第35話 リーゼデビュー配信①

「今日はデビュー配信を見に来てくれてありがとうございました。これからもわたくしリーゼ・クラウゼと黒惟くろいまお共々、liVeKROneライブクローネをよろしくお願いしますね」


 何回も練習した通りに締めの挨拶を口にし用意されているED画面へと切り替えて……、きちんとそれが流れ終わったのを確認してから少し待って配信終了。マイクとカメラもきちんと切って……、ようやく一息つく。


「ふぅ……」


 Vtuberデビューするにあたって本格的に生活の拠点をこちらに移すべく、事務所からアクセスもよく配信用の防音室もしっかり完備しているマンションに引っ越し一人での生活にも慣れ。


 配信に関してはまったくの素人同然だったが、配信ソフトの扱いもかなり慣れてきた。

 まお様曰く「慣れてきた頃が一番危ない」と、ことさら実感がこもっている言葉を何度も聞いているのでその言葉を肝に銘じておいたほうがいいのかもしれない。


 ともかく、これだけ練習に練習を重ねしっかりと練習の成果が出せているのだ、初めてにしては上々といってもいいんじゃなかろうか。



「どうでしたか?」


 とうとう迎えたリーゼ・クラウゼとしての配信デビュー日、最後の練習ということで画面共有をしてのリハーサルを終え、画面の向こうで見守ってくれていたまお様に声をかける。


 最初は昨日のまお様加入発表配信のようにスタジオでやってはどうかと運営からも言われたのだが、これからは基本的に一人で配信することになるだろうしデビュー配信くらいは一人の力で完遂したいと思い一人での配信に拘らせてもらった。


 そんな思いを相談と共にまお様に打ち明けたところ、このように一対一で配信の練習に付き合ってくれるようになったのだ。

 普段の配信に加え、二周年記念配信に加え加入発表配信と忙しかっただろうに本当にありがたい。


「うん、落ち着いてるし操作もかなり慣れてきてるし本番もその調子なら大丈夫じゃないかな?でも、もう少し……うーん、なんて言ったらいいかな」


 基本的には優しく、それでもきちんと言うべきところはしっかりとアドバイスをくれていたまお様にしては少し珍しく言葉に迷っているようで言い淀んでいるのが気になる。


「気になることは言ってください。その、わたくしも心配になってしまいますし……」

「全然悪い事じゃないんだけどね、少し落ち着きすぎてるというか……。まぁ、最近の新人の子たちはみんなしっかりしてるし……あんまり気にしないで」


 なるほど、まお様の言いたいこともなんとなくわかる。要するに練習を重ねるうちに新人感というかそういうのが薄まっているのであろう。練習のしすぎというのもそういう事を考えると良し悪しなのかもしれない。


「まぁ練習と本番は色々と違うだろうし……、でも取り上げるマシュマロはもう少し冒険してみてもいいかもね?」

「なるほど、そのあたりはもう少しマネージャーとも相談してみます」

「色々アドバイスはさせてもらったけど、一番はとにかく楽しむこと。何があってもいい思い出に……まぁ笑い話にはなるから」


 まお様の言葉に微妙に間があったのは昨日のアレだろう。

 わたくしは言うまでもなく両方愛せる自信があるのだが。


「わたくしはまおにゃん好きですよ?」

「リーゼ。……貴女の振り返り配信が今から楽しみね」


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リーゼ・クラウゼ@liVeKROne/9月13日デビュー @Liese_Krause

いよいよ今日はわたくしのデビュー配信です!

緊張していますが立派な魔王になるため皆様の力を貸してください!

皆様の応援が魔力となりわたくしの力になります!!

#リーゼ・クラウゼデビュー配信

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リーゼ・クラウゼ@liVeKROne/9月13日デビューさんがリツイート

SILENT @SILENT_oekaki

頑張って

#リーゼ・クラウゼデビュー配信

pic.loader.com/liese_debut

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【初配信】初めまして!魔王見習いのリーゼと申します【リーゼ・クラウゼ/liVeKROne】


 :待機

 :パワーをリーゼに!

 :たのしみ

 :wkwk

 :いいですとも!


 ふぅ……。と大きく息を吐いてたくさんの文字が流れ続けるコメント欄を見る。

 新人の初配信にしては多すぎるくらいの視聴者数が目に入るがこれはすべて周りの人たち、とりわけまお様がここまで築いてきてくれたおかげだ。

 黒惟まおの同期として、いずれ魔王を継ぐものとして恥ずかしくないデビュー配信を。口にはしていなかったがずっとその思いを胸に抱きながら今日まで過ごしてきた。


 配信ソフト上にはVtuberとしてのわたくしの姿……、リーゼ・クラウゼが不安そうに眉尻を下げている。自分では気づかなかったが不安げな表情を浮かべていたらしい。

 最新のモデルに最新の技術が盛り込まれているそれは従来よりも感情表現が豊かであると説明を受けていたが不思議なものだ。


 自身と同じ銀髪は青いリボンによってツインテールに結ばれていて、その細い束は足元に届こうかというほどに長い。ためしに頭を左右に揺らしてみると画面の中のリーゼも同じように頭を振りツインテールも追従して揺れる。その様子を碧眼が追い今度はそっちに意識を向けると画面の中の彼女じぶんと目が合った。

 身にまとっているのは白を基調に青が装飾されたコルセットドレスで肩から胸元にかけては色白の肌が惜しげもなく露わになっている。


 限りなく自分に近いが明らかに自分ではない存在が画面の中にいる、なんだかそれがおかしく思えて笑うと彼女リーゼも笑う。

 その表情を見てよしと頷き、机の上に飾っている黒惟まお直筆サイン入りポストカードへと視線を向け憧れの魔王様の姿を思い浮かべ勇気を貰う。



『むかしむかし、魔界にはとても偉大な魔王様がいらっしゃいました』


 :お?

 :はじまった

 :きちゃ!

 :声かわいい


『彼女はとても美しく魔力も豊富で誰もが彼女こそが最高の魔王であると、いつまでも我らを導いてくれるのだと信じていたのです。しかし、ある時彼女は魔界から忽然と姿を消してしまいます』


 :これってまお様?

 :初期まおの事やろな

 :イラストすごく綺麗

 :もしかしてSILENT先生か?


『それから数えきれないほどの時が経ち……、もはやそんな彼女も伝説の存在となりかけていたとき新たな魔王の娘は見つけてしまったのです』


 :あっ

 :あっ(察し

 :配信者になってました

 :魔王(Vの姿)

 :昨日見た

 :Q.魔王の存在を信じる?A.配信で見た


『まさかこのお方は!?……わたくしも、立派な魔王になるためには人間界で活動しなくては!』


 :えぇ(困惑)

 :そうはならんやろ

 :思い切りがよすぎる

 :魔界の住人来すぎなんだよなぁ


『イラスト、SILENT。動画、黒惟まお。声、リーゼ・クラウゼ』


 :やっぱりSILENT先生やん

 :まお様何してんのw

 :イイハナシダナー



 用意していた動画を流し終わり配信画面が暗転する。

 そして画面にリーゼ・クラウゼの姿が映し出された。


「……聞こえていますでしょうか?」


 :きちゃ!!

 :かわいい

 :きこえてるよー!

 :リーゼちゃんきちゃ


「良かったです。では改めまして……。わたくしliVeKROne所属の魔王見習い。リーゼ・クラウゼと申します。いつの日か立派な魔王になるべく、あの伝説の魔王様のようになれるように精一杯頑張ります。……応援していただけますか?」


 :応援するよ!

 :デビューおめでとー

 :まお様が伝説の魔王ってこと?


「ありがとうございます。こうやってようやく皆様の前に出られて、たくさんの方に見に来て貰えてとても嬉しいです。最初に見てもらったのはわたくしがこちらで活動しようと思ったきっかけを動画にしたもので、SILENT先生もまお様も快く協力してくださいました。本当にありがとうございます」


 :いい出来だった

 :めっちゃ力入ってたね

 :ナレーションも良かったよ

 :思い切りよすぎて笑った


「まお様が伝説の魔王様かどうか本当のところはわたくしにもわかりません。ですが、そんなことは関係なくわたくしにとっては憧れの魔王様なのです」


 :てぇてぇ予感がする

 :伝説の魔王様かと言われると怪しいな……

 :初期まおならワンチャン

 :あれで結構ポンなところあるから……


「ではさっそくわたくしのプロフィールを紹介させていただきますね」


 画面をプロフィール画面へと切り替え、各項目に加えSILENT先生の紹介と共に三面図を表示させる。


「わたくしの配信に映る姿を仕立ててくれたのはおなじみSILENT先生です、自分で言うのもなんですが本当に素晴らしくて……」


 :さすがSILENT先生

 :SILENTマッマ最強!!

 :美人姉妹すぎる

 :まお様とちょうど正反対って感じだよね

 :アクセとかのモチーフ一緒?


「そうです!気付かれている方もいらっしゃるようですが、この胸元の飾りやレース部分にリボンの編み込みなど。まお様とお揃いだったり合わせた意匠があるんです!最初にこのデザインを見た時は本当に姉妹のようで……、いえわたくしなんかがまお様の妹になるなんて恐れ多いのですが。でもこのVtuber業界的にはやはり妹といっても問題はないとは思うのですが……」


 :急に早口になるやん

 :ステイステイ

 :草

 :なるほどね

 :あら~

 :おっ、てぇてぇか?

 :正体表したね


 ……。つい、この姿についてSILENT先生やまお様本人に熱弁するわけにもいかず。まさか他に語り合う相手もいるわけもなく、意識していた部分をリスナーに気付いてもらえた喜びが爆発してしまった。


「こほん……それでは、ここからは皆様からいただいた質問などマシュマロを紹介させていただきますね」


 これ以上はボロを出さないようにしなければ……。

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