第36話 リーゼデビュー配信②

 気をつけていたがやはりまお様の話題になってしまうと早口になってしまっているらしい。コメントの反応は概ね好意的で盛り上がっているように見えるので問題はなさそうだが……。気をつけるにこしたことはないだろう。

 心を一旦落ち着けてからプロフィール画面から雑談用に用意している画面へと切り替える。


「たくさんのマシュマロありがとうございます。すべて目を通させてもらいました。まずは多かったこちらから」


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デビューおめでとうございます!

Vtuberになろうと思ったきっかけは?


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「ありがとうございます。きっかけについては冒頭に流した動画の通りです。Vtuberというもの自体まお様をきっかけに知ったのですがそれから色々な種族が同じように活動しているのを知り、わたくしもいずれ魔王となる身としては見識を広める必要を感じたのです」


 :Vtuber人外多すぎ問題

 :特にまお様周り人間少なすぎるからな

 :つまり魔界のお姫様ってこと?

 :魔王って世襲制だったのか

 :リーゼ様じゃん


「お姫様……と呼ばれる事もありますが、ここでは魔王見習いの新人Vtuberですから、皆様にも気さくに接していただけると嬉しいです。魔王は基本的には世襲制ではなく指名制ですね。血族が指名されることが多いので実質世襲制のようなものですが」


 :なるほどなー

 :完全に理解した

 :設定しっかりしてるな

 :じゃあまお様の血族だったりするの?


「まお様については謎が多いですから……ただ伝説の魔王様は突然いなくなってしまったのでその次の魔王、わたくしのお父様は指名されたと聞いています。と少し話題から逸れてしまいましたね。次のマシュマロにいきましょうか」


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どうやってVKROブイクロに入ったの?オーディション?スカウト? 

入ってみての印象は?


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「こちらの質問も多かったですね。まお様が新しい事務所に所属するということを魔界の伝手で耳にしまして、わたくしの方から声をかけさせていただきました。そこから面接を経て所属ということになりましたからオーディションということになるでしょうか」


 魔界の伝手とはもちろんマリーナのことで契約のあの日、ほぼゴリ押しでデビューを決めたのだが嘘は言っていない。お父様とSILENT先生、二人の説得という面接も突破しているのだ。


「VKROもまだまだ新しい事務所ですから印象といってもまだそんなに多くはないですが、不慣れなわたくしをしっかりサポートしてくれる素敵な事務所でしょうか。わたくしもまお様と一緒に盛り上げていきたいと思っています」


 :魔界の伝手とは

 :このお姫様積極的である

 :魔王とお姫様を要する事務所とはいったい……


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魔法使えますか?見てみたいです! 

ちなみに私もあと数年で魔法使える予定です


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 :草

 :あっ(察し

 :俺もそーなの


「おめでとうございます……?わたくしは魔力の行使はある程度できますが、どうやってお見せすればいいか……。たとえば、このように魔力を高めると……」


 意識して体内の魔力の流れを加速し発現とまではいかずともその寸前まで魔力を高める。すると現実と同じように画面に映るリーゼわたくしの瞳が碧眼から緋色へと染まる。


 :おめでとうは草

 :そのままの君でいて

 :ある意味ご褒美

 :かっけぇ!

 :本物じゃん

 :これは中二病患者もニッコリ

 :リゼビーム打てるのでは


 通常であれば配信用ソフトの表情操作によって瞳の色なんかは変更できる。が、マリーナがこだわったらしく現実の瞳の色の変化まで反映されているのだ。こんな機能一人きりでの配信かこちら側の事情を知るものがいる時にしか使えないのだが……。通常のモデルを作り飽きていたこちら側の技術者とマリーナで盛り上がり他にも色々な機能が魔改造……、文字通り魔力による改造が行われているらしい。操作の手間が減るという意味ではたしかに便利ではあるのだが。


「ビーム……このまま魔力を打ち出せば出来ないことはありませんが、部屋が大変なことになってしまうので別の機会があれば……」


 :ビーム物騒で草

 :ちがうそうじゃない

 :リゼビーム(魔力)

 :魔法攻撃で草

 :撃ち抜かれたら命の危険がありそう


「あと皆様にお見せできる魔法がひとつありました」


 :お?

 :なんだ?

 :見せてー

 :ん?


「その……、わたくしのことを好きになる魔法……なんて……」


 配信ソフトを操作し顔のアップにして出来るだけ可愛らしく映るようにウィンクをしてみせる。

 マリーナからは「これで視聴者はイチコロですわ♪」なんて言われて採用したし、まお様からもかなり好評だったのだが……実際に身内以外にやってみせると思っていた数百倍恥ずかしい。


 :お、おう

 :草

 :かわいい

 :ぐふっ

 :え?

 :もしかして天然だったりする?

 :これはすごい魔法だわ

 :かわいすぎるが?


「──っ、わ、忘れてください……恥ずかしい……です……」


 流れていくたくさんの「かわいい」コメントよりも、どうしても時折流れる「草」や「え?」のようなコメントばかりが目についてしまう。


 :恥ずかしくなっちゃってかわいい

 :ガチ恋不可避

 :ガチ恋距離助かる

 :これは切り抜き不可避だわ

 :魔法にかかったので推します


「そ、その失礼いたしました……、魔法にかかってくださった方はこれからもよろしくお願いいたします……」


 恥ずかしさに負け配信に映る姿を通常のものに戻してさっさと次の質問へと移る。


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チャームポイント教えてください! 

あと自分で気に入ってるところは?


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「チャームポイント……、そうですね。この髪でしょうか、手入れには気を使っているので」


 そう言って頭を振って画面の中でツインテールを揺らして見せる。現実よりもさらに長くゆらゆらと揺れる髪の束はとても軽やかで現実では魔力でも使わないとこうはいかないだろう。


 :シャンプー何使ってる?

 :すごい長いよね

 :ポニテも見てみたい

 :グルシャン勢だ!

 :グルシャン勢どこにでもいるな


「シャンプーは……お答えしますが飲んではダメですよ?まお様と同じものを使っています」


 :あら~^

 :グルシャン知ってるのか

 :もしやグルシャン勢!?

 :まお様と同じってことはアレか

 :女子力高いやつだ

 :あれ美味しいよね


 いつかの配信で聞き出すことができたものをずっと愛用していたのだが、実はまお様の部屋で過ごした時に別のものになっていたことを知ってからはそちらに変えている。それは知ることが出来た者の特権だろうと多少の優越感に浸ってしまう。


「わたくしは飲みませんからね?お気に入りのところはやはり、SILENT先生に仕立てていただいたこの衣装ですね。先程は少しだけ語ってしまいましたが……細かなところまで素晴らしくて」


 :少し……?

 :思う存分語ってもろて

 :控えめなお胸好き

 :スタイル良くてよき

 :ぺったん……(小声


「たしかにまお様のように豊満ではありませんが……まだ成長する余地はあると思うのです」


 今度は暴走しないように自制しながら改めて全身姿を画面に表示する。何度見てもこの衣装はまお様との繋がりを感じることができて嬉しくなってしまう。

 ひとつだけ気になるのはコメントにあるように非常にスレンダー、つまりぺったんこなのだ。SILENT先生にはせめてもう少し……とお願いもしてみたのだが「嘘はいけない」とにべもなく断られてしまった。


 それにしたってわたくし自身はもう少しあると思うのだが……。


 自身の胸元へと視線を落とし首を傾げると画面上でものの見事にその動きが再現されている。表情も相まって悲しげだ。


 :元気だしてもろて

 :貧乳はステータスだ!

 :ちっぱいもいいものだ

 :牛乳飲もう!


「……気を取り直して次にいきましょう」


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もしかしてまお様の隠し子だったりします? 

まお様とはどのような関係ですか!?


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 :ウェディングイラスト出してたし子供いてもおかしくないか

 :草

 :結婚どころか出産まで!?

 :たしかに並んだら親子に見えなくもない

 :誰の子よ!?


「隠し子ではありませんが……。いちおうわたくしのお母様はSILENT先生、という話ではないですよね。まお様はわたくしの憧れの魔王様で優しく……、たしかにお母様のようなところもあるかもしれません……今回の配信についてもつきっきりで色々アドバイスを頂きました。しかし同期ですからいつまでも甘えるわけにもいきません。まお様に相応しく並び立てるようになりたいと思っています」


 :てぇてぇ

 :さすまお

 :ママー!!

 :リーゼはまおが育てた(後方腕組)

 :後方腕組ニキ何者だよ


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推しが頑なにビーム撃ってくれません。

どうしたら撃ってくれると思いますか?

悩みすぎて夜と昼にしか寝れません

ご飯も三食におやつしか喉を通らなくて……


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 :草

 :ビーム難民がこんなところにも

 :昼寝とおやつ増えてて草


「いたって健康的ではありませんか、貴方の推しがどなたかは存じませんがこれからも気を強く持って耐え続けるしかないと思います。わたくしからも機会があればお願いしておきますので」


 :草

 :存じませんが(存じてる)

 :これはあの配信見てますね

 :難民仲間やんけ

 :存じないのにお願いできるのか(困惑)


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まお様デビュー配信振り返りコメントでの参加おつかれさまでした。 

やはりデビューから知っていたのでしょうか?

