第86話 リーゼ・クラウゼ3Dお披露目配信③

【リーゼ・クラウゼ3D】ついに立派な魔王に!?真の姿をお披露目です!!【liVeKROne】


「改めましてサクラ子さん来てくれてありがとうございます、その衣装もとても素敵です」

「リーゼの方こそ本当にお姫様のようですわ!よく見せてくださいませ」


 :和装サクラ子いいよな……

 :和と洋で対照的でいいな

 :和装のリーゼちゃんも見てみたいなぁ


 気を取り直して二人で並び互いの姿を見合う。もちろん現実では互いにトラッキングスーツ姿なので画面の中の姿とは違うのだが。高身長であり手足はスラっと長く、それでいて出る所は出ている。そんな均整の取れたサクラ子さんの姿に、配信でリハーサルで何度も見てきた二番目の3D衣装である和装の姿が重なって見える。


「素敵なドレスですわ!後ろは……大胆ですわね!刺繍も綺麗で、スカートは……なるほどこうなって……」


 対するサクラ子さんは一度こちらをじっと見てきたかと思うと次の瞬間にはくるくるとわたくしの周りを回りながら衣装についての感想を言ってくれる。そんな彼女の動きに合わせてカメラも動いているので全方位から細かいところまで見られてしまっていると思うとどうにも気恥ずかしい。


 :もっと下から!

 :サクラ子いいぞ

 :サクラ子だけ楽しんでずるいぞ

 :ほんと細かいなぁ

 :背中!背中!


「では一度サクラ子さんにカメラをお渡ししますね」

「さぁここからはリーゼの撮影会ですわ!どんな風に撮ってほしいかコメントしてくださいませ!」


 :セクシーポーズ!!

 :踏んで欲しい

 :思いっきり見下してほしい

 :リゼにゃん!!!!!!!

 :下から!!下から!!


 スタッフからカメラを受け取ったサクラ子さんがコメントに指示を乞うとものすごい勢いでコメントが流れていく。たまたまなのか、それともそういったものが多いせいか目に付くコメントは随分欲望に忠実なようで先が思いやられてしまう。


「皆様!あまり変な指示はしないでくださいね!」

「リーゼ、まずはセクシーポーズですわ!!」

「えぇ……」


 :はーい

 :変態しかいない

 :しょっぱなからサクラ子飛ばしてんなぁ!!

 :ないすぅ!!


 まずは……というがいきなりの指示に思わず困惑の声を漏らしてしまう。セクシーポーズなんて生まれてこの方したことがないのでまずどんなポーズをすればいいかわからないのだ。

 とりあえずは安直によく見る片手を上げ頭の後ろに回して反対の手を腰に当ててみる。


「こうでしょうか?」

「そうですわね、もう少し腰をこう……そう!セクシーですわ!!」


 :この慣れてない感じがたまらん

 :困り顔助かる

 :サクラ子いいぞ!!


 この手のやりとりなんかは3Dでの配信に慣れているのだろうカメラをこちらに向けながらポーズの指示までこなすサクラ子さんはとても楽しそうだ。


「次は……、踏んで欲しいというリクエストが大量にありますわね」

「踏むって……ほんとにそんなにあるんですか?」


─────────────────────────

 ¥50,000

 玉座に座ったリーゼ様に蔑まされながら

 この人間風情が……って言われながら踏まれたい!

─────────────────────────


 困惑しながらもコメントを映しているモニタに目を向けるとちょうどいいタイミングで具体的な指示が書かれた一文が目に入る。そこまでして踏まれたいというのだろうか……。


 :踏まれたいゾ

 :ギャップっていいよね

 :リーゼちゃんもまお様相手だったらわかるでしょ?


 たしかに……。まお様にひれ伏したいというのは……わかってしまう。あの普段優しい目で、見下されてしまえばそのギャップにやられてしまうのは簡単に想像できる。


「わかりました……そんなに要望が多いなら応えるのがわたくしの役目です」

「それでこそリーゼですわ!!」


 :よう言った!!

 :それでこそ魔王や!!

 :やったー!!


