……」
私が一歩足を進めれば同じだけ彼女も後ろに下がる、そしてもう一歩足を進めたところでそこに本当に壁があるかのように下がれなくなってしまう。
「じゃあどうして後ろに下がる?」
「それは黒惟くんがこっちにくるから……。だいたいどうして私なんかに構うの!?何の取り柄もない私なんかより、夜闇さんとかもっと可愛い子とか……」
「……黙れよ」
「あっ……」
ドンっとそこにはない壁に手をつくように顔のすぐ横に手を伸ばし距離を詰める。気まずそうに顔を背けるところまで彼女の演技は完璧だ。
「こっち見ろよ」
「だめ……っ」
「いいから見ろって」
頑なにこちらを見てこようとしてこない彼女の顎に手を添え無理矢理にでも目線を合わせる。普通なら甜狐のほうが若干背が高いためやりづらくも感じそうなものだが、抜かりなく少しだけ腰を落として身長差を生み出してくれてるあたり本当に芸達者である。
:顎クイ!?
:これが伝説の……
:ドラマでしか見たことねぇよ
:これはいくとこまでいきそう
「俺はお前がいいんだよ、甜狐」
「黒惟くん……」
「違うだろ?」
「まお……くん」
「はーいっ、カットカットカットー!!」
演技に熱が入り自然と互いの顔が近づいたところで横合いから邪魔が入ってしまう。
「なーにイキナリ俺様系と無自覚系ヒロインの学園ドラマ始めちゃってるわけ!?」
「いや、甜狐があんな呼び方するから」
「まおちゃんノリノリやったから」
我ながらベタな展開だったとは思うが、演技だと思えば恥ずかしさもだいぶ薄れるので甜狐がそういう方向に持っていってくれたのは正直助かった。
:草
:やらせたのリリスなんだよなぁ
:あと少しだったのに
:惜しかった
「はい!じゃあ次カメラは甜ちゃん!あたしも無自覚系ヒロインしたい!!」
「あー、リリス……もう時間が……」
「あらぁ、ちょーっと時間かけすぎたかもなぁ」
「そんなー!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます