第91話 黒惟まお3Dお披露目配信①

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黒惟まお@liVeKROne/20日21時から3Dお披露目!@Kuroi_mao

今宵21時からは我の3Dお披露目配信が始まる

感想やスクショなど #黒惟まお3Dお披露目配信 をチェックするので

たくさん投稿してもらえると嬉しい

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宵呑宮よいのみや 甜狐てんこ@Live*Live二期生/新曲聞いてな~@yoinomiya_tenco

今日はまおちゃんの3Dお披露目にお呼ばれしとります~

真夜中シスターズ3Dお楽しみにぃ

#黒惟まお3Dお披露目配信

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夜闇やあんリリス@もうすぐクリスマス♥@yaan_lilith

今日は黒様の3Dお披露目に来てるよー!

3Dってことはお触りOKってコト!?

黒様のはじめていただいちゃいます♥

#黒惟まお3Dお披露目配信

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 最後のリハーサルも予定通りに終わり、控室に戻って一息つく。


 思えば私が黒惟まおとなってから二年と少し、色々なことがあった。……まぁ本当に振り返るならば、ただの魔王として活動していた頃からだ。それこそ高校生の頃まで遡らなければいけなくなってしまう。


 そう思うともう……、と年数を指折り数えそれを途中で止める。果たして年ばかり重ねて、それに見合った成長は出来ているのだろうか。


 学生の頃からネットの世界にハマり、痛い目を見つつも細々と歌ってみた動画を上げ始め。静に出会い、幼馴染であるつかさの協力も得て界隈ではそれなりに有名になり。Vtuberという新しい文化に触れ……その出会いをきっかけに黒惟まおが生まれた。


 そんな黒惟まおも二周年を迎え個人から企業所属になり、いつかは叶えたかった3Dでの配信が目前まで迫ってきている。しかも、その企業というのが本物の魔王に従う魔族の社長が立ち上げたもので魔界のお姫様が同期だ。更に将来は魔王を継いでほしいと言われている。こんな荒唐無稽な話、学生時代の私が聞けばいい大人になってまた中二病が再発したのかと頭を抱える事だろう。


 もっとも、リーゼたちとの出会いがなければ今だってとても信じられたものではないのだが……。


「だーれだっ」


 これまでの事を思い返しながらのんびり過ごしていると突如目の前が何者かの手によって覆われ、何も見えなくなってしまう。

 背後から聞こえてくる声は限りなく配信中のリリスの声だが、基本的には配信外でその声を聞く事はない。悪戯のためだけにそんなことをするような彼女ではないし、であれば相手はおのずと決まってくる。


「その声は甜孤でしょ」

「半分せいかーい」

「半分?」


 相手からしても声の主が当てられることは想定していたのであろう、あっさりと認めながらもその声は後ろから側面へと移っていく。それでも私の目を塞ぐ手が動かないということは……。


「……だーれだ」

「リリスまで甜孤に付き合う必要はないんだよ?」

「……正解」


 今度は配信外でよく聞くリリスの声が耳に届く。つまり、私の目を塞いでいたのは最初からリリスで声をかけたのが甜孤だったということだろう。私からの返答をもってあっさりと視界を遮っていた手が引かれる。


「なんや、いっつもまおちゃんはオフリリスには甘いんやから」

「どうしてそうなるか胸に手を当ててよーく考えてみなさい?」

「いけずやわぁ」

「……というか二人ともいつのまに」


 不服そうに頬を膨らませる甜孤に対して満更でもなさそうな微笑みを浮かべるリリス。私の言葉を受けて自然とこちらの胸元に手を伸ばしてくる甜孤の手をぺしりと叩き落とし、今更ながら突然の来訪について首を傾げる。


