第66話 龍魔の爆弾解体①

「おつかれさまです。大丈夫でしたか?」

「お待たせいたしましたわ!シャワーも浴びてサッパリしましたし早速始めましょう!」


 ヘッドホンからは配信と変わらないハツラツとしたよく通る桜龍おうりゅうサクラ子さんの声がこちらに届く。つい三十分ほど前までループフィットアドベンチャーことLFAで負荷最大にて運動配信していたとは思えないほどの活力がボイスチャット越しでも伝わってくる。


「では早速……」


 今日は後日に控えた『龍魔相まみえる』と題した、リーゼ・クラウゼと桜龍サクラ子のコラボ第二弾の打ち合わせだ。前回アソビ大百科で行った対決コラボもリスナーからの評判もよく、最後に再戦の約束をしたこともあり早々に二回目の約束は取り付けていたのだがようやく日程も決まり内容を相談することになっている。


「チャットでもお送りしましたがサクラ子さんはどう思いますか?」

「たしかに前回あれだけの接戦でしたもの、ちょうどいい対決内容というのも難しいですわね……」


 前回の対決はお互い勝って負けての大接戦、最後の最後まで勝負の行方がわからない状態になりサクラ子さんの劇的な逆転勝利となっている。お互い得意なジャンルが真逆なこともあり公平で盛り上がる内容というのも難しいし、前回やったアソビ大百科を再びというのも連続では芸がない。


「なのでリスナーさんからもあった協力ゲームはどうかと思ったのですが……」

「激戦を乗り越えての協力!昨日の敵は今日の友!とてもいいと思いますわ!」

「では、ぜひやってみたいものがあるのですが……」


……


「これで行けそうですわね」

「えぇ、大丈夫だと思います」


 配信でやる内容に大まかな流れが決まり、とりあえず一安心。サクラ子さんからの提案もあり、わたくしならではな要素も付け加わりきっと盛り上がることだろう。


「そういえば壺見ましたわよ?」

「サクラ子さんから見たら下手すぎて恥ずかしいレベルだとは思いますが……」


 どうやら先日の壺野郎配信を見てくれたらしい、といっても相手はクリアタイム一分を切り世界ランク一桁台の猛者だ、それはもう自身の拙いプレイはもどかしかったことだろう。


「初プレイでクリアできたんですもの!クリアまで諦めずにやりきったことこそ誇るべきですわ!」

「ありがとうございます……リスナーさんとまお様のおかげです。サクラ子さんの新記録の動画見ましたが本当にすごくて」


 基本的にサクラ子さんは何でも褒めてくれる、普段から何事もポジティブに捉える姿は見習おうとも思える美点だ。そんなサクラ子さんが一分を切った動画をあとになって見てみたが、メトロノームのカチカチという音と共に一切の淀みなく登っていく姿……通称メトロノーム走法は圧巻の一言だった。

 しかも、それを配信上でやってのけるのだから恐るべき集中力と精神力である。


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桜龍サクラ子@ぶいロジ!/イベントグッズ発売中!さんがリツイート

リーゼ・クラウゼ@liVeKROneライブクローネ/うたみた出しました!@Liese_Krause

今夜はサクラ子さんのチャンネルでコラボ!

リベンジ!の前に今回は協力して危機を一緒に乗り越えます!

#龍魔相まみえる

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リーゼ・クラウゼ@liVeKROne/うたみた出しました!さんがリツイート

桜龍サクラ子@ぶいロジ!/イベントグッズ発売中!@oryu_sakurako

昨日の敵は今日の友……

リーゼを招いて困難を共に乗り越え!

次なる戦いに備えますわ!

#龍魔相まみえる

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【爆弾解体】龍魔そろえば爆弾なんて怖くないですわ!【桜龍サクラ子/リーゼ・クラウゼ】


 :きれいな花火が見れると聞いて

 :待機

 :桜人さくらびとさんお邪魔しまーす

 :いらっしゃーい

 :うちのドラゴンがお世話になってます

 :タイトルがフラグにしか見えない


「みなさん御機嫌よう!ぶいロジ!所属の桜龍サクラ子ですわ!!聞こえてますか!?」


 :御機嫌ようー!

 :聞こえてます!(クソデカ

 :鼓膜交換定期

 :親の声より聞いたクソデカボイス

 :御機嫌よう!!!


「今日もみなさんお元気なようで何よりですわ!本日はお知らせしていたとおりコラボ配信!前回熱戦を繰り広げお友達になったリーゼと一緒に爆弾解体をしていきたいと思います!」


 :そうはならんやろ

 :友達になったら爆弾解体するのか……

 :リーゼちゃんだけが頼りだ……


「今日はわたくし達の爆弾解体を応援してくれますか?liVeKROne所属魔王見習いのリーゼ・クラウゼです。聞こえていますでしょうか?」


 :応援するよー!

