第92話 黒惟まお3Dお披露目配信②
【黒惟まお3D】我が城にようこそ、ゆっくり寛いでいってくれ【liVeKROne】
「まず初めに我が盟友である
:最高でした
:まお様本当にかっこいい
:ひれ伏しました
:さすが魔王様
称賛のコメントたちをゆっくりと眺め、満足したように笑みを深める。リハーサルよりも更に尊大に、緩慢な動作で脚を組み替える様子はいかにも上位者然としているであろう。
意識してやっていた時はわざとらしくないか?などと心配もしていたが、今は意識せずとも普段からやっているかのように振舞えている。歌っている途中から感じていた全能感と共に自身の新たな一面を見つけてしまったような……不思議な感覚だ。
「まぁ我は堕天したという訳ではないのだが……、魔王に由来があるこの曲をこの記念すべき日に歌うことが出来て本当に嬉しいよ。あらためて天使に……沙夜に感謝を送りたい」
組んでいた足を崩して揃え、胸元に手を当て目を閉じ幼馴染であり親友でもあるつかさの姿を思い浮かべる。これほどまでに黒惟まおとして振舞えているのは曲の力ももちろんあるだろう。この配信も予定を空けて見てくれると言っていたし、きちんと歌声と思いが届いていることを願う。
:天使ちゃんありがとう!
:ぴったりの曲だもんなぁ
:まお様堕天使説か
:まおさやてぇてぇ……
「そしてこの姿……といっても座っていてはよく見えないか」
ゆっくりと目を開けたあと自らの姿を確認するように視線を下ろすが座っていては全てを見せる事はできない。そんな簡単な事も見落としてしまいかねないあたり、落ち着いて振舞っていてもその実浮かれてしまっていることがよくわかる。軽く自嘲するようにふっと笑い玉座から立ち上がり改めてカメラの前で自らの姿を披露する。
:美しいですまお様
:すげぇしか言えない
:ほんっと細かい
:リーゼちゃんもだけどまお様も力入ってるなぁ
:足組んでたまお様もよき……
:後ろ姿もお願いします!
「そう褒められてばかりでは少し面映ゆいな、後ろはこのような感じだな」
いつもの配信ならばいくつか突っ込みどころのあるコメントが目に入るものだが、初めての3Dお披露目配信ということもあってか目に入るのは称賛のコメントばかり。それに若干の照れを感じてしまうのは初心なのではなくリスナーとのコメントでの
しかし、そんな反応も納得できるくらいの出来栄えだと自分でも思っているので純粋な褒め言葉は照れてしまうがそれ以上に嬉しい。
コメントのリクエストに応えてカメラに背を向ける。リーゼのように髪の毛を結っているわけではないので控えめに露出された背中はほとんど見ることはできないが、その代わり黒絹のような長い髪に映える赤いメッシュと毛先にかけてのグラデーションが美しく表現されていることだろう。
:まお様も地味に背中は開いてるのか
:これはポニテ実装が待たれる
:髪の毛の表現も細かいなぁ
:赤メッシュほんとすこ
「後ろ姿を見せるというのも新鮮で不思議なものだな、このドレスと合わせて色の調和がとれていていいだろう?」
普段の配信ではもちろん正面からの姿しか映すことが出来ず、わざわざカメラに背中を向けるというのもなんだか新鮮で面白い。再びくるりと正面へと向き直ると、黒に赤い装飾のドレスと黒髪に赤いメッシュが共にふわりと舞う姿は何度見ても美しく、時間が許すならしばらく画面を確認しながら暫く続けたいくらいだ。
:まお様といえば黒と赤みたいなところある
:好きです
:ふつくしい……
:黒に赤はほんと映えるよなぁ
「さて……、我の姿についてはとりあえずこのあたりにしてこうか。改めて我が城はどうかな?先日リーゼの配信で初披露となったが、魔王の城に相応しいだろう?」
両手を広げ自らの居城を誇るように笑みを携えリスナーへと問いかける。リーゼの配信で好評だったことはもちろん知っているのだが何度だって誇りたくなるくらい理想通りのロケーションに立っているのだ。
:まお様が居るとしっくりくる
:また玉座に座ってー!
:ほんと似合ってる
:まお様のお気に入りポイントは?
「また玉座に座ってほしいと?リーゼの時のように踏んで欲しいというのではあるまいな?」
:座ってー!
:踏んで!!
:イグザクトリー
:見下して!
:歌った後のまお様ほんと最高だった……
「ふんっ、我はリーゼのように優しくはないぞ?」
そう言って再び玉座に腰を下ろして自然とこちらを見上げるように構えているカメラへと視線を向ける。
:そう言ってやってくれるのがまお様
:やっぱまお様なんだよなぁ
:お似合いですまお様!!
:さぁその足を!!
「踏んでやってもいいが……顔を上げることを許すとでも思ったか?この我を仰ぎ見ることを許されるとでも?頭が……高いのではないか?」
先日リーゼが同じシチュエーションで見せた姿には随分驚かされてしまったが、実際に同じ立場になってみればそうなるのがわかってしまう。ただでさえ、絶え間なく供給される魔力によって普段より力が増しているように感じているのだ。それが行動や精神に影響を及ぼさないはずがない。
:あぁ……
:そんな……
:お慈悲を……
:カメラもしっかり下向いてて草
:この魔王ノリノリである
:今日のまお様かなり魔王してる
カメラが下を向いたことを確認して足を差し向ける、いまその視界には足の影が映るのみだろう。
「純粋なリーゼにあのようなことをリクエストした罰だと思い知るがよい」
:反省してます……
:あまりにもむごい……
:鬼!悪魔!魔王!!