「ちゃーんとノックはしたでー?」

「……返事聞こえた」


 どうやら物思いに耽っているうちに上の空で反応していたらしい。言われてみればノックが聞こえたような……返事をしたような気もしてくる。


「それじゃ、何か用……って訳でもないか」

「まおちゃんが緊張してるかもしれん!って居ても立っても居られなくて来たのになぁ」

「……宵呑宮に誘われた」


 大方手持ち無沙汰になってしまい暇つぶしの相手を求めてやってきたのだろうと思うが……、大きくは外れていないだろう。こちらも物思いに耽るかダンスや進行について振り返るくらいしかやることがなかったので来てくれたこと自体は嬉しい。普段の配信と緊張具合もあまり変わらないのも安心できる二人が居ればこそだ。


「うちのスタジオはどう?」

「んー?広いし色々揃ってるし文句なしやわぁ。Live*Liveライライのスタジオより立派なやいの?羨ましいわぁ」

「今後も使わせてもらいたいくらい……」


 そういえばと、マリーナからはスタジオの使い心地について聞くよう言われていたことを思い出しその話題を振ってみたが、3D配信経験の多い二人がこう言っているのだから評価としては良いものなのだろう。Live*Liveには収録するスタジオにはお世話になったことはあるが3D配信用のスタジオには縁がなかったため比較しようがなかったのだ。


「私とリーゼの3D配信が落ち着けば法人向けに貸し出しもやるって聞いてるから、そのあたりは後で問い合わせてみて?たぶんリリスなら個人でも対応してもらえると思うし」

「わかった」


 現状、そんなに頻繁に3D配信をする予定も立てていないしせっかくの設備を遊ばせておくのももったいないということでスタジオ運営も視野に入れているとは当初から聞いている。流石に設備が設備なだけに個人が気軽に使える規模ではないと思うが、リリスくらい実績があるのであれば問題ないだろう。


 本当ならもっとたくさんの個人勢……気軽に3D配信を行えないような人にこそ使ってほしいのだが、なかなかそうはいかないのが現状だろう。


……


「黒惟さん、こちらに宵呑宮さんと夜闇さんも……いらっしゃいましたね。そろそろスタジオに移動お願いします」


 3D配信あるあるやスタジオについての話題で盛り上がっているうちに予定の時間を迎えたらしい。私達が居ることを確認したスタッフから指示が出る。


「それじゃ二人ともまた後で」

「しっかりステージ温めておいてなー」

「……がんばって」

「はいはい、頑張るよ」


 それじゃあ役割が逆じゃないかと思うが、開幕はもちろん私からなので仕方ないしもちろんそのつもりではある。一度自分の控室に戻る二人と別れ、スタジオへと向かう前にスマートフォンを取り出し先ほど投稿したものを聞き返して気合を入れ直す。


 では、行こう。


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黒惟まお@liVeKROne/20日21時から3Dお披露目!@Kuroi_mao

1/1 1:48 ▶ 再生する

『まおちゃん緊張してるんやないのー?』

『黒様ー!あたしがその緊張をほぐして、あ・げ・る』

『お前たちのせいで緊張なぞどこかいってしまったわ』

『それじゃっ、黒様から意気込みをどーっぞ』

『せっかく二人が来てくれたんだ、最高の配信になることを約束しよう』

『自信満々やねぇ、それじゃあ今夜は本気の真夜中シスターズ見せつけたりましょ』

『リリスちゃんも頑張るから応援よろしくー。お弁当おいしかったでーす』

『甜孤のことも忘れずに~、ええとこのおべんとやったなぁ』

『お前たちは本当に……、では配信で会おう』

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【黒惟まお3D】我が城にようこそ、ゆっくり寛いでいってくれ【liVeKROne】


 :音声メッセージ助かる

 :真夜中シスターズ3D楽しみすぎる

 :楽しそうだなぁ

 :今日こそビームくるやろ


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 ¥11,961

 まお様おめでとうございます

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 ¥1,000

 ずっと待ってました

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 ¥9,696

 ビーム祈願

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 ¥500

 ずっと待ってた!おめでとう!