 :頼んだぞリーゼちゃん

 :聞こえてるよー


 サクラ子さんの紹介に合わせて、こちらも挨拶をする。自身の配信で見る名前ばかりではなくサクラ子さんのリスナーである桜人さんたちからもお約束の挨拶が返ってくるのが嬉しい。


「今回、前回のリベンジとも思ったのですがその前にやってみたかったこのゲームで相互理解を深めたいと思いまして」


 :なるほど

 :リベンジへの布石か

 :サクラ子と爆弾解体を選ぶとは……

 :チャレンジャーやな


「サクラ子さんはこの爆弾解体の経験はあるんですよね?」

「何度かありますわ!解体は任せてくださいまし!リーゼは初めてだからわたくしがリードしてさしあげますわ!」

「配信で何度かは見たことがありますが実際にプレイするのは初めてなので頼りにしています!」


 :なお成功率

 :なんでここまで自信満々なのか

 :直感ドラゴンを信じろ

 :オペレーター過労死するんだよなぁ……


 コメントで言われている通りサクラ子さんは経験者であるのだが、ハチャメチャな説明だったり独特な理解力で推し進めていき豪快に爆発させたり。奇跡的な直感で解除成功したりと毎度撮れ高と爆弾を爆発させているのだ。


「まずはワタクシが解体作業、リーゼがオペレーターですわ!」

「サクラ子さんを生存させます!」


 この爆弾解体というゲーム、作業者はゲーム内に表示された複数のモジュールから成り立つ爆弾を解体していくのだが、解体手順はすべてオペレーターが持つマニュアルに事細かに書かれているのである。解体作業者は爆弾しか見ることができず、オペレーターはマニュアルしか見てはいけないのでお互いの言葉で意思疎通を行い協力して爆弾を解体する。


 こちらの手元には予め印刷しておいた解体マニュアルがある。これが結構枚数もありパラパラを中身をめくってみると事細かに解除手順について書いてあるのだが……爆弾現物を見ずに作業者からの言葉だけで正しい手順を指示するというのはなかなか難しそうだ。



「ワイヤーが四本ありますわ!」

「ええと……ワイヤー四本……色を教えてください」

「赤赤黄青!ですわ!」

「赤赤黄青……爆弾にシリアルナンバーありますか?」

「ありますわ!」

「最後の数字を教えてください」

「1ですわね……」

「じゃあ、二番目の赤を切ってください」

「解除できましたわ!」


 :ナイスゥ!

 :これはいいコンビなのでは

 :まぁワイヤーはな


 まずは小手調べということで簡単な爆弾解体。コメントの前評判は怪しいものがあったがはっきりと聞いたことに答えてくれるサクラ子さんに作業してもらうのは案外スムーズだ。ボタンを押すモジュールに四つのキーパッドを押すものも問題なく意思疎通ができ、あっさりと解除に成功する。


「リーゼの説明はわかりやすくて助かりますわ!」

「サクラ子さんもはっきり言ってくれるので指示しやすかったです」


 :てぇてぇ

 :褒め合うのいいぞ~

 :これは勝ちましたわ

 :問題はここからだ……


「では役割交代ですね」

「しっかりリーゼを導いて見せますわ!」


……


「解除できました!」

「ナイスですわ!」


 役割交代しわたくしが解体作業でサクラ子さんがオペレーターになり、ワイヤーとキーパッドは難なくクリア。先程までの経験もあるので解法がわかっているのが大きい。しかし最後のモジュールは初めて見るもの……。


「ディスプレイにからって書いてあってそのしたに、そう、まって、右、えーと、なし、うんうんって書いてあるボタンがあります」

「ディスプレイにボタン……これですわね。ってなんですのこれ!?」

「サクラ子さん……?」

「お待ちくださいまし……ディスプレイの……表?」

「……サクラ子さん時間が」

「ディスプレイにはなんて書いてありますの?」

「からって書いてます」

「からですわね……」

「右の真ん中の文字を教えてくださいな!」

「右の真ん中を押し……ってあっ」

「えっ」

「右の真ん中のうんうんを押したら失敗しました」


 :あっ

 :押しちゃった?

 :聞き間違いか?

 :教えてと押してで聞き間違ったか


 言われたとおりに右の真ん中のボタンを押したはずだがゲームからは短くブザーが鳴りタイマーの上にバツマークがつく、あと二回失敗しバツマークが三個になれば解体失敗し爆発してしまう。


「押してではなくて教えてくださいな!」

「あっごめんなさい!ディスプレイがどう?になりました」

「どう……左上の文字を教えてくださいな!」

「なしです!」

「ええと……一致するリストの最初に表れるボタン……ボタンの文字を教えてくださいな!」

「準備OK、違う、オーケー、真ん中、どう?、うんうんです!」

「一番最初…最初……オーケー?を押してくださいな」

「押します!あっ失敗……」

「どうしてですの!?」


 :あっ

 :これは……

 :やばい

 :やっぱこれむずいよな


 これで二回目の失敗、次間違えれば爆弾が爆発してしまうがタイマーの時間がもう残りわずか……。これまでのやりとりを考えれば間違いなく間に合わないだろう。


「サクラ子さん、もう時間が……」

「リーゼまだ諦めるのは早いですわ!!あと何秒ですの!?」

「サクラ子さん……また勝負したかっ……」

「リーゼ!?リーゼ!答えてくださいませ!!」


 :RIP

 :リーゼ……いい子だった

 :フォーエバーリーゼ

 :君の犠牲は忘れない


 無情にもタイムアップし画面が暗転すると共に爆発音が鳴り響く。サクラ子さんの必死の呼び掛けが聞こえてくるが爆発してしまった以上わたくしはもうこの世にはいないのだ……。


「そんな……リーゼ……ワタクシと一緒にLFA耐久すると約束しましたのに……」

「……してませんからね?」


 :草

 :LFA耐久してもろて

 :生き返った!?

 :しゃべったああああああああ


 サクラ子さんとループフィットアドベンチャーなんて実際に運動するゲームをした日にはそれこそ亡き者になりかねない。


「ではまた交代して再挑戦しましょう!」

「リーゼ任せましたわ!」

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