その時と今で印象に違いはあったりしますか?

あとまお様とコラボするなら何がしたいですか?


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「昨日の配信から知っていただけたのでしょうか、ありがとうございます。えぇ、まお様はデビューの時から知っていました。印象……は今も昔も憧れの魔王様というところは変わらないですね。でも、配信でも時折見せてくださる悪戯っぽかったり可愛らしい面を実際に目の当たりにすると感情を抑えるのが大変ですが……」


 :わかる

 :本人には言わないけどかわいいんだよな

 :晩酌配信とか特にな

 :駄魔王モードほんとすこ


 配信で見て知っていたつもりでも実際にその場面に遭遇するとギャップもあってその破壊力は何倍にも膨れ上がるのだ。そしてそんな姿を見たあとは配信での姿にも重なって見えて無限に相乗効果を生み出していく……なんという幸せなループだろうか。そんな状態で聞く二周年記念ボイスはもう幸せすぎてどうにかなってしまうかと思ったほどだ。


「この前の晩酌配信のまお様はすさまじかったですね。特に最後のセリフは定期的に聞き返したくなるレベルで……。あとセリフといえば皆様先日発表のあった二周年記念グッズのボイスはお聞きになりましたか?まだ聞いていなかったり購入を検討している方がいるならば是非購入をオススメいたします。特にオススメなのが普段プロポーズをするような側に立っているまお様にこちらからプロポーズをする……という夢のようなシチュエーションで……詳しくはネタバレになってしまうので言えないのですがそれはそれは可愛らしいまお様のお声が……。常々まお様からならプロポーズを受けたいと思っていたわたくしですらそんな姿を見せられては心変わりしそうなくらいでした」


 :宣伝助かる

 :デビュー配信で同期のグッズ宣伝は草

 :宣伝は基本

 :姫様早口になってますよ

 :ちょっと買ってくるわ

 :常々プロポーズを受けたいと思っていた……?


 これは……同期であるまお様のグッズの宣伝なのでセーフ……。だと思いたい。


「ええと、コラボは……なんでも大歓迎ですが、そうですね。まお様の歌がとても好きなのでいつか一緒に歌えたらと思います」


 :急に冷静になるな

 :何事もなかったように質問に戻るの草

 :オフコラボしてもろて

 :うたみた出してもろて

 :バチバチにバトってるところも見てみたいな

 :まおにゃんと対談してもらおう


「まだまだマシュマロはありますがそろそろ良い時間なので次で最後にしたいと思います。これからも受け付けているのでまた別の機会を設けますね」


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デビューおめでとうございます!

これからの意気込みとリスナーを虜にする 

とっておきのセリフをリゼにゃんでお願いします!


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 :リゼにゃんきちゃ!!

 :なぜ魔王は猫になってしまうのか

 :これが同期の絆か

 :ナイスゥ!

 :悪戯好きな子猫ちゃんかな?


「まだまだ未熟な魔王見習いですが、皆様と一緒に成長していければと思っています。にゃ」


 :とってつけたようなにゃで草

 :ほらほらもっとリゼにゃんになりきってもろて

 :まおにゃんに負けるな

 :すでにかわいい


 あぁ昨日のまお様はこんな気持ちだったのかなぁと今更これを最後にしたことを後悔し始めている。

 とはいえ自身で選んだ結果である、まお様も最後までしっかりやりきったのだ。わたくしだって……。


「リゼにゃんこれからいっぱいいっぱいがんばるにゃん、……応援してくれるかにゃん?」


 :きゃわわ

 :本気を見た

 :かわいい

 :これはとんでもないですよ

 :一匹くらい持って帰ってもバレへんか

 :応援するに決まってるんだよなぁ


「今日はデビュー配信を見に来てくれてありがとにゃん。これからもリゼにゃんとまおにゃん共々、VKROをよろしくお願いしますにゃん♪」


 覚悟を決めてしまえばあとは精一杯かわいらしい仕草をしながら言葉を紡いでいくだけだ、羞恥も振り切れば楽しくなってくるらしい。最後の挨拶まで引っ張るつもりはなかったのだが、引っ込みもつかずついそのまま続けてしまった。


 :リゼにゃんまおにゃんコンビ誕生だな

 :いい同期ができてまおにゃんも嬉しいだろうな

 :まお様完全とばっちりで草

 :これはまおにゃんも出番増えそうですね


 結果的にまお様も巻き込んでしまったような形になってしまい後が怖い……。でもわたくしも頑張ったのだきっとわかってもらえるはず……多分。


Liese.ch リーゼ・クラウゼ:デビュー配信を見てくれてありがとうございました。……にゃん♪

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