第90話 スキンシップ
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黒惟まお@liVeKROne/20日21時から3Dお披露目!さんがリツイート
liVeKROne【公式】@liVeKROne_official
【◆#黒惟まお3Dお披露目配信◆】
本日12月20日21時~
昨日に続き本日は黒惟まおの3Dお披露目が行われます!
待ちに待った魔王の真の姿が明かされます!
是非ご視聴・ご声援くださいませ
待機所はこちら▽
vtu.be/kRsmOthM
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黒惟まお@liVeKROne/20日21時から3Dお披露目!@Kuroi_mao
いよいよ我も真の姿で顕現できるようだ
長く待たせた分、期待に応えることを約束しよう
会えるのを楽しみにしている
#黒惟まお3Dお披露目配信
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「これで問題ないでしょう」
「ありがとうございます」
予定通りに朝からスタジオ入りし、ソロパートのリハーサルを行った後マリーナに呼ばれ何事かと社長室に赴けばいつもの魔力健康診断。魔力隠蔽兼体内の魔力量をチェックする魔道具であるブレスレットを外され、両手に手を添え少しの間瞑想するように目を閉じていた彼女が小さくうなずいて手を離したのを合図にこちらも手を引いて再びブレスレットを装着する。
昨夜のうちに溜まっていた魔力は魔石に移していたし、魔石自体もほんのり赤みを帯び始めた程度だったので今日は交換のために持参はしてない。この感じだと恐らくあと一週間くらいは余裕があるだろう、それを証明するようにブレスレットについた石はほとんど色を変えていない。
最近はマリーナとの特訓の成果もあり、自らの体内に宿る魔力の総量がなんとなくだがわかるようになってきた。しかし、それが彼女の言うところの膨大な……と評されるほどであるかは他人と比べることができないのでまだしっくりきていないのが現状である。
先生曰く、次の段階は他人の魔力を感じられるようになることらしいが、相変わらず魔力の行使については自分一人ではまったく行えない。ただ、ささやかな成長として体内の魔力の流れを感じよりスムーズに魔石に魔力を誘導できるようになった。といっても……用意してもらっている魔石を握ればどういう原理か勝手に魔力は移っていくので時間的には大差ないのだが。
「お嬢様から昨日の配信でいつも以上に魔力が流れ込んできたと聞いておりますから、十分にお気をつけください」
「わかりました、今はほとんど空っぽに近いですし一週間分の配信くらいは余裕があると思います」
だから大丈夫ですよ。と今までの経験からだいたいの目算を口にすれば彼女の見立てからも大きくは外れていなかったのであろう小さく頷いてくれた。おそらくはリーゼから話を聞いて色々と気を回してくれているのであろう、そういう点でも私はとても恵まれている。
「それと、大丈夫だとは思いますがあまりヤンチャはしないようにお願いいたします」
念のためと刺された釘は先日のリーゼとサクラ子の配信を受けてのものだろう、詳しい話までは聞けていないが色々とスタッフはハラハラさせられたらしい。もちろんスタジオにはマリーナもいただろうし、もしかしたら頭を抱えるような事態があったのかもしれない。今度それとなく二人に聞いてみよう。
「大丈夫ですよと言いたいところですけど、今日のゲストもなかなか手強いですからね……」
サクラ子に比べればフィジカル面では幾分おとなしめだが、こと配信上でのやりとりについてはこのあと合流する二人組もなかなかの曲者である。なにせ姉妹としてずっとやってきているのでそのあたりは心得てはいても配信者としてどうしても面白い方に舵を切ってしまいがちだ。あの二人が突っ走ってしまった場合、私はなんとかうまい具合に収集をつけなくてはいけないので後のことを考える余裕まであるかは自信がない。
しかし、それでいて最後には収まるべきところにキレイに収まるんだろうなと思う程度には信頼がある。
「くれぐれもよろしくお願いします」
「微力を尽くします」
……
「おべんと食べたらなんや眠うなってきたなぁ……」
「時間あるし起こすから少し寝たら?」
「じゃあ遠慮なく~、まおちゃんこっちこっち~」
そう言いつつソファーに移動しこちらを手招きしてくる
「はいはい」
「はいは一回やろ?じゃあそこ座ってー」
「はい、これでいい?」
「あーやっぱりこの枕やわ~おやすみー」
何を要求されるか予想は出来ていたため指示されるままにソファーに腰を下ろし、膝に甜狐の頭が乗せられても大した驚きはない。そんな私の様子を下から見上げる甜狐はとても満足そうで宣言通りに目を閉じすぐに静かに寝息をたて始める。人の事務所のリフレッシュルームで膝枕を要求し、その上でここまでくつろげるというのは一種の才能と言ってもいいだろう。
普段ならこの手のお願いは一蹴するのだが、こと今回の3Dお披露目配信に関しては二人に色々お願いしてしまったこともあってほとんど言いなりである。まぁこんなことで少しでも恩義に報いられるならお安い御用だ。
「リリスも収録で遅かったんでしょ?少し寝たら?」
「大丈夫……」
自然と膝上にある頭を撫でつつも、こちらからの提案には小さく首を横に振るリリス。甜狐と同じく膝枕を所望してきそうなものだがそういう気分でもないらしい。