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 ¥50,000

 まおにゃんゲスト代

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 準備を終えスタジオに入り、細かな調整を終え立ち位置につく。目の前には複数のモニターが並び、もうすっかり見慣れた黒惟まおわたしの姿といつも以上に大量に流れていく待機所のコメントが表示されている。


 そしてモニターから視線を外し、少し脇の方へと向ければまずマリーナが目に入り。そこから少し離れたところに私と同じようにモーションキャプチャースーツを着たリリスと甜孤、そして大勢のスタッフたち。


 この光景だけで本当に多くの人たちの支えがあって今があるのだと改めて実感するが、深く考えれば何か込み上げてきそうで思考を本番へと魔王黒惟まおのものへと切り替えていく。


『我の名は黒惟まお、とある世界で魔王をやっていたのだが──』


 :きちゃ!!

 :はじまった!

 :いきなりこのOPは泣かせに来てるやろ

 :あかん泣く

 :総集編はあかんて


 とある曲をアレンジしたロングイントロと共に黒惟まおとしてデビューしてからこれまでを振り返るように次々と配信風景が流れていく。それは今見れば初々しくたどたどしく、何をするにも手探りだった頃……。

 デビューから一か月……三か月……半年、そして一年。配信の一場面を切り抜いたであろう画像を見ればどれもこれも懐かしく、またその全てが今の黒惟まおにとって必要不可欠だったもの。


 その画像の中には様々なVtuber仲間の姿があり、コメント欄も思い出を懐かしんでいるようだ。


 :懐かしいなぁ

 :コラボもほんと沢山したよなぁ

 :まおの女たちや

 :まじで人脈すごいんよな

 :あの子もいたなぁ……


 そして数か月前に迎えた二周年……。大きな決断と共に新たな一歩を踏み出した記念すべき日。それでもついてきてくれた者たち、新たに加わった者たちと共に今日また新たな一歩を踏み出す。


 :まお様!!!

 :うおおおおおお!!

 :すげぇ

 :これは……

 :期待以上や


 踏み出した一歩は力強く、魔王たる威厳と魔力をその身に纏い。余裕のある笑みを携えて。

 オープニングから流れていたアレンジイントロが本来のメロディーラインへと切り替わる。


 :綺麗……

 :この曲は!?

 :まじか

 :一曲目からこれかよ!?


 それは明けと宵を司る星を意味する曲であり、後世まで魔王として語り継がれた堕天使の歌。

 天使から送られたこの曲以上に新たな一歩を踏み出すにふさわしい曲はないだろう。


 歌うたびに納得がいかなくて、天使の影を追って何度もやめようかと思うたびに歌うこの曲の歌詞に勇気付けられ励まされた。


 黎明の子にして、明けの明星たる化身。神に愛され、挑み、堕とされ、愛されなくなってしまったもの。


 人である来嶋くるしま音羽おとはではなく、魔王である黒惟まおとしてなら歌える。

 ……否、人から魔に堕ちたこの身であればこそここまで気持ちを込めて歌えるのだ。


 :天使ちゃんのもいいけどまお様のもいいな

 :まるで別の曲みたいだ

 :これ二人で歌ったらどうなるんだ……?


 熱い……、信仰が……思いが力となって我が身に降り注ぐ。これまでに感じたことの無い熱さと、今ならば何でも出来てしまうのではないのかという全能感。いまなら……そう神だって……。


 無限に引き延ばされたように感じていた時間もその役割を放棄まではしていなかったようで曲が終わる。あれだけ歌い踊りきるたびに上がっていた息はひとつも乱れず、気づけば玉座に脚を組んで座っていた。肘置きに肘をついて身体を傾かせ薄く笑いながら余韻を楽しむ余裕まである。


「我が城にようこそ、liVeKROneの魔王、黒惟まおだ。今宵は我に付き合ってもらおう」


 そうして黒惟まおの3Dお披露目配信は幕を開けたのである。

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