第85話 リーゼ・クラウゼ3Dお披露目配信②
【リーゼ・クラウゼ3D】ついに立派な魔王に!?真の姿をお披露目です!!【liVeKROne】
「初めはわたくしのデビュー配信と同じくSILENT先生とまお様にご協力いただいた動画を見て頂きましたがいかがでしたか?」
:すっごい良かった
:懐かしいなぁ
:もう三か月たったとは思えない
:まお様の語り良かったなぁ
「SILENT先生のイラストもまお様の語りも本当に素晴らしくて、お二人ともとてもお忙しいのにわたくしのために本当にありがとうございました」
動画のことだけじゃなく、二人にはそれこそデビュー前からお世話になりっぱなしだ。すでに返しきれないくらいの恩を受けているのだが……。まずは今日のこの配信をしっかりとやり遂げ成長した姿を見せる事が少しでも二人に報いる事になるだろう。
「そして最初に歌った曲ですが……、皆様は覚えていますでしょうか?」
:もちろん!!
:初めての歌枠の一番最初の曲だよね
:リーゼちゃんが大好きな曲
歌っている時は必死でコメントをあまり見る余裕はなかったのだが、今のコメントを見ればきっと歌唱時もたくさんの視聴者が気付いてくれていたのだろう。あの時からずっと見守ってくれているリスナーやアーカイブで見てくれたであろうリスナー。初めてこの曲やわたくしの歌を聞いたリスナーもいるはずだ。様々な反応を改めて見る事が出来て練習やリハーサルで物足りなかった部分が補完されていく。
こんなにも大きなスタジオで沢山の人の手を借りて配信していても、本質的には自室で一人配信している時と変わらない。リスナーの反応やコメントがあってこその配信なのだ。
「そうです。わたくしの大好きで……大切で、初めての歌枠で一番最初に披露させてもらった曲です。今回の3Dお披露目配信でも一番最初に歌うのはこの曲だとずっと前から心に決めていました」
:すごい気持ち伝わって来たよ
:全身全霊って感じだった
:鳥肌たっちゃった
「夢について思い悩んでいる時に運命の出会いがあり、この曲を知り、"そう願ったのであれば、叶えてしまおう"という大切な言葉をわたくしに授けてくれました。だからこそ今日この場に立つことが出来ています。そして……」
ゆっくりと瞳を閉じ、大切な思い出を……ずっと胸にしまい込んでいた思いを、丁寧に紐解いていくように言葉を紡いでいく。脳裏に浮かぶのは苦しかった日々、そしてかけがえのない出会い。言葉を紡ぎ終えると同時に瞳を開け真っ直ぐと前を見据える。
「わたくしのこの姿はどうですか?ようやくこの姿を皆様にお見せできて本当に嬉しいのです」
両腕を広げ己のドレス姿を見せつけるように一歩前に出ると、その動きに合わせてドレスの裾はふわりと揺れ足の動きに遅れてついてくる。
:かわいい!
:まじで綺麗
:クオリティ高すぎる
:想像の何倍もすごい
:後ろも見せてー!
「ふふっ、後ろもですね……これでどうでしょうか?」
:背中!
:めっちゃ開いてるやんけ!
:えっっっ
:姫様大胆すぎる
リクエストに応えるようにくるりと回ってカメラに背中を見せる。足元はマレットドレスと呼ばれる前が短く後ろが長いスカート丈なのですっぽりと隠れてしまうが、その代わり背中はかなり大胆に開かれている。しかも髪の毛はツインテールに結っているのでほとんど遮るものはなく良く見えていることだろう。
「なかなか後ろ姿をお見せする機会はないと思いますがこのようになっていたのですよ」
一応2Dモデルの三面図で後ろ姿も紹介されてはいたのだが、配信でその姿を見せる事は出来ないのでこうやって動いている後ろ姿というのは貴重なはずだ。これからは3Dモデルを使った配信もできるようになると聞いているが、配信中に背中を見せる機会というのもなかなかないだろう。
再びくるりと回って正面を向く、回転に合わせてドレスと髪の毛が揺れる様はとても自然で本当に画面の中の姿でいるような錯覚を覚えてしまう。
:ほんときれい……
:背中助かった
:綺麗に揺れるねぇ
:もっと回ってー!
「もっと回ってほしい?ですか?それでは……っと、あまりここで時間を使いすぎる訳にはいかないようです。ステージの紹介をしてほしいと言われているのでした」
コメントを受けて、柄にもなくはしゃぐようにリクエストに応えそうになるがスタッフからの指示がインカムから届いて思いとどまる。自身の姿だけではなくまだまだ紹介したいものは沢山あるのだ。
「こちらは魔王城をイメージしたものを作っていただきました。場所としては……玉座の間といったところでしょうか。そうそう!この玉座きちんと座れるのですよ?」
ぐるりとあたりを見回し魔王城がモチーフとなっているステージを紹介する。装飾といい雰囲気といい本物を知る者が全面協力した上でSILENT先生やまお様の監修も受けているそのステージはとても美しく、きっと今のわたくしの姿とも素晴らしくマッチしていることだろう。画面に映る映像を見れば懐かしさすら感じてしまう。
そして目線の先にある椅子……、現実ではただ普通の椅子であるのだが画面の中では立派な玉座がそこにはある。これが本物であるならばとても恐れ多くて座ろうなどとは思えないが、お披露目の興奮も手伝ってか軽やかな足取りで歩み寄りその玉座に腰を下ろす。
:魔王様だ!!
:お似合いです姫様
:ははーっ!
:魔王リーゼ様!!
「ふふっ、勝手に座ってしまってはまお様に怒られてしまうかもしれませんから。まお様には内緒ですよ?」
悪戯っ子のような気分で人差し指を口にあてて、しぃーと秘密の共有を行う。
:仰せのままに!
:かしこまりました!
:内緒ですね!
:絶対見てるんだよなぁw
そういえば幼いころはお父様の隙を見てあの大きな玉座によじ登るように座っていたな……。
不意に昔の記憶を思い出しながら画面の中で玉座に座る自らの姿を不思議な思いで見つめているとベルの音がチリーンと鳴り響く。
「あら?どうやら来客のようですね……、魔王城に来客とは……勇者でも来たのでしょうか?」
:おっ
:来客ってことは
:勇者……か?
:ドラゴンなんだよなぁ……
:来客!?
:敵襲!?
すでにゲストのことは告知済みであるのだがリスナーたちもノリノリのようだ。
「それではわたくしも迎え撃つ準備をしなくてはなりませんね、皆様また後程お会いいたしましょう」
そう言ってゲストを迎え入れるために画面が切り替わる、いまは事前に収録しているあの動画が流れているはずだ。今のうちに素早く水分を補給し歌によって乾いた喉を潤し、タオルを受け取って軽く汗を拭く。
全力で歌ったせいだろうリハーサルの時よりも随分体力を使ってしまった気がするが、それ以上にリスナーから送られてくる力……魔力は普段の配信の比にならないくらいだ。単純に視聴者が多いという事もあるが、より生身に近い3Dの身体を手に入れたことでより多くの魔力が受け取れるようになっているのかもしれない。
ふぅと一息ついてから決められた立ち位置につくとサクラ子さんがこちらに向かってくるのが目に入る。声をかけたいところだが今は本番中、マイクが入っていないとしても余計なことはしないほうがいいだろう、アイコンタクトを送るに留めておく。それにすぐに気づいたサクラ子さんは満面の笑みで応えてくれるのでわかりやすい。
お互いスタッフから簡単なチェックを受けながら、目線の先は配信画面が映されているモニターへ。そこでは猫耳と尻尾をつけたリーゼ・クラウゼ……リゼにゃんが自由奔放に動き回っている。
:リゼにゃん……かわいすぎだろ
:声がなくてこの破壊力はやばい
:この子どこに行けば飼えますか!?
:スタッフグッジョブすぎるだろ……
:もしかしてこれは明日……
撮影しているうちに楽しくなってしまい、色々とやったのだが……落ち着いてリゼにゃんが動いている姿を見ると恥ずかしさも込み上げてくる。あの時のわたくしはきっとどうかしてしまっていたのだ……。
『では、映像終わり次第切り替えます』
最終確認が終わりインカムに合図が送られてくる。モニターから視線をサクラ子さんの方に向ければ考えることは同じだったのであろう視線が重なりお互い頷き合う。
「魔王リーゼ!今日こそ決着をつけさせていただきますわ!!」
「誰かと思えば……。いいでしょう、ここはわたくしの居城……勝てますか?」
画面が切り替わり、サクラ子さんと対峙している場面が映し出された。
その姿は普段の配信姿であるキャミソールにホットパンツという出で立ちではなく、見事な桜の花弁が散りばめられた和装姿。袴をベースにアレンジされたその服装はサクラ子さんらしく着丈は短くなっていて健康的な脚をこれでもかと見せつけてくる。
そしてその手には日本刀が握られ切っ先がこちらへと向けられている。
対するこちらも傍らには魔王にふさわしい禍々しいオーラを放っている大剣が床に突き刺さっていてその柄に手を添える。
魔王城をベースとしたステージに刀を構えた和装のドラゴン娘と禍々しい大剣を手にしたドレスを纏う魔王の娘。一見ちぐはぐに見えてしまうようにも思うが不思議と調和が取れていて絵になっている。
:和サクラ子きちゃ!!
:和装だ!
:刀!?
:素手の方が強そう
:やるのか
:リーゼちゃんの大剣いい……
こちらからの挑発の言葉に返事はなく、サクラ子さんがフッと笑って見せたかと思えば沈黙を破るかのように距離をつめてくる。まずは横凪ぎに一閃、繰り出される剣戟を大剣を構えて受け流す。配信上ではそれに合わせてキィンとまるで本当に剣同士がぶつかり合ったような音が流れているだろうが、もちろん本物を使っているわけではなく実際はお互いの身体に当たっても痛くないような素材でできたものを本物に見立てて振るっているだけだ。
しかし、こちらがもつ大剣は作成したスタッフの趣味だろうか資料として見せた
お返しとばかりに大剣を振りかぶり袈裟に切り掛かろうとするがサクラ子さんはひらりとそれを躱し、切り返してくる。そんな剣戟のやりとりを数度繰り返し鍔迫り合いなんかも演じて見せた後互いに一度距離を取る。
:ガチじゃん
:パワー系のサクラ子が刀でリーゼちゃんが大剣なのいいな……
:こういうの男の子大好きなんだよなぁ
:リーゼちゃんも負けてないぞ
「なかなかやりますわね……」
「そちらこそ……」
互いの実力を認め合うように軽く笑みを浮かべる。リハーサルではもっとゆっくり、互いの様子を見ながらの剣戟であったがサクラ子さんの初手からして鋭い一撃であったため、それに応えるように剣戟は激しさを増していた。
彼女の本気がどの程度かはまだ計りかねているところだがその熱気に当てられ一度くらい本気で打ち合ってみたいという欲求が出てきてしまっている。マリーナからは散々あまり熱くなりすぎないようにと釘を刺されているのだが……。
時間的にも次が最後の一太刀であるとアイコンタクトで示し合い。どちらからともなく、身体に纏う魔力が膨れ上がっていく。
『次で決めますわ』
『負けません』
こんなにも楽しい魔力のやりとりはいつ以来だろうか、無意識に魔力で意思疎通を図りお互いニヤリと口元を持ち上げ……一歩を踏み出そうとしたところで。
『お二人とも?』
背中に冷や水を浴びたようなそんな寒気を感じて思わず動きを止める。その声なき声の主の方向へと顔を向けなかったのは……向けることが出来なかったのは、そうする必要がないまでに圧倒的な魔力の奔流を感じたためであり恐怖してしまったため。
よく見知っているわたくしでさえそう感じたのだ。同じように身体を硬直させたサクラ子さんも心なしか怯えてしまっているように見える。
「さ、さすがはワタクシが認めた魔王。その力に偽りはないようですわね!」
「サクラ子さんこそ、さすがの太刀筋でした」
お互いにゆっくりと構えを解き、台本の進行に戻る。もしもあのまま本気で打ち合っていたらもっと恐ろしいことになっていた事だろう。
「というわけで本日のゲスト!
「ぶいロジから参りました桜龍サクラ子ですわ!リーゼ、3Dお披露目本当におめでとうございます!!こんな大事な舞台にゲストで呼んでもらえてワタクシ嬉しいですわ!!」
いったん先ほどまでのやらかしは大剣と共に隅に置いておいて、サクラ子さんを歓迎する。それを受けて彼女も刀を置き笑顔でこちらに向かってくる。結構な勢いで向かってくるのでそのまま抱き着かれるかと身構えていると初めて出会った時のように高い高いをされるように軽々と持ち上げられてしまう。
:さすがサクラ子
:軽々だなぁ
:今日もよう回っておる
:そのままお姫様抱っこしてもろて
持ち上げられたままくるくると二周ほど回り、床に下ろしてもらえる。
「サクラ子さんはいつもいきなりなんですから、ほらスタッフさん驚いてますよ?」
「リーゼを見たらつい……、先ほどの剣戟も少し熱くなりすぎてしまいましたわ!」
:これはもう経験済みか
:リーゼちゃん軽そうだしなぁ
:さっきの戦いすごかった!
「サクラ子さんの熱に当てられてわたくしも少し熱くなってしまいました、あとで二人で謝りましょうね」
ちらりとわたくしたち二人を見ているマリーナへと視線を向ける。すでに魔力の気配はかなり薄まっているがにこやかにこちらを見守っている姿とは裏腹にあの視線は「次はないですからね?」と暗に言っているのだ。お互い羽目を外さないよう十分気を付けなくては……。
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