甜狐が寝入ったこともあってリフレッシュルーム内は静かなものだ。配信上ならともかくリリスはもともと口数が多い方ではないし、この沈黙がなにか気まずいといった風に感じることもない。
「リリスもなにかして欲しい事とかあったら言ってくれていいからね?」
「……一緒に歌って踊れれば、それでいい」
今回のことでこれ幸いと色々要求してくる甜狐に比べてリリスからはその手のお願い事というのはほとんどされていない。振り付けの件もあって、今なら何でもお願いを聞く覚悟ではあるのだが返ってきた言葉はとてもささやかな願い、それもあと少しで叶えられるものだ。
「振り付け本当にありがとね」
「ん……」
急遽お願いしたにも関わらず、リリスは数日で振り付けを考えその上練習にまで付き合ってくれた。その振り付けにしても簡単過ぎず難し過ぎず、一部に以前の振りやステップも自然と組み込まれていたので自分でも驚くほどにあっさりと覚えることができた。もちろん考案者である彼女が付きっきりで教えてくれたおかげなのだが。
「リリスはさ……」
「……なに?」
「……どこか事務所に所属しようって思ったことはある?」
それはいつか聞こうと思って、ずっと聞けないでいたこと。それこそお互い個人勢として活動している時も、どこか事務所に所属できないかと奔走していた時も、liVeKROneに所属することが決まった時もきっかけがなくて聞けなかったこと。
それをどうして今、このタイミングで口にしたのか自分でもはっきりとした理由はわからなかったが口をついて出ていた。
「……なくはない。けど、今のままでも夢は叶えられるから」
「……そっか、リリスはすごいね」
私よりも長く、それこそVtuber黎明期から個人勢として活動してきた彼女のことだ。私なんかよりも色々な事を考え、感じ、選んできたのだろう。そんな相手に子供みたいな称賛の言葉は軽く聞こえてしまうかもしれないが素直な感想なのだから仕方がない。
あの頃から個人でVtuberを初めて今でも現役最前線で活躍している者など限られている。今となっては私も活動歴から古参扱いされることも増えてきたが彼女に比べればまだまだだろう。
「まおは所属して良かった?」
「うん」
きっかけは当時の私からすればとんでもないものだったが、結果としてかわいい妹ができて、頼りになる同期ができて、今日の3Dお披露目配信を迎えられている。きっとあの出会いがなければ今も私は仕事に追われながら叶うかどうかわからない夢を追いかけていただろう。
それに、もしかしたら……どこかで折れてしまっていたかもしれない。
でも今はこんなに恵まれた環境でひたすらに夢に向かって走ることが出来ている。
「……なら良かった」
そう言って優しく見守るように微笑んでくれるリリスはやっぱりお姉ちゃんで。私の尊敬するVtuberの大先輩である。
「まおちゃん、甜狐はー?」
「寝てたんじゃなかったの」
「甜狐はー?」
言葉は少ないが互いに思っていることはなんとなく通じ合っているような空気に浸っていると、膝の上から少しだけ不服そうな声が聞こえてくる。途中から起きて聞き耳を立てているのはなんとなく気付いていたがとうとう我慢できなくなったらしい。狐でも狸寝入りと言っていいのだろうか。
「はいはい、甜狐もすごいよー」
「どんなとこがー?」
「人の事務所で膝枕を要求してそのまま寝られるところとか」
「……ふふっ」
いつもの調子であしらってみるもそこで引き下がるような相手ではない、軽く笑いながら告げた言葉にそんな私達を見守っていたリリスからも小さく笑い声が漏れている。
「まおちゃんのいけずぅーこうしてやるー」
「あっ、こらっ。ちょっと!」
そう言って甜狐は私の膝に顔を埋め、両腕で私の腰をがっしりホールドしてくる。いつも思うがその細腕のどこにそんな力が隠されているのか不思議だが今はそれどころではない。
ソロでのリハーサルのあと一度着替えているとはいえそれなりに動いた後だ、ただの膝枕ならまだしも顔を埋められるのは不味い。
「甜狐っ、ほら離しなって!」
「いやどすーまおちゃんが甜狐のすごいとこちゃんと言ってくれるまでは死んでも離しませんー」
「このっ、っとほんと力強いんだから……っ」
「ふふふー、すべすべのお腹~」
「きゃっ、……甜狐ーっ!」
なんとか振りほどこうとソファーの上で身じろいでみせるがまったく効果がない、それどころか動けば動くほど腰に回された腕によってシャツがめくれてしまい甜狐の顔がお腹の上に移動し、はたから見ればソファーの上で押し倒されているように見えるだろう。
「宵呑宮、まお……」
「リリスも見てないで助けっ……」
「……スタッフさんが呼んでる」
「……えっ」
かけられた声に抵抗する動きをピタリと止め、ゆっくりと扉の方へと顔を向ければ……。そこには微笑ましいものを見るようにこちらの様子を見守っているスタッフの姿がある。
「そろそろ午後のリハーサル始めますので準備の方お願いします」
「えっと……はい」
「はーい」
なにかつっこみなり今の状態について言及があれば言い訳のしようもあったのだが、一切触れられずに用件のみを伝えられれば返事をするしかなく、ようやく満足したのか私の腰から腕を離した甜狐は私とは対象的に呑気な返事をした後小さな欠伸をかみころしている。
「甜狐……あんた覚えてなさいよ」
「おー、こわ……こんなん姉妹のスキンシップやんかー」
この悪戯化狐はいつか懲らしめてやらないと……。
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