 玉座に向かってまずはそこに腰を下ろす、蔑まされたいというのだから横柄な態度の方がそれっぽいだろうか肘掛けに片肘を置き手の甲で顔を支える。自然と下からカメラを構えてくれているサクラ子さんへ向ける視線は見下した形になる。


 :あぁ……いい……

 :なんか目覚めそう

 :リーゼ様!!

 :魔王様!!


「……これで踏んで欲しいと言うのですね?」


 :はい!!

 :踏んでください!!

 :魔王様!お情けを!!


 サクラ子さんは撮影に集中してくれているのだろう口を噤んでカメラを構え続けている、その姿は首を垂れているようで不思議な光景だ。自らを魔王と崇めるコメント欄に静かに頭を下げるサクラ子さん。玉座に座る己が本当に魔王を継いだようなそんな錯覚を覚えてしまいそうだ。


「汚らわしい……、人間風情がこのわたくしの。魔王たるわたくしの寵愛を受けられるとでも?」


 :リーゼちゃんノリノリで草

 :ゾクゾクした……

 :なんだろうこの気持ち……

 :その目ほんとやばい


 そんな空気に当てられてしまったのだろう、まだ黒惟まおという魔王に出会う前。さして人間界について興味もなく見下していたときの自分が顕現してしまう。自然と紡がれるのは最近ではすっかり出番がなくなっていた尊大な魔王の一人娘としての言葉。


「ふふっ……でもそんな愚かなところも許しましょう、愛してあげましょう。それが魔王の器というものですから……ほら、これが欲しかったのでしょう?」


 :ああああああああ

 :リーゼ様っ!!

 :ありがとうございます!!

 :一生付いていきます!!

 :あの表情たまらん……


 ぐいっと踏みつけるように足を差し向け、そのあとはぐりぐりと足首を動かす。喜び自らを称賛するコメントに気をよくしていると不意に配信画面の己の姿が目に入る。

 その姿は玉座に気だるげにもたれ掛かり、愉悦に口角を歪ませながら差し向けた足で相手を弄んでいる一人の魔王の姿。その目は怪しく、緋色の光を宿していて……。


 そんな己の姿に正気を取り戻しすっと足を引いて玉座からも立ち上がる。ふるふると頭を振って先ほどまでの思考を追い出していく。


「……っ。はい!これで終わりです!!サクラ子さんも止めてください、こんな恥ずかしい……」

「ついついワタクシも固唾を飲んでしまいましたわ!さすが魔王リーゼ!」


 :最高でした……

 :もう思い残すことはない

 :ここに墓を建てよう


 サクラ子さんからは褒められたがどうにも褒められたような気がしない。彼女のことだから完全に善意での言葉であろうことは間違いないのだろうが……。


……


 そのあともリクエストに応えながら撮影会は進行していく。サクラ子さんとの剣戟で使った大剣を構えてみたり、刀を借りてみたり。他にも様々な欲望にまみれた指示はあったが楽しい時間はあっという間に過ぎていく。


「では撮影会はこのあたりにしまして……、サクラ子さん今日はお祝いに来てくれただけという訳ではないですよね?」

「そうですわ!龍魔コラボの決着!!それを付けに来たのですわ!!」

「という訳でここからは龍魔コラボ3D出張版と題しまして勝負を行いたいと思います!」


 :龍魔コラボ対決きちゃ!!

 :3D対決だああああああ!!

 :これが見たかった

 :勝負内容は!?


 配信画面には映っていないが目の前ではスタッフたちが慌ただしく勝負の準備を整えてくれている。今回の3Dお披露目配信にゲストとしてサクラ子さんを呼んだ一番の理由、それはこの勝負を3Dでやってみたかったことであり、龍魔コラボの日程を考えた時にちょうどスケジュールの調整が間に合ったため。それでも多忙な中こちらに合わせてくれたサクラ子さんには感謝しかない。


「今回の勝負はこちら!」


 :おっ

 :なんだ?

 :床になんか出てきたな

 :ルーレット?

 :ツイスターや!


 スタッフたちの準備が終わったのを見計らい勝負について説明を始める。きっと今頃配信画面には色々な指示が書かれたルーレットと床には規則的に四色の円が表示されているだろう。


「今回はこのツイスターゲームで勝負を行います!皆様はご存じですか?このゲーム」

「ワタクシは知ってはいましたが今回初めて経験しましたわ!」


 :知ってるけどやったことないなぁ

 :たぶん子供の頃にやった気がする

 :これ真面目にやるとめっちゃ身体にくるんよな


 体力勝負ではあまりに分が悪く、単純な運動能力でも圧倒的にサクラ子さんの方が格上。そうして色々とバランスと見栄えを考えた結果のツイスターゲーム対決である。


「わたくしも存在は知っていましたが実際にやるのは初めてです。リハーサルでお互い軽くやってみましたが意外と奥深いゲームですね」

「リーゼはなかなか策士ですから、油断できませんわ!」


 :サクラ子手足長いからなぁ

 :二人でやるなら場所のチョイスが重要か

 :二人とも頑張れー!!


 このゲームもちろん身体の柔らかさや体幹の強さ、体力の有無は重要だが。二人でやる場合は戦略というのも重要になってくる。そこをうまく突くことが出来ればサクラ子さん相手でも十分勝機は掴めるだろう。


「最初はお互いに端に立って順番にルーレットを回してもらって、出た指示に従っていきます。たとえば右手を赤にですとか、左足を青にといった感じですね。あとは手や足を浮かせてというものもあるみたいです。さらに今回はランダムお題ということで我々にも知らされていない秘密のお題があるらしいのですが……それは当たってからのお楽しみということらしいです」

「ランダムお題に何が来るのか楽しみですわね!」


 ルールは一般的なものと同じでランダムお題についてはスタッフが用意している。説明を受けた時に「きっと盛り上がること間違いなしですよ」といい笑顔で言っていたので不安しかない。


「ではさっそくやっていきましょうか、先行はどうしますか?」

「今日はリーゼが主役ですもの、お任せいたしますわ」

「ではサクラ子さんからお願いします」

「わかりましたわ!」


 :まぁ後攻有利よな

 :リーゼちゃんガチだ

 :これは勝ちに行ってる


「最初は……右足を赤にですわね!これは簡単ですわ!」


 画面上でルーレットが回されその指示が互いのインカムに届く。最初の指示だけあって何も起きるはずはなくサクラ子さんはすっと右足を赤いマークへと動かす。


「では次はわたくしですね……左手を黄色……わかりました」


 :さっそく手かぁ

 :指示運だとやっぱサクラ子よな

 :リーゼちゃんファイト!


 さっそく手への指示が来たのでその場でしゃがんで左手を黄色へと伸ばす。できることなら足の指示が良かったのだがこればかりは仕方がない。


「ワタクシは……右足を浮かせる。こうですわね!右足が続きますわね」

「右足を青に……はい」

「右手を……」

「左足を……」


……


 ターンが経過していき指示をこなしていくにつれ互いの距離が近づいていき身体が触れ合う。こちらはなるべく無理な姿勢にならないように場所を選んでいるおかげもあってかかなり余裕がある。それに対してサクラ子さんは思うままに指示に従っているのであろう、かなりきつい体勢になってしまう場面が多々あったのだが涼しい顔で乗り越えていくのでやはり運動面では敵わなそうだ。


 :サクラ子すげぇな……

 :体幹えっぐい

 :リーゼちゃんの試合運びがうまい

 :リーゼちゃんもかなり身体柔らかそう


「右足を浮かせる……ですわね!ふっ!」


 :えっ

 :あっ

 :つまり両足を

 :まじ?

 :逆立ちしやがった


「サクラ子さんすごい……」


 サクラ子さんが引いた指示によって両の足を浮かせなければならなくなり……、さも当然のように軽い掛け声とともに綺麗な倒立体勢になる。その姿は一切のブレもなく安定していて倒れる気配などまったくしない。逆立ちによってサクラ子さんのただでさえ短い袴がどうなっているのかと軽く心配しつつ、ちらりと配信画面に目を向けると謎の力によって綺麗に守られていた。こういうところは現実とは違って色々と便利である。


「ですがわたくしも負けたくありませんから容赦はしません、右手を赤に!」

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