:リーゼちゃんも案外ノリノリだったんだよなぁ
:その視線だけでもご褒美です……
すっと足を引けばそれを合図にカメラも普段の画角に戻る。いまの一連の流れを特に事前の決めもなく流れを見てやってくれるのだからノリも技術も信頼できる。
「さて……そろそろ謁見の者が来ると聞いているが……」
チリーンと来訪者の合図であるベルの音が鳴り響く。
「どうやら到着したようだな、では迎え入れる準備をするため一度失礼する」
:お
:来るか?
:シスターズくるか?
:とうとう揃うのか
:もしかして待機まおにゃん来る……?
決められていたセリフを口にすると一度画面は暗転し準備のためのものへと切り替わる。
昨日のリゼにゃん待機動画のせいか、まおにゃんを期待するコメントが一部流れてくるがもちろんそんなものは用意していない。
まおにゃんはこんなところで使える程、気安くはないし忙しいのだ……にゃん。
代わりに画面に映し出されているのは"魔王様公務中"と表示され机に向かう己の姿。時が経つにつれて机の上に乗っている紙の束がどんどん増えていき……それをなんとか片付けるべくノビをしたり、眠たそうに舟をこいだりしている様子がリアルに描かれている。まるで配信と仕事を両立していたときの私である。
:まおにゃんどこ……?
:まーた魔王様が残業しておられる
:管理職って大変だよな
:草
:心が痛い……
:もう残業はないはずじゃ……
その間に軽く水分補給を済ませ、集まり続ける魔力によって熱を帯びているように感じる身体を冷やす。そう感じているだけで実際には目に見える汗だったり発熱だったりはないのでなんとも不思議な感じだ。この分だと配信が終わったときには大量の魔石に魔力を放出しなければならないだろう。
そんなことを考えつつスタッフからチェックを受けつつ、出番に向けてスタンバイしている
さすがに3D配信に慣れているだけあってその様子は落ち着いていてチェックを受けるにしてもとても手慣れているようだ。そんな中ふと甜孤と目が合い、ニコリと笑って見せる。
てっきり向こうからもすぐに笑みが返ってくるものだと思っていたが、一瞬何か言いたげな表情を見せた後それは笑みによって隠された。
甜孤にしては珍しい表情の変化だったので一瞬の事でも付き合いの長さもあって気付く事が出来たが、何か配信に関して心配事でもあるのだろうか。
次いでリリスとも目が合うがこちらはいつも通り微笑みを交わし合う。
「では、映像終わり次第切り替えます」
インカムにスタッフの指示が入り、私は玉座に座り直し二人は玉座の前に跪き、その様子が配信画面へと映し出される。
天狐である
「では、用件を聞こうか」
「はい、魔王様。とある方が最近他の女にかまけてばかりで甜孤の相手をしてくれないんです。魔王様の力で何とかなりませんか?」
:きちゃ!
:草
:それってまお様じゃ
:まぁお願いする相手は間違ってはいない
「……。もう一方の用件も聞こうじゃないか」
「はい!魔王様!黒様……じゃなかった、とある方がいつまでたってもリリスちゃんと関係を持ってくれないんです!!今日だってお触りできると思って来たのに!!」
:草
:もう黒様言うとるやんけ
:今日も二人は通常営業やな
:関係(意味深
:お触りしにきたのか(困惑
なんとも頭の痛くなる陳情であるが、魔王としていずれの願いもきちんと聞き届けなければならない義務がある。まぁそれを素直に叶えてやる義理はないのだが。
ここはビシっと言ってやらなければならないだろう。魔王の威厳がかかっているのだ。
「そんなくだらないことに我の力を使うとでも?」
「「くだらないこと!?」」
「えっ……」
:魔王様押されてて草
:草
:圧
:まお様がんばれー(小声
なんというか体感温度が一気に下がったような気がする、このあたりのやりとりは完全にアドリブなのでついつい素の反応を返してしまった。どうにもこの二人の前だとさっきまで感じていた全能感なんか何の頼りにもならない感じがしてしまう。なんとか持ち直さなければ……。
「もっと他に有意義な使い方をだな……」
「「はぁ……」」
:クソデカため息
:そういうところやぞ
:もう覚悟決めようまお様
:覚悟決めてもろて
ダメだ。怖い……。
「わかりました、魔王様。そこまで言うなら魔王様で手を打たせてもらいます」
「黒様……じゃなくて、あの人の代わりに魔王様がリリスちゃんを娶ってくださいねっ!」
:ん?
:んん?
:結局同じやんけ
:最初からこれが狙いか
:こんなん勝てへんやん
:草
「ちゃーんと甜孤のこと幸せにしたってな?」
「リリスちゃんのことちゃーんと愛してね?」
:まお様おめでとうございます
:おめでとう
:幸せになってね
:イイハナシダナー
:めでたしめでたし
どうあってもこの二人には勝てないらしい。
「……ということで、今宵はこの二人にゲストに来て貰った」
:諦めないで
:草
:ということで(諦観
「コーンばんはー
「どうもー!個人勢サキュバスVtuberで真夜中シスターズの長女!夜の闇と書いて
:コーンばんはー!
:真夜中シスターズだー!!
:3Dで揃ったー!!
:この日を何年待ちわびたか……
:こんリリー!!
この調子で果たして無事にゲストパートを乗り切ることができるかいささか不安にもなるが……。まぁそこは長くやってきた仲だ、うまくやってくれるだろう……。
……やってくれるよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます