第87話 リーゼ・クラウゼ3Dお披露目配信④

【リーゼ・クラウゼ3D】ついに立派な魔王に!?真の姿をお披露目です!!【liVeKROne】


「左足を赤ですわね、ふぅ……助かりましたわ。これで片手を浮かせろと言われていれば流石に厳しかったでしょうから」


 :それはそれで見たかった

 :なんならやり遂げそうなんだよなぁ

 :流石にね

 :一切ブレないのどうなってんだ


 サクラ子さんが新たな指示を受けて倒立体勢から左足を青いマークへ危なげなく着地させる。浮かせたままの右足はピンと伸びていて配信で見ているリスナーからはまるで倒立をする際の逆再生のように映っていたのではなかろうか。

 倒立してから次の手番まで姿勢を安定させ体勢を崩さずにまた元に戻すという離れ業をやってのけたというのに目立った息の乱れも見受けられないのは末恐ろしい。


 倒立をするだけなら出来るかもしれないがそこまでの芸当はとても出来そうにない、ただでさえ時間経過によって疲れが蓄積してきたというのに……。


「……とうとう出ましたねランダムお題」


 :おっ

 :ランダムきた

 :なんだ?

 :ランダムは更にルーレットか

 :モノマネあって草

 :相手動かすの引けば勝ちじゃね?

 :リスナーに愛の告白!!


 ここで初めてランダムお題にルーレットが止まったことを知らされ、更にルーレットによりその内容が決められるらしい。

 まだ配信画面を見る余裕が残っているので遠目に見てみれば、手足一つを自由に動かしていいなどの有利になるものから、次の相手の指示を代わりに実行するといった不利になるもの、相手の手足一つを移動させられるといった妨害、あとはモノマネやリスナーへの愛の告白……などの罰ゲーム系とラインナップはバラエティ豊かだ。


「わたくしへのお題は……、次の指示完了までモノマネですか」


 :これはラッキーは方では

 :罰ゲーム感あるけど休めるよな

 :誰のマネするんだろう

 :やっぱまお様かな?


 告げられた指示にとりあえずは一安心するが、急にモノマネと言われても何をすればいいのだろうか……。身体はゲーム中なので動かせないし声真似するしかない……。某国民的アニメのキャラクターだったり芸能人だったりをするのが常道であるのだろうが、それではあまりに普通だろうし……。


「では、liVeKROneライブクローネ所属黒惟まお様を……」


 :お

 :なるほど

 :まお様か

 :期待


「今宵も我に付き合ってもらおう……黒惟まおだ。ん?なんだ、たつ子じゃないか。」


 :口調は結構似てる

 :雰囲気あるな

 :まだちょっと高い

 :特徴は捉えてる


「だからワタクシの名前はたつ子ではありませんわ!!」


 :ここまでテンプレ

 :おうたつ子

 :親の声より聞いたやりとり


「ふふっ、冗談だよ。サクラ子は今日も可愛いな」

「黒惟まおはそんなこと言いませんわ!!」


 :草

 :これは精神攻撃

 :あとで怒られそうw

 :ノリノリで草


 ただまお様の真似をするだけでは芸がないし、少しでもサクラ子さんに動揺を与えられればと言ってみたのだが、あまり似てないのか効果は薄そうだ。しかしやってみたものの……この配信を見ているまお様の反応が怖い。


「リーゼがその調子だとなんだか妙な感じですわね……右足を赤へ、ようやくこれで落ち着けますわ!」


 :意外と効いてるか?

 :落ち着いた(中腰)

 :これ地味にキツそう

 :見てる方がなんか腰やりそう


「我はいつもこの調子だが?こちらの指示は……左手を黄色へか。……これでモノマネはもういいんですよね?」


 :スッと戻って草

 :リーゼちゃん結構攻めたな

 :見えそうで見えないカメラワークよ……

 :サクラ子の袴が鉄壁すぎる

 :リーゼちゃんのお御足~


 指示通りに左手をサクラ子さんの選択肢を狭めるように彼女の右手の直ぐ隣に置く。再び互いの距離は近付きサクラ子さんの顔がすぐ眼前にある、こうすることでこちらも多少苦しい体勢にはなってしまうがそろそろ勝負を決めに行かないと体力的にも尺的にも不味いのだ。


「リーゼ、大胆ですわね」

「そろそろ決めたいと思いまして」


 :角度によってはいい雰囲気に

 :あら^~

 :いいですわぞ~

 :なお手足はすごいことになってる模様

 :それにしてもよく破綻せず反映されてるな


 こちらの攻めの意図を感じ取ったらしいサクラ子さんが面白がるように笑い、こちらも同じように笑みを深める。この勝負に乗ってくれるなら恐らくあと三手もせずに決着は付くだろう。


「ではワタクシへの指示は……」


 :またランダム!

 :こんどはサクラ子にランダムか

 :サクラ子持ってるからなぁ


 このタイミングでサクラ子さんにランダムというのはすごく怖い、彼女の豪運ぶりを考えれば有利な指示を引いてしまうのではないかという危惧もある。そして悪い予感というのはこういう時に限ってよく当たるもので……。


 :これは!

 :さすがサクラ子

 :やっぱり持ってるわ

 :これは決まりかな?


「相手の手足一つを好きな色へ……、ではリーゼの右足を赤へ」

「……わかりました」


 指示を聞いて空いている赤のマークへと視線を向ける。すでに塞がっている分を考えれば届く範囲にあるのは一箇所だけ……それも成功したとして長くは保たないだろう姿勢。しかし、届くのだ。届くのであれば挑戦する前から指示に従えず負けということは避けられる。

 サクラ子さんは好きに指示出来たのだから絶対に無理な指示を出せば勝ちだったのだが……それは彼女の矜持が許さなかったのであろう。


 敵に塩を送る行為だと非難されてしまう可能性がある事も承知の上で「出来ますか?」と挑戦状を叩きつけてきたのである。


 ゆっくりと右足を床から浮かせて目一杯赤いマークめがけて伸ばす。仰向けになり精一杯胸を反らしてバランスを崩さないように両腕と片足で身体を支える。


「っ……、っふ、あっ……あと少し……」


 :いけるか?

 :かなりきつそう

 :頑張れ!!

 :いける!


「っどう、ですかっ……?」


 なんとか右足を下ろし体勢を崩さないように、手足の先以外を床につけないように静止する。この体勢は想像以上にキツく、きちんと赤いマークを踏めているかも確認できない。息が乱れないように細かく呼吸を刻みながら判定を待つ。


「お見事ですわ!!」


 :すげぇ

 :ナイス!!

 :いったー!!


 スタッフからの判定よりも早くサクラ子さんの言葉が耳に届き一安心する。その言葉は純粋な称賛の色しかなく、その真っ直ぐな在り方がとても眩しく感じる。


「次っ、お願いします!」


 しかしこれで成功したからといって巡ってくるのは再びこちらのルーレット、これ以上悪くなる出目なんてほとんどないはずなので早く新たな指示で楽になりたい。


「ラ、ランダム……」


 :うわぁ

 :ここでまたランダムか

 :この体勢で罰ゲームはほんとの罰ゲームやぞ

 :まだ相手の肩代わりのほうが楽まである


 ルーレットの出目を操る運命の女神というものはいつだって残酷で悪戯好きらしい。まずランダムだと再びルーレットを回すので決定までに時間がかかる上に楽になれる指示は好きに手足を動かせるのほぼ一点だけ。他は結果的にほぼ現状維持となるため、先程サクラ子さんが引いた相手への指示というのも今の状態から見ればありがたくもなんともない。


「は、はやくルーレットを……」


 :いや草

 :ここでソレ引く!?

 :いやほんとリーゼ持ってるわ

 :配信者としては百点満点だけど


 大したリアクションも取れずにルーレットを急かした結果、耳に届いたのは正気を疑うような指示。いや、この状況でなければそれは決してその限りではないのだが……よりにもよって……。


「リスナーに……愛の告白……です……っか……」


 :愛ゆえに人は苦しむ

 :嬉しいけど素直に喜べない

 :さすがにシチュが特殊すぎる

 :助かる


 それが仕事なのだから仕方ないのだろうが、セリフを言うためにこちらにカメラを向けてくるスタッフの姿が恨めしい。しかしこの場面においても撮影に集中しているのだろうまっすぐにカメラのモニターに視線を向けているスタッフの真剣な表情が目に入り覚悟を決める。


「……っ、ぁっく……皆様、わたくしは……まだまだ、未熟な魔王見習い……です」


 ただ一言短く告白の言葉を紡いでしまえばいいのだとそう思う心もあるが、思いのままの言葉がどうしても口から零れ出てしまう。


「デビューしたときも……、その後も、最初は憧れのあの方のようになりたいと……。思っていました。……せめて隣に並んで恥ずかしくない存在にならなくては……と。しかし、この活動を続けていくうちに……皆様と同じ時を過ごすにつれっ、それだけではっ!満足できなくなってしまったのです!!だからっ……その責任を取ってください!わたくしをどうかずっと愛してくださいっ!わたくしもっ……それ以上の愛を持って!皆様を愛します!!」


 呼吸も考えずに感情のままに叫ぶように言葉を紡げば息も絶え絶えでとても人に見せられたものではなかったかもしれない。それでも、ずっとどこか胸につかえていた感情を吐き出す事が出来た。


 :愛してる!!

 :こっちのほうが愛してる!!

 :もちろんずっと支えるよ!

 :そんなの当たり前でしょ!


 コメントを読む余裕なんて一切なく、ただただ体勢を崩さないように耐えるのが精一杯であるがこれまで感じたことのないくらいの強い力が流れ込んでくるのを感じる。それはとても暖かくて、それでいて燃え盛るように熱いもの。身を焦がすような熱量であるがそれがとても心地良い。



「ワタクシの負けですわね……」

「えっ?」


 :あっ

 :まじかよ

 :えっ

 :ふぁっ!?

 :こんなことって


 不意に聞こえてきたサクラ子さんの言葉に耳を疑いどういうことかと状況を確認したいが今の体勢では何も確認できない。いつのまにか傍らに立っていたサクラ子さんがこちらに向けて手を差し伸べてくれている。


「サクラ子さん……?」

「ワタクシが引いたのは右手を赤へ……、手が届く範囲にあったのはリーゼが最後に右足を置いた場所しかなかったのですわ」


 ストンと身体を支えていた力が抜けお尻が床についてしまう。キョロキョロとあたりを見回せばルーレットが指した指示はサクラ子さんの言った通り。


「それじゃあ……」

「慣れない策など考えるものではないですわね!予定では試練を乗り越えたリーゼをワタクシがその上から見事に破って見せるつもりでしたのに!」


 いつまで経っても状況が把握しきれずにキョトンとしていると、微苦笑したサクラ子さんがわたくしの手を取りぐいっと引いて立ち上がらせてくれる。

 どうやら運命の女神の悪戯というやつで勝ったらしいという事をようやく理解する。それでも、この勝利はサクラ子さんの指示によるものに他ならない。


「サクラ子さん……」

「約束、忘れてしまいましたの?」


 彼女の名を呼び、続ける言葉を探しているとサクラ子さんからすれば珍しい困り顔で小首を傾げてくる。


 そう、ひとつの約束があったのだ。


 "別にワタクシも呼び捨てでも構いませんのに"

 "……勝ったときにはそうさせていただきます"

 "ではそう簡単には呼ばせることは出来ないですわね"

 "すぐに呼んでみせますよ"


「サクラ子……っ」

「おめでとう!リーゼ!